起業を決意した時、最も気になるのがお金の問題ですよね。起業するにはどれくらいの費用がかかるものなのでしょうか。ここでは、起業にかかる費用の相場を解説します。起業費用の内訳や法人と個人事業主の費用の違い、起業資金を調達する方法についてもご紹介していますので、起業に必要な費用を把握するのにお役立てください。

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■起業にかかる費用の平均値は1,027万円、中央値は550万円

<開業費用の平均>

起業には多くの資金が必要というイメージがありますが、実際に起業した人はどれくらいの資金で事業を始めたのでしょうか。日本政策金融公庫総合研究所の「2023年度新規開業実態調査」によると、開業費用の平均値は1,027万円、中央値は550万円です。

開業費用の分布を見てみると、「250万円未満」が20.2%、「250万〜500万円未満」が23.6%で、全体の4割以上が500万円未満で開業しています。一方、「1,000万〜2,000万円未満」(18.8%)や「2,000万円以上」(9.0%)の割合は年々減少傾向にあり、全体としての開業費用も下がってきています。

これらの要因としては、テレワークの普及によるオフィス縮小や、自宅などで働けるフリーランスとしての起業が増えたことなどが影響しているのでしょう。低資金で事業を始める起業家が増えたことで、全体的な開業費用も減少傾向にあると考えられます。

<開業時に必要な費用>

開業時には、主に「設備にかかる費用」と「運転資金」が必要です。それぞれの費用の内訳を確認してみましょう。

・設備にかかる費用

設備にかかる費用は業種によって異なりますが、店舗や事務所を借りる事業の場合、テナントの賃料や敷金・礼金、保証金、仲介手数料などの初期費用が発生します。また、水回りなどのリフォームが必要な場合、その工事費も確認しておきましょう。

さらに、事業に必要な機器や設備の費用もかかります。看板や事務用品、店舗用の什器、備品などさまざまな機器や設備が必要です。電話やインターネットなどの通信回線の工事が必要な場合は、その費用も確認しましょう。

・運転資金

運転資金とは、家賃や光熱費、仕入れ費、通信費、外注費、広告費など事業を行うために継続的にかかる費用のことです。通常の取引では、まず仕入れ費や経費などの支払いが発生し、その後に売上高が回収される流れになります。つまり、これらの支払いに対応するための資金を「運転資金」として準備しておかなければならないのです。

開業してもすぐに事業が軌道に乗るとは限らず、取引先の締め日によっては、売上が出ても現金が入るまでに時間がかかることもあります。入金がなくても経費の支払いは発生するため、現金が不足しないよう備えておくことが重要です。

運転資金は、一般的には3ヶ月分程度は用意しておきましょう。ただし、飲食店など売上がなくても仕入れ費が出ていくような業種なら、6ヶ月分程度あると安心です。

「設備にかかる費用」と「運転資金」については、内訳や金額、資金調達の方法などを明確にした資金計画を立て、実際に起業する時いくら必要になるのか把握しておきましょう。

自分一人で判断できない場合は、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。税理士は、起業の際の資金調達や事業計画のサポートを行うことがあるため、業種ごとの開業費用の相場や実態についても詳しいです。特に、正確な開業費用を知りたい方は、税理士への相談を検討してみましょう。

<費用をかけなくても起業は可能? >

起業を検討している人の中には、起業資金がない方もいるかもしれません。事業内容にもよりますが、起業資金がなくても起業できる場合があります。

日本政策金融公庫総合研究所の「2023年度起業と起業意識に関する調査」によると、費用をかけずに起業した起業家は全体の30.1%にのぼりました。また、起業時に金融機関から借り入れをしなかった起業家の割合は83.1%でした。

ただし、起業資金がなくても起業できるかどうかは事業内容が大きく影響します。まずは資金計画を立て、起業時に資金が必要となれば自己資金を貯めることも考えましょう。

■費用の相場は個人事業主か法人かによっても異なる

起業時の費用は事業内容によって異なるだけでなく、個人事業主として開業するか法人を設立するかによっても手続き費用が変わります。では、個人事業主と法人、それぞれの起業手続きにはどれくらい費用がかかるのでしょうか。

<個人事業主として開業する場合の費用>

個人事業主として開業する場合、必要な手続きは税務署への「開業届の提出」のみです。その際、事務手数料などは発生せず、無料で提出できます。また、開業届と一緒に出すことの多い「青色申告承認申請書」も、同じく提出には費用がかかりません。

それに、開業届、青色申告承認申請書ともに税務署へ足を運べば無料で用紙をもらえますので、用紙代・印刷代もかかりません。自宅で印刷して郵送する場合のみ、用紙代や印刷代、郵送代がかかりますが、数百円程度で済みます。

会社設立のような税金や資本金も必要ないため、個人事業主の場合、開業手続きだけであればほとんど費用はかかりません。

<会社を設立する場合の費用>

一方、法人を設立する場合は登録免許税や定款の認証手数料などが必要で、起業の手続きには最低でも10万円程度の費用がかかります。ただし、法人には以下のような種類があり、会社の形態によって法人設立にかかる費用は異なります。

・株式会社
・合同会社
・一般社団法人
・一般財団法人
・NPO法人

初めて会社を設立する場合、株式会社か合同会社のどちらかを選択するのが一般的です。そこで、株式会社または合同会社を設立する際にかかる費用をご紹介します。

・株式会社

会社の形態として最も一般的な「株式会社」の設立費用は、「約25万円+資本金」です。会社を設立する際に必ず必要な「法定費用」の種類と費用は、以下の通りです。

公証人に支払う定款の認証手数料: 約5万円
定款に貼る収入印紙代: 4万円(※)
登記時に必要な謄本の発行手数料: 約2,000円(1ページ250円)
登録免許税: 15万円または資本金の0.7%の額のどちらか高い方

これらの法定費用に加え、株式会社の場合は「資本金」を用意する必要があります。会社法においては、1円の資本金でも株式会社は設立できます。しかし、資本金が極端に少ないことから、信用力を示せず融資を受けにくいなどのデメリットがあり、一定額は準備したほうが無難です。

金額は事業によって異なりますが、目安として「初期費用+3ヶ月分の運転資金」を資本金として用意しておくことをおすすめします。

これらの他には、会社の実印を作る費用、個人の印鑑証明書取得費、登記簿謄本の取得費などの雑費が1万円程度かかります。さらに、会社設立を専門家に依頼するとその費用がかかります。たとえば、司法書士に設立登記申請の手続き代行を依頼する場合、費用の相場は5万〜15万円です。

・合同会社

合同会社とは、出資者と経営者が同一の会社形態で、株式会社と比べて設立費用やランニングコストが抑えられるというメリットがあります。合同会社の設立にかかる費用は、「約10万円+資本金」が目安で、法定費用の内訳や金額は以下の通りです。

定款に貼る収入印紙代: 4万円(※)
登記時に必要な謄本の発行手数料: 約2,000円(1ページ250円)
登録免許税: 6万円または資本金の0.7%の額のどちらか高い方

株式会社と設立の費用を比べると、合同会社は登録免許税の額が低く、公証人に定款認証してもらう必要がないところも異なります。資本金やその他の費用については、株式会社と同じ考え方です。

株式会社と合同会社には制度面でいくつか違いがありますが、最も大きな違いは「株式を発行できるかどうか」です。株式を発行して資金を集めたい場合は株式会社として起業する必要がありますが、その必要がない場合は合同会社でも問題ありません。

それに、合同会社のほうが設立の手続きが簡素で費用が抑えられ、経営の自由度も高いというメリットがあります。その反面、株式会社と比べると社会的信用度が劣る点はデメリットです。

設立の手軽さや費用の安さを考えれば合同会社に軍配が上がりますが、実際にどちらで起業するかは、それぞれの内容やメリット・デメリットをよく見比べて決めましょう。

(※)電子定款認証を行う場合は不要

■起業する時の主な資金調達方法4つ

資金がなくても起業できる場合もありますが、一方で、起業時に数百万円単位、場合によってはそれ以上の資金が必要になることもあります。最後に、起業時の主な資金調達方法を見てみましょう。

1.自己資金

自己資金を起業に充てることは、基本的な資金調達の方法です。自己資金を準備するには、預貯金や退職金、生命保険の解約、株式や不動産の売却などの手段があります。

自己資金はトラブルになりにくく返済の必要もありませんが、万が一事業がうまくいかなかった場合は個人資産を失ってしまうリスクもあります。

2.融資

日本政策金融公庫や信用保証協会、金融機関などからの融資も、資金調達の方法としてよく活用されています。融資を受けるにはまず事業計画書を作成し、各窓口での相談や面談などを経て、審査をクリアしなければなりません。

金融機関からの融資は審査が比較的厳しく、融資までに時間を要する傾向があり、日本政策金融公庫は融資までの期間が短いという特徴があります。個人的な借り入れなどと違い経営への介入やしがらみがない点はメリットですが、後述する補助金や助成金、出資などと違い返済義務があり、金利負担も発生する点はデメリットです。

3.補助金や助成金

補助金や助成金の多くは、中小企業庁や厚生労働省などの国や自治体から支給されています。いずれも申請や審査が必要で、一定の資格が求められる場合もあります。このうち助成金は、要件を満たせば原則的に受給でき、随時受け付けているものが多いです。これに対し、補助金は募集期間や金額、採用件数が限られているものが多く、必ず受給できるとは限りません。

なお、融資とは異なり、補助金や助成金は基本的に返済が必要ありません。利用できる補助金や助成金がないかよく調べ、ぜひ積極的に活用してみましょう。

4.出資を受ける

他にも、個人投資家やベンチャーキャピタルから出資を受ける方法もあります。ベンチャーキャピタルとは、将来的な利益を見込み、新興企業や成長企業に投資する投資会社やファンドのことです。

出資を受けるメリットは、返済が不要な点や、他の投資家や起業家から経営に対するアドバイスが受けられ、人脈が広がる点です。しかし、出資比率によっては経営権を握られたり、経営に制約が出たりする点はデメリットとなります。

また、個人投資家やベンチャーキャピタルは将来的なリターンを期待して出資するため、起業したての頃は期待されているような利益が見込めず、出資を受けるのは難しい傾向にあります。ただし、事業計画によっては起業してすぐ出資が受けられるケースもあります。

■資金計画を立てて起業にかかる費用を把握しよう

起業にかかる費用の平均値は1,027万円ですが、より実態に近いとされる中央値は550万円で、さらには費用をかけずに起業した人も意外と多くいます。ただし、起業にかかる費用は事業内容や起業の形態などに大きく左右されます。まずは自分の事業について資金計画を立て、起業費用がどれくらいになるのか把握しましょう。