今年の大谷翔平はなぜ”特大ホームラン”を連発できる…!? データから見え…

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 異次元の活躍で2年連続の本塁打王獲得も視野に入っているロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手。今季は驚愕の特大本塁打を連発しているが、その本塁打には科学的にどのような秘訣があり、他の選手とどう違うのか。今回は打球速度、打球角度、スイング指標などの数字を駆使して、大谷選手の本塁打の飛距離について分析した。(文:島倉孝之)

 
 7月27日(日本時間7月28日)のヒューストン・アストロズ戦でロサンゼルス・ドジャース大谷翔平選手が打った特大の本塁打に驚かされた人も多いだろう。大谷選手は、7月21日のボストン・レッドソックス戦でも、ドジャー・スタジアムの観客席を飛び越える特大の本塁打を打っている。
 
 今回のテーマは、大谷選手の本塁打の飛距離だ。打球速度や打球角度、さらに今年から明らかになったスイングのデータと合わせ、大谷選手の本塁打の飛距離の傾向を分析していく。
 
 現地時間7月28日終了時点で、2024年の大谷選手の本塁打にまつわる主要な数字は以下のようになる。
 
 ・平均飛距離:418.3フィート(127.5m)
 ・平均角度:29.9°
 ・平均打球速度(初速):108.9mph(時速175.3㎞)
 

 
 ホーム、ロード別には以下の違いがある。全体に本塁打数の多いホームの方が、飛距離は大きく、角度は低く、打球速度は速くなっている。
 
 【ホーム(計18本)】
 ・平均飛距離:425.1フィート(129.6m)
 ・平均角度:29.2°
 ・平均打球速度(初速):109.9mph(時速176.9㎞)
 
 【ロード(計14本)】
 ・平均飛距離:409.7フィート(124.5m)
 ・平均角度:30.8°
 ・平均打球速度(初速):107.7mph(時速173.3㎞)
 
 飛距離の分布につき正規分布を用いてグラフにすると次のようになる。






圧倒的パワーゆえに打球角度は関係なし…?

 
 米分析サイト『Baseball Savant』による、今季の大谷選手の本塁打の飛距離上位5位の内容は以下のようになる。標高が高いため打球が伸びやすいクアーズ・フィールドで打った6月18日の本塁打を除き、全てドジャー・スタジアムで記録したものだ。
 

 
 打球角度は24~30°の範囲にあり、5本中4本がセンター方向への、5本中3本が左投手からの本塁打である。上位2本の飛距離は、7月28日終了時点で、MLB全体でも2024年の2位、3位タイである。

 
 上記の本塁打に関するバットスピード(スイングの速度)やスイング軌道距離(スイングの大きさ)の数値は以下のようになる。これらのデータは検索可能なデータベース化がされていないため、MLB公式HPの記録映像の数値から引用した。5月5日の本塁打に関するデータは確認できなかった。
 

 
 7月28日終了時点で、大谷選手の平均バットスピードは75.8mph(時速122.0㎞)、スイング軌道距離は7.7ft(2.3m)となっている。以上の本塁打ではバットスピード、スイング軌道距離とも本人の平均より大きく、スイング内容の飛距離への影響を示している。
 
 一方、6月22日の本塁打は、打球角度の小ささが影響して、バットスピードの割に飛距離は上位2本ほどには伸びていない。
 
 では、以下の打球の飛距離はどれくらいだろうか?スイングの速度や大きさは上位だが、角度が46°と大きい。7月25日のサンフランシスコ・ジャイアンツ戦でタイラー・ロジャース投手から打った本塁打だ。打球速度(初速)は時速181.2㎞、スイング速度は時速131.3㎞、スイング幅は2.5mである。

 
 正解は360フィート(125 m)で、大谷選手の今季の本塁打では最短タイだ。スイングや打球速度は飛距離上位の本塁打に匹敵するのに、角度が変わっただけで飛距離が短くなる。
 
 逆に言えば、一般に「上がりすぎ」の角度でも本塁打にできるスイング速度があったのだ。角度がもっと大きければいわゆる「通天閣打法」になったかもしれない。








ライバルとの”ホームラン性”の違いとは
 
 「どの球場でも本塁打になる大きな本塁打」とされるランキングをみると、大谷選手はアーロン・ジャッジ選手(ニューヨーク・ヤンキース)と並んでMLB1位だ。『Baseball Savant』では、MLBの全30球場で本塁打になる「No Doubters」の数値が記録され、ランキングされている。
 
 現地時間7月28日終了時点で、大谷選手、ジャッジ選手の本数はともに21本となっている。この時点で、大谷選手の本塁打に対する「No Doubters」の割合は65.6%と、ジャッジ選手(56.8%)を上回っている。
 
 以下、本塁打の飛距離の分布、飛距離と打球速度や打球角度との相関につき、ジャッジ選手との比較を行っていきたい。
 

 

 
 打球速度と飛距離の相関を比較すると、大谷選手の方が、低い打球速度でも飛距離を伸ばし本塁打にする傾向がみられる。
 

 
 打球角度と飛距離の相関を比較する。大谷選手の場合、前述のように45°を超える角度で本塁打にする例もあるとはいえ、全般に小さい角度で飛距離を伸ばす傾向がある。これに対し、ジャッジ選手の場合は大きい角度で飛距離を伸ばす本塁打も目立ち、打球角度と飛距離との相関はあまりない。
 
 
 
 MLBでは現在、打球速度、打球角度、飛距離といった本塁打に関する基本的な情報が完全にデータベース化されている。今年からはスイング内容も数値化された。スイング内容のデータベース化も含めてデータが詳細化されれば、今回とは違った視点の分析ができ、MLBの楽しみ方も広がるだろう。
 
 このターゲットの中心となる選手の1人が大谷選手だ。まだ30歳の同選手には技術面の進化の余地を残している。この進化が、データ分析の進歩により深く解明されることで、対応するチーム戦略の進化と合わせて、今まで気づかない新たな楽しみがもたらされるはずだ。



 
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【了】