ジーザス&メリー・チェインが語るデビュー40周年の現在地とフジロック「日本に行くのは最高の経験」

現代のオルタナティブやシューゲイザーなどの音楽シーンに多大な影響を与えてきたUKロックの重鎮ザ・ジーザス&メリー・チェインがフジロックで日本のステージに立つ。

デビュー40周年という大ベテランでありながら、最新アルバム『Glasgow Eyes』は全英チャート7位という、『Darklands』(1987年)以来最高のポジションを獲得。イギリスとヨーロッパからツアーを開始し、熱気に包まれた状態での日本上陸となる。

ボーカリストのジム・リードにフジロックに向けての抱負、ニュー・アルバムの音楽性、兄ウィリアムとの関係などについて話してもらった。

―『Glasgow Eyes』のヒット、おめでとうございます。

ジム:どうも有り難う。それにどれだけの意味があるかは判らないけどね。今はストリーミングの時代だし、テイラー・スウィフトと並んでいたり、もうチャートというものが何を意味するのか理解を超えている(苦笑)。まあそれでもおそらく大勢の人がアルバムを聴いてくれているということで、とてもハッピーだよ。

―4月にアルバムに伴うツアーを開始していますが、ファンは新しい曲にどのように反応していますか?

ジム:すごく盛り上がってくれているよ。「Venal Joy」みたいなアップテンポ・ナンバーだけでなく、「Pure Poor」のようなスローでどんよりした曲でも熱い声援が返ってきた。「Chemical Animal」も終わってみるまでウケているか判りづらい曲で、声援が上がるかみんな白けているか一瞬ヒヤリとするけど、大概ポジティブな反応があったね。

―あなた達はこれまで長いキャリアであらゆる音楽性のアーティストとステージを共にしてきましたが、2024年4月18〜21日、オランダの”ロードバーン・フェスティバル”ではカネイト、チェルシー・ウルフ、ブラッド・インカンテイションなどという異色のラインアップと一緒に出演しました。彼らのことは知っていましたか?

ジム:チェルシー・ウルフの名前は聞いたことがあったけど、どういう音楽かは知らなかった。フェスで楽しいのは、お目当てのバンドだけでなく、新しい音楽に触れられることだね。メリー・チェインを初めて聴いて、ファンになってくれる人もいるかも知れない。単独ツアーでは自分たちの音楽を知っているお客さんが来るから安心感があるけど、フェスで演奏するチャレンジも楽しんでいるよ。

―新作は非常に多彩で、「Venal Joy」「Jamcod」のようなエレクトロニックでフューチャリスティックなナンバーから「Discotheque」みたくギターがたくさん入った、ある意味最も”ディスコテック”というタイトルが似合わない曲まで、あらゆるタイプの曲が収録されています。どんなアルバムを作ろうと考えたのですか?

ジム:事前にあれこれ考えたりしないんだ。新しいメリー・チェインのアルバムを作ろうと、インスピレーションに身を任せるんだよ。これまでにもドラム・マシンやシンセを取り入れてきたけど、今回はその割合が増した。でもそれは意図したわけではなく、スタジオに入ったときのムードだったんだ。まずギターを手に取るのではなく、ドラム・マシンを起動させるのが日常的な作業パターンだった。過去とは異なる、新鮮なアプローチを取りたかったんだ。

―2019年の来日公演の前にインタビューしたとき、新作用のアイディアがいくつかあると話してくれましたが、『Glasgow Eyes』が完成するまでにどんな経緯があったのですか?

ジム:アルバムの曲は2019年に書き始めて、スコットランドのスタジオに入った。数曲レコーディングしたところでコロナ禍に突入して、それがやや落ち着いてきたところで、延期になっていた『Darklands』再現ツアーの振替公演をやって、それで1年ぐらいかかったんだ。そうこうするうちにレーベルの”ファズ・クラブ”に「新しいアルバムはまだ?」と催促された。それでデータを聴き直そうとしたら、ファイルが見つからないんだ! スタジオのスタッフに問いただしたら、どうやら間違って消去してしまったらしい。

―......それは大変でしたね。

ジム:まだ完成テイクにはほど遠かったけど、一時はガックリ来たね。まあ仕方ないから去年(2023年)の初めからレコーディングし直したんだ。結果として消去される前のオリジナル・テイクより良い仕上がりになったと思う。

兄ウィリアムとの関係、地元グラスゴーへの思い

―解散期間を経て2007年にライブを再開したものの「同じスタジオでウィリアムと顔を合わせていられるか自信がない」という理由で『Damage And Joy』(2017年)を発表するまで10年を要しましたが、現在は彼との関係は良好ですか?

ジム:完璧な関係の仲良しになることはもうないだろうけど、お互いの顔面にパンチを入れずにアルバムを作れるし、大きな問題を起こさずにツアーを出来る程度には良好だよ。そりゃまあスタジオでは怒鳴り合いになることもあるけど、それはいつものことだ。何とかバンドとして機能している。

―『Glasgow Eyes』はタイトルや歌詞、曲調などに深読みが求められ、長年のファンにとっても”判りやすい”アルバムではないように覆えます。

ジム:どのアルバムについても言えることだけど、メリー・チェインの音楽は誰もが好きになるタイプではないし、気に入らない人もいるだろう。俺たちにとっては作らねばならない作品だし、楽しんでくれれば嬉しいし、そうでなければ仕方ないよ。

―アルバムの音楽は素晴らしいもので何回も繰り返し聴いていますが、「どういうことだろう?」というクエスチョンがいくつも浮かびます。そもそも『Glasgow Eyes』というタイトルはどんな意味で、何を指しているのだろう?とか。もちろんバンドがグラスゴー出身で今回グラスゴーでレコーディングを行ったことは知っていますが、常々「グラスゴーの音楽シーンへの帰属意識はない」と発言してきたのに何故、今になってあえてタイトルに冠したのは何故でしょうか?

ジム:うん、俺たちは音楽的にグラスゴーのローカル・シーンと接点がなかったけど、グラスゴーで生まれ育ったという事実は変わらない。グラスゴーの音楽シーンにはクソ酷い目に遭ってきた。ライブのブッキングも出来ず、デビュー・ギグはロンドンまで行かねばならなかったんだ。その後すぐに出ていったよ。それでもグラスゴーが俺とウィリアムの故郷であることは変わりがないし、世界中どこにいても忘れることがないよ。今回はグラスゴーのスタジオにいて、自分たちの原点をタイトルに刻み込もうということになったんだ。アルバムのジャケット・アートはウィリアムがデジタルで描いたものだけど、誰かの顔の両目が消されているのを見て、俺が”Glasgow Eyes”というフレーズをふと思いついた。それがそのままタイトルになったんだ。自分でもどういう意味か判らないけどね(笑)。

―「Jamcod」という曲タイトルはJesus & Mary Chain Overdoseの略でしょうか?

ジム:その通り、正解を言ったのは君が最初だよ。”ジェイ・エー・エム・シー・オー・ディー”と歌詞にあるのに、みんな”ジャム・シー・オー・ディー”と読んでいるんだ。批評家が曲を最後まで聴きやしないことが判るね(苦笑)。この歌詞は1998年にロサンゼルスのステージ上でバンドが崩壊した夜のことを描いている。殺し合いにまで発展しそうで、ドラッグにオーバードーズするのではなく、メリー・チェインという存在そのものにオーバードーズしてしまうことを歌っているんだ。”ハウス・オブ・ブルース”での出来事だったから、当初タイトルは「Blues Blues」にしようかと考えていたんだ。

―「Hey Lou Reid」でアルバムを締め括りますが、1990年代にどこかのフェスティバルのバックステージでルー・リードと会う機会があったのに辞退したそうですね。彼はインタビュー記事などでクセの強い人間であることが広く知られていますが、自分のヒーローと会うと夢が壊れる可能性があると躊躇したのでしょうか?

ジム:うん、ルーも俺たちも名字の発音が”リード”だし、Reed家からReid家に婿入りしてもらったんだ(笑)。それだけでなく、もっと複雑な心理が絡んでいたんだけどね。俺は信じられないぐらいシャイな人間なんだ。自分のヒーローには会う前から幻想が膨らんでいるから、それが実現すると、必ず絶望することになるんだよ。1980年代にイギー・ポップのサポート・アクトを務めたことがあって、扱いがとにかく酷かった。そのせいで数年間イギーの音楽を聴くことも出来なかったよ。そんな悪い思い出があるから、臆病になっているのかもね。まあ実際、ルーと会わなかったことは後悔しているよ。クランプスとアメリカで数回ショーをやったことがあるけど、彼らから話しかけられなかったし、こちらから話しかけることもなかった。楽屋が一緒だったときも、俺たちがこっちの隅っこ、彼らが反対の隅っこにいたりね(苦笑)。どれだけシャイだったんだよ!と、過去の自分に蹴りを入れたいね。クランプスがいなかったらメリー・チェインが存在していたかすら判らない。「New Kind Of Kick」をカバーしたり、大ファンだったんだ。

―「The Eagles And The Beatles」オープニングのリフとドラム・ビートはジョーン・ジェットなどで知られる「I Love RocknRoll」を思い起こさせるものですが、あなた達が「I Hate RocknRoll」を長年プレイしてきたことを考えると興味深いです。

ジム:ははは、言われてみると確かにね。「The Eagles And The Beatles」はウィリアムが中心になって書いた曲だけど、一度も「I Love RocknRoll」が話題に出たことがなかったし、まあ、偶然だと思うよ。

―「The Eagles And The Beatles」の歌詞にはザ・ローリング・ストーンズ、ボブ・ディラン、ザ・ビーチ・ボーイズらが登場しますが、タイトルにあるイーグルスには言及がありません。それは最初からなかったのか、あるいは途中でカットしたのですか?

ジム:俺の知る限り、イーグルスについては最初から歌っていなかったよ。「The Eagles And The Beatles」は俺たちの少年時代についての歌なんだ。ウィリアムはザ・ビートルズから入って、スモール・フェイセズなどを聴くようになった。「ストーンズとつるんだ」とか、10代の頃の彼が抱いていたファンタジーだよ。さっきも言ったとおり俺たちは世界で最もシャイな人間たちだから、本当にザ・ローリング・ストーンズから声をかけられたら家具の裏に隠れてしまうだろうな(苦笑)。

―メリー・チェインというとパンク以後のバンドという感覚がありますが、歌われているのはオールドスクールなアーティストが大半ですね。

ジム:ああ、俺たちの子供時代、パンクに目覚める前に聴いていたバンドについて歌っているんだ。パンクを聴いていた頃の思い出は次のアルバムで歌うようにするよ(笑)。

―ザ・ローリング・ストーンズは現在もツアー中ですが、メリー・チェインもデビュー40周年を迎えました。あなたもミック・ジャガーのように80歳になって歌っている自分の姿を想像できますか?

ジム:ウーン、ミックほど健康に気を遣っていないし、それは無理じゃないかな?.....とは言っても20代の頃にも「ストーンズのように40代になっても活動していますか?」と訊かれて「絶対不可能」とか言っていたから、人生何があるか判らないよ。音楽を楽しむことが出来て、俺たちを見に来てくれるお客さんがいるうちは、ライブを続けたいね。もう続ける意味がなくなったら、ギターを置いて隠居するよ。

フジロックと日本への特別な想い

―2024年の時点で『Glasgow Eyes』がヒット、フジロックを含む世界中のライブ・イベントに招かれるなど、隠居するのはまだ先のようですね。あと2回ぐらいツアーをしたらもうデビュー50周年もすぐですが、これだけ長いあいだ支持されてきた原因は何だと考えますか?

ジム:途中で活動休止期間を置いたことがプラスに働いたと思う。多くのバンドはずっと活動を続けて、自分たちが何故音楽をやっているのか忘れてしまうんだよ。時にはふと足を止めて、周囲を見回してみることも大事なんだ。自分が音楽をやろうと考えるに至ったレコードを聴き返してみたりね。アルバムを作るのは、自分たちが本当にそう望むときだ。レコード会社にせっつかれたり、「そろそろ新作を出すべきだから」というのでは、モチベーションが上がらないよ。『Munki』(1998年)から『Damage And Joy』(2017年)まで時間が空いたのには、必然性があったんだ。再結成してすぐ新作を出していたら、良いものにはならなかっただろう。

―フジロックでのステージはどのようなものになるでしょうか?

ジム:初期から『Glasgow Eyes』まで、バンドのあらゆる時期を網羅するショーになる。新作からは7曲リハーサルしていて、そのうち4、5曲プレイするつもりだ。これまで世界中のフェスでやってきて、みんなが最も盛り上がって、自分たちも楽しめる曲をプレイするつもりだ。スコットランド出身の男たちが興味深いロックンロールを演奏するショーだ。ノエル・ギャラガーとか他のアーティストを見に来た音楽ファンにとってもエキサイティングなものになるよ。

―ところでメリー・チェインの自伝本はいつ頃刊行されそうでしょうか?

ジム:テキストは完成していて、8月に出ると言われていたけど、延期になったみたいだ。おそらくクリスマス・シーズンまでには出ると思うよ。いわゆる自伝ではなく、ウィリアムと俺が別々にインタビューを受けて、それをまとめた本になる。たまに同じ出来事でも両者の意見が異なっていたりして面白いよ。俺は当時のことはよく覚えているし、事実を知りたかったら俺の話を読んだ方がいい(笑)。1998年、最初の解散までの出来事でいったん終わるんだ。もし好評だったら続編で再結成後の話も出せるかも知れないね。

―2023年にライブ・アルバム『Sunset 666』を発表しましたが、何故このタイトルにしたのですか?

ジム:再結成してから(2018年)のライブをレコーディングしたんだ。タイトルを『Live At Hollywood Palladium』とかではなく、何か気の利いたものにしたかった。2カ月ぐらいああでもないこうでもないと言い合って、結局これに落ち着いたんだ。何故”666”だったのか、自分でも判らない。悪魔に取り憑かれていたのかもね。

―「Girl 71」の日本語を使ったビデオは日本のファンにとって嬉しいプレゼントでもあります。フジロックを楽しみにしています!

ジム:日本に行くのはいつだって最高の経験だよ。「Girl 71」のビデオで何と書かれているかまったく読めないし、”この男はバカです”と書いてあるかも知れないけど、クールなアイディアだと思った。うちの娘もマンガや日本の文化が大好きで、俺にも『進撃の巨人』や『カウボーイビバップ』『ベルセルク』を読ませようとするんだ。何十冊もあるからなかなか手が出なくてね。今回も一緒に日本に来たいと言ってきたけど、1回だけのショーですぐ帰ると答えたら、今度単独ツアーで行くときに連れていけと言われた。だからきっと来年ぐらいにもう一度ジャパン・ツアーをやることになるよ(笑)。

ジーザス&メリー・チェイン

『Glasgow Eyes』

発売中

詳細:https://bignothing.net/thejesusandmarychain.html

FUJI ROCK FESTIVAL'24

2024年7月26日(金)27日(土)28日(日)新潟県 湯沢町 苗場スキー場

※ジーザス&メリー・チェインは7月28日(日)出演

公式サイト:https://www.fujirockfestival.com/