心臓病による突然死は、年々増加している。この傾向は今後も続くだろう。年齢を重ねる中で日頃からカラダの状態に気を配っていても、未然に察知することが難しいのが心臓病の特徴でもあるのだ。

  • ニューハート・ワタナベ国際病院総長・渡邊剛氏。

では、いかにして防ぐのか? また、心臓手術が必要になった場合、どのように知識を得て病院選びをすればよいのか? 世界のトップクラスで活躍を続ける心臓外科医・渡邊剛氏に話を聞いてみた。

■「突然死」を予防するために

──心臓病による「突然死」が近年、増加していると言われています。それは、本当でしょうか?
「本当です。ここ数年で日本人の寿命はさらに延びましたが、その分突然死は増加していて、そのほとんどは心臓病によるものです。
日本AED財団の資料によると、その数は一日に約200人、つまり7分に1人が心臓突然死により亡くなられています。

──驚きの数字ですね。これを事前に防ぐことはできないのですか?
「多くの方が、定期健診を受けられているかと思います。年齢を重ねる中で自分の健康状態を確認することは必要ですが、実際のところ定期健診だけでは心臓の状態を正確には把握できません。
造影剤を使った検査などで狭心症や動脈溜が見つかることはありますが、これは一般的な健康診断には含まれていない。つまり、よほど悪い状態にならないと気づけないのが心臓病なのです」

──では、どのようにして心臓病を防げばよいのでしょうか?
「予防策はあります。基本的には次の3つが大切でしょう。
1つ目は、規則正しい生活を心がけることです。
早く寝て、早く起きる。睡眠時間はしっかりと確保する。規則正しい生活をすることで、カラダに過度な負担をかけることを避けられます。
2つ目は『3つの白い粉』を遠ざけること。
『3つの白い粉』とは、食塩、砂糖、小麦粉のことです。これらの摂取を抑えることで、心臓病や生活習慣病のリスクを下げることができます。

そして3つめ目は、飲酒を控え、タバコは吸わないことです。
言うまでもなく喫煙は、百害あって一利なし。お酒も適量以上の摂取は避けた方がよいでしょう。
さて、あなたはすべて守れますか?」

──正直なところ守れません。すべてどころか1つも守れません。仕事柄、生活のリズムは不規則ですし、好きなものを食べたい。タバコはやめられないし、毎晩ビールは欠かせません。
「そうですか。仕事柄、生活リズムを一定に保てない方は多くいらっしゃいますし、睡眠時間の確保が難しい方も少なくありません。
また、美味しい食べ物には「3つの白い粉」が欠かせないんですよ。
『酒とタバコをなくして、なんのための人生か』と言われる人もいます。

医者としての立場から私は患者さんに、健康に生き続けるためによいとされることをアドバイスします。
でも、強制はしません。ここからは患者さん自身に選択してもらいます。
なぜならば、何かを我慢することで過度なストレスをカラダに生じさせるのもよくないからです。そして、当たり前のことですが、人間の命には限りがあります。
美味しいものを食べて満足し、自分が思ったままに生活してこそ、人生はより楽しく充実したものになります。そう考えるのもよいのではないでしょうか。
こればかりは自己判断です」

■最適な治療を受けるための病院選び

──とはいえ、心臓病を患い手術が必要になった時には、ほとんどの人が「死にたくない」「健康な状態に戻りたい」と願います。
「そうでしょうね。そういう方がほとんどです。
ならば、心臓手術の現状を少しでも知ったうえで、最適な治療を受けられる病院を選ぶことをお勧めします。

──やはり病院選びは大切なのですね。
「そうです。私がこれまでに幾度も取材を受けてきましたが『病院選び』は多い質問のひとつです。それだけ多くの方が、病院選びに悩んでいらっしゃるのでしょう。
私は「良い病院」「良い手術」に辿り着く方法は、4つあるように思います」

──ぜひ教えてください。
「まず1つ目は、病院のホームページに、過去2~3年間の手術実績が掲載されているかどうかを見てください。
これが掲載されていない病院は避けた方がいいでしょう。
掲載されていたならば、症例数を確認します。この数が多い病院の方が安心して手術を受けられますよね。
参考までに言うと、私の病院(ニューハート・ワタナベ国際病院)の2023年の年間心臓手術件数は「639」でした。海外に目を移すと心臓手術数年間「500」はスタンダードなラインです。症例数の多い病院を選ぶことを、お勧めします。

  • (写真:Shinya Nishizaki)

2つ目は、『病院の名声ではなく命を預けるに相応しい医者かどうかで考える』こと。
本来であれば患者さんの側が、医者の情報にアクセスしやすい環境がもっと整っているべきなのです。しかし残念ながら日本はまだ、その辺りが整っていません。
米国ニューヨーク州では、『〇〇先生が執刀した年間執刀件数は何例、死亡が何例』といった情報に簡単にアクセスできます。
これは非常にフェアな方法なので日本でもぜひ取り入れて欲しいのですが、現状そうなっていません。なので事前に実績を調べ目星をつけた病院に行ってみても、対応に違和感を覚えたら迷わず次の病院を探すことを考えてください。『この医者は私の命を託すに値する医師かどうか』という視点で選ぶ必要もあります」

■心臓外科手術は腕がすべて

「3つ目は『医療と関係のないところで判断しない』こと。
これは日本の患者さん特有のことですが、医師に対して自分の思いを伝えることを躊躇する方が多く、また自分がかかっている病院を「いい病院だ」と思い込もうとします。

『先生が親切』
『若い先生だけれど、やさしく接してくれる』
医者が患者さんに対して親身になることはもちろん大事、これは大前提です。でも、そんな医療以外の面ばかりを重視してしまうと、結果として患者さんが高いリスクを負いかねません。
心臓外科手術は、腕がすべてです。

そして最後の4つ目は、セカンドオピニオンを申し出た時の医者の反応です。 これを尋ねた途端、『もう今後は診ない』とか『あそこに行ってもよくないよ』などと言い出したなら、すぐに病院を変えてください。
そんなことを口にする医者は、自らの医療が劣っていると考えているか、プライドを傷つけられたと感じているかのいずれかです。
生死に関わるような事態に、医者のプライドを汲み取る必要などまったくありません。『医療』『手術』は医者の生活のためにあるのではなく、患者さんの病気を完治、回復させるためのもの。遠慮などせずにベストな環境での治療を選ぶことが大切です。
もし、あなた、或いはあなたの大切な人が病院探しをしているなら、この4つのポイントを参考にしてください」
「良い手術を受けるために患者さんがすべきこと」と「日本の医療制度の問題点」/渡邊剛(ニューハート・ワタナベ国際病院総長)に続く〉

文/近藤隆夫