第83期順位戦A級(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)は1回戦が進行中。6月19日(水)は2局が行われました。このうち、名古屋将棋対局場で行われた豊島将之九段―佐々木勇気八段の一戦は105手で佐々木八段が勝利。角換わり腰掛け銀のねじり合いを逆転で制して好スタートを切りました。

両者得意の腰掛け銀

先手の佐々木八段は得意の角換わり腰掛け銀に誘導、この戦型特有の間合いの計り合いののち銀をぶつけて千日手模様を打開します。銀交換に応じた後手の豊島九段はこの銀を再度盤上に打ち付け反撃開始。ともに研究範囲内か早いペースで指し手が進みます。

佐々木八段が自陣三段目に玉を上がったのは異形のようでも現代角換わりに頻出の受け。一段飛車との協力で後手の攻めをいなす方針です。左辺で始まった駒の取り合いは互角の駒割で一段落。やり取りのなかで中央におびき出された佐々木玉の行方に注目が集まります。

豊島九段リードも…

一手の価値が重い中盤戦を前に、序盤戦の早いペースから一転して長考合戦へ。やがて手番を得た豊島九段がリードを奪います。敵陣タダのところに銀を打ち込んだのが王手飛車取りを見た意表の捨て駒。手順に7筋に飛車を成り込んで、先手の受け切りの方針を打破することに成功しました。

後手優勢で迎えた終盤に難所が待ち受けます。竜で桂を外したのは次の王手金取りに期待した一手。しかし狙われた金をじっと先逃げしたのが佐々木八段のいい辛抱で、先手玉には妙に取っ掛かりがない形に。豊島九段としては竜が使いづらく、厳しい攻めを繰り出せないのが響きます。

佐々木八段が逆転勝ち

ついに反撃の機会を得た佐々木八段は手筋を駆使して寄せに出ます。歩頭の桂捨てが拠点を作る好手筋で、堅かったはずの豊島玉はみるみるうちに寄り形に。憮然とした表情の豊島九段が秒読みに追われ着手する姿と、前傾姿勢で読みを深める佐々木八段の様子が好対照です。

終局時刻は翌20日(木)0時25分、最後は自玉の受けなしを認めた豊島九段の投了で佐々木八段の逆転勝利が決まりました。全体を振り返ると、盤上中央に誘い出された玉を粘り強い指し回しで右辺まで逃がした佐々木八段の玉さばきが光る一局となりました。

水留啓(将棋情報局)

  • 勝った佐々木八段は豊島九段との対戦成績を2勝4敗とした(写真は第30期竜王戦決勝トーナメントのもの 提供:日本将棋連盟)

    勝った佐々木八段は豊島九段との対戦成績を2勝4敗とした(写真は第30期竜王戦決勝トーナメントのもの 提供:日本将棋連盟)