藤井聡太王位に渡辺明九段が挑戦する伊藤園お~いお茶杯第65期王位戦七番勝負(主催:新聞三社連合、日本将棋連盟)は7月6日(土)・7日(日)に愛知県名古屋市の「徳川園」で開幕。千日手指し直しにもつれ込んだ熱戦は、最終盤の逆転により136手で藤井王位が勝利。開幕戦を制して防衛に向け好スタートを切りました。

策士の千日手

藤井王位の永世資格が懸かる七番勝負は、振り駒で後手番となった渡辺九段の趣向でスタート。左美濃に組んで早繰り銀の仕掛けを封じたのがうまい工夫で、渡辺九段はその後も巧みに右玉に組み、争点を与えません。結局、2日目の15時44分に千日手が成立しました。

持ち時間を藤井王位より多く残し、首尾よく先手番を得た渡辺九段は軽快な指し回しでリードを奪います。相掛かりの空中戦から角を打ち込んだのが決断よい踏み込み。その後8筋に回った飛車との協力で左辺から敵陣突破を果たします。藤井王位はこの局面を局後「粘りも難しくなった」と評しました。

勝利は目の前に

渡辺九段優勢のまま終盤戦へ。ジリ貧と見た藤井王位は竜切りの勝負手で敵玉を見える形にして、局面を突然の最終盤勝負へと持ち込みます。渡辺九段はこの勝負手に焦りつつも正しく対応します。王手ラッシュを恐れず玉を一段目に逃がした手が好手。この瞬間「敵玉は詰めろ、自玉に詰みなし」の勝利の方程式が完成しました。

ともに最後の一分を使い切りますが、藤井王位はどの攻め方を選んでも負けと悟りつつ時間に追われるまま着手するもの。対する渡辺九段は勝ちを確信しており前向きな時間の使い方です。藤井王位が王手竜取りをかけた手は最後の形作りかと誰もが思いました。

まさかの結末

落とし穴は渡辺九段のウイニングランが始まる直前に潜んでいました。王手竜取りに玉を引いておくのが明快な下準備で、これなら藤井玉への詰み筋は簡明。実戦の玉上がりでも先手勝ちながら、手順に馬筋が後手陣へ通ることで藤井玉への詰み筋は盤面全体を使った難解な手順に切り替わっています。

従来の詰み筋ではうまくいかないことに気づいた渡辺九段ですが、秒読みの中で立て直すのは至難の業でした。終局時刻は21時13分、手順中わずかに難しい局面がありながらも再逆転には至らず、最後は藤井玉への詰みなしを認めた渡辺九段が投了。

九死に一生を得た藤井王位はこれで永世王位資格に向け好スタート。渡辺九段の先手番で迎える第2局は7月17日(水)・18日(木)に北海道函館市の「湯元 啄木亭」で行われます。

水留啓(将棋情報局)

  • 藤井王位は「結果は幸いしたが内容は反省するところが多かった」と謙虚に振り返った(写真は第64期王位戦七番勝負第3局のもの 提供:日本将棋連盟)

    藤井王位は「結果は幸いしたが内容は反省するところが多かった」と謙虚に振り返った(写真は第64期王位戦七番勝負第3局のもの 提供:日本将棋連盟)