第45回将棋日本シリーズJTプロ公式戦は準々決勝がスタート。8月3日(土)には永瀬拓矢九段―稲葉陽八段の一戦が福岡県福岡市の「福岡国際センター」で行われました。対局の結果、序盤から1筋に飛車を回る奇策を披露した稲葉八段が147手で勝利。混戦の終盤を抜け出してベスト4一番乗りを決めました。

意表の一間飛車

振り駒で先手となった稲葉八段は初手から3手連続で左右の端歩を突く意表の策を見せます。早々にすべての実戦例を離れた進行ながら、これは稲葉八段の予定の進行。1筋に飛車を回り、俗に言う「一間飛車」の形から力戦調の空中戦に持ち込むことに成功しました。

盤上は第二次駒組みに入り、すぐに稲葉八段の想定局面からも外れます。形勢は中住まいの堅陣を残す永瀬九段の模様がよいものの、ここから稲葉八段が徐々に力を発揮。決め手を与えぬよう局面を複雑化しつつ、遊び駒の左銀を丁寧に美濃囲いにくっつけたのがその準備です。

二転三転の終盤戦

盤上中央で3度目の飛車交換が行われたのをきっかけに稲葉八段が動きます。手にした飛車を後手陣に打ち込めば駒得が確約された形で、実戦はここから後手の反撃をいかに押さえ込めるかが焦点に。稲葉八段勝勢で迎えた終盤戦に大きな山場が待っていました。

両者秒読みの状況で永瀬九段も勝負手を繰り出します。6筋の歩を突いて玉の逃げ道を作ったのが実戦的な粘り方で後手玉は急に寄せづらい形に。泥仕合にもつれ込むかに思われた戦いですが、ここで永瀬九段の守りの穴をうまく突いた稲葉八段が再度抜け出します。

稲葉八段が準決勝へ

4筋に銀を打って王手したのが寄せの拠点を築く素朴な好手。直後に自陣に引き付けた馬の守備力との連携で再逆転の見込みが低くなりました。終局時刻は17時34分(15時57分対局開始)、最後は自玉の詰みを認めた永瀬九段が投了を告げて熱戦に幕が引かれました。

勝った稲葉八段はこれでベスト4に一番乗り。10月12日(土)に大阪府大阪市の「Asueアリーナ大阪」で行われる準決勝では渡辺明九段―豊島将之九段戦の勝者と対戦します。

水留啓(将棋情報局)

  • 前々回にはベスト4に進みながらも藤井聡太JT杯覇者に敗れた稲葉八段、初の決勝進出なるか

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