船員の雇用のマッチングを図ることを目的に、「めざせ! 海技者セミナー」を全国で開催している国土交通省。関東運輸局は6月10日、東京青海で船員を目指す学生らと海運事業者による企業説明・就職面接会「めざせ!海技者セミナー IN TOKYO」を開催した。同セミナーで企業説明会を実 施した海運事業者などを取材した。
■規模拡大で60以上の企業・団体が参加
近年、船員不足への危機感が高まっているなか、関東運輸局では船員を目指す人や船員の仕事に興味がある人へ雇用などの促進を図ることを目的に、「めざせ!海技者セミナー IN TOKYO」を開催。海運事業者等による企業説明や就職面接会を実施している。
6月10日の「めざせ! 海技者セミナー IN TOKYO」には、海運事業者64社・1独立行政法人が集結。予定数を大幅に超えたため、参加企業は抽選の結果、従来の対面参加型に加えて19社がWeb上で参加し、過去開催よりもその規模を拡大して開催された。
主な参加者は船員教育機関や水産系高校など(国立宮古海上技術短期大学校、国立清水海上技術短期大学校、国立波方海上技術短期大学校、国立館山海上技術学校、茨城県立海洋高等学校、千葉県立館山総合高等学校、東京都立大島海洋国際高等学校、神奈川県立海洋科学高等学校)の学生・生徒たち。
退職予定自衛官、大学生、一般求職者らにも門戸を開き、船員に関する知識がない人に向けて、海技資格の取得方法、海技試験の受験や就業活動に関する相談会なども行われた。
静岡県静岡市にある「福寿船舶」は、トヨタグループの海運会社との共有船である自動車運搬船「豊洋丸Ⅲ」の船舶管理などを行っている会社。人材育成に特に力を入れており、陸上でも活躍できる「海技士」レベルまで成長させる方針で、研修による育成制度などを整えているという。
「どういった港に入るかなど、船の行程・スケジュールや休暇中の過ごし方や、キャリアパスに関する免状についての質問が学生からは多いです。当社は長年女性を採用してきた実績もありますし、性別関係なくやる気がある方に興味を持ってもらえたらと思っています」
一般に若年船員の3年以内の離職率は3割とも言われており、より定着しやすい職場環境・働き方の整備も大切な取り組みになっているようだ。「豊洋丸Ⅲ」では生活の場と仕事の場を階で分け、各居室には有線・無線のLANを完備。通信環境を改善し、書庫や女性専用区画も設けている。
「居住空間を広く取っている船で、トイレ・シャワーが各居室に完備していたり、トレーニングジムがあったり、設備は充実しています。船種によっては船員が荷役をする場合も多くありますが、うちは荷物が基本的に商品車なので職場環境も清潔で、各港の専門の業者さんが荷役を担うため、船員が積み降ろしにタッチしないでいい点もアピールポイントだと思います」
■「休暇に関する質問も多い」「内航海運業をより魅力的な産業に」
YouTubeなどSNS発信にも力を入れている「東幸海運」は、2023年に完成した新鋭船「ひかる」など6隻のタンカーを保有し、それらの運航事業を展開している会社だ。YouTubeチャンネルに約160本以上の動画を公開し、リアルな職場の雰囲気を紹介している。
「タンカーはどうしても積荷の関係で、「誰でもいつでも気軽に見学していいですよ」とは言えない船なので、ネットでの発信で少しでも身近に感じていただけたらいいなと。 お陰様でSNS「X」の船員募集にも応募がけっこうくるんですが、SNSの発信と同時にリアルで交流できる場も大事にしたいと考え、本セミナーには2017年頃から出展しています。当社にはすでに90人弱の乗組員がいるんですが、採用する層が偏らないように、より多様な人たちにエントリーしていただきたいと思っていますね」
乗組員の平均年齢は35歳前後と若いことも特徴で、学生などからは福利厚生や休暇に関する質問も多いそうだ。
「休暇に関しては、当社は必ず取らせる制度になっていて、10日(間)までなら休みを理由なく伸ばすことができるなど、休暇の自由度はトップレベル。収入面だけではなくて休みも大切にしたい学生さんには、魅力的なところかなと思います。10年ぐらい勤続している女性乗組員もいるため、乗組員希望の女子学生さんにもブースへ足を運んでいただいています」
最後に訪れたのは「向島ドッグ」のブース。船舶修繕事業を主としている会社だが、自社で船員を雇用し、内航船を保有・管理する内航海運業も自前で営んでいるという、業界では少し変わった会社のようだ。
「2024年に就航した「むかいしま」はリチウムイオン電池を搭載し、推進電動機へ電力を供給してプロペラを回転させるという、日本では他にない電気推進システムの貨物船です。船は一般的に主機(船を推進させる主力機関。大型外航船の場合ほとんどディーゼル機関や蒸気タービン)が載っていますが、当社が所有する「むかいしま」にはその主機がなく、2基の小型の発電機を載せているというかたちになっています」
発電機とバッテリーで電力を供給するシステムを採用し、より静かなクリーンな船とのことで、従来よりも快適な居住環境を提供することが可能に。船員労務負荷の改善・軽減にもつながるため、環境にも人にもやさしい船だという。
「ディーゼルエンジンを扱う船員は、船員教育機関などを卒業した後、さらに10年以上の月日が習熟に必要とされていますが、「むかいしま」のような船はより簡易に、かつ安全に運航できるというのが一番の特徴です」
1953年創業で2010年にフリート事業部を発足させた同社。当初からコア事業である船舶修理業を通じて得た自社の知見を、内航海運業が抱える課題解決に活かすことを掲げて、新たな挑戦に取り組んできたという。 「人手不足などで事業を続けられない事業者も増えており、フリート事業部を立ち上げた14年前とは大きな変化も肌で感じていますが、内航海運業を少しでも魅力的な産業にしたいといった思いは根本にあります。船員が修繕ヤードで勤務するなど、船員のライフステージなどに応じた働き方が可能なことも我々の強み。新たなシナジーを生み出しながら安定航行の実現に貢献していきたいと思っています」