稲葉流の多彩な振り飛車戦術

後手となった稲葉八段は4手目に三間飛車の作戦を明示。今年度に入ってから稲葉八段は四間飛車(A級順位戦)、ゴキゲン中飛車(棋王戦)と幅広い作戦を採用しています。実戦は後手の銀上がりに反応した伊藤叡王が4筋の歩を突き、早くも右辺で戦いが起こりました。

機敏な仕掛けで敵陣に竜を作った先手の伊藤叡王ですが決め手を欠きます。自陣角を打って後手の飛車に狙いをつけたのは早指し棋戦らしい決断の一手ながら局後「(角が)働かずにペースをつかまれた」と振り返ることに。実戦は稲葉八段の豪快なさばきが火を噴きます。

振り飛車党顔負けのさばき

狙われた飛車をズバっと切り飛ばして角を手にしたのが振り飛車党顔負けのさばき。直後に打った角を馬にして自陣に引き付け、稲葉八段は盤面制圧に成功します。優位に立った局面でじっと自玉を美濃囲いに収めたのも玄人好みの一手。先手に早い攻めがないのを見越しています。

1手30秒の秒読みでも稲葉八段の指し手は乱れませんでした。最後はズバっと馬を切って先手玉を呼び寄せたのが「終盤は駒の損得より速度」の決め手。終局時刻は17時48分(対局開始16時3分)、詰みを認めた伊藤叡王の投了で稲葉八段の初戦突破が決まりました。

全体を振り返ると、早々の仕掛けで主導権を許した稲葉八段が決め手を与えず徐々に差を詰め、最後は安定感ある指し回しで盤石の着地を決めた好局となりました。稲葉八段は8月3日(土)に福岡県で行われる2回戦にて永瀬拓矢九段と顔を合わせます。

水留啓(将棋情報局)

  • 稲葉八段は「封じ手のあたりは自信がなかったが駒がさばけてよくなった」と振り返る

    稲葉八段は「封じ手のあたりは自信がなかったが駒がさばけてよくなった」と振り返る