『特捜戦隊デカレンジャー』放送20周年を記念して制作されたVシネクスト『デカレンジャー 20th ファイヤーボール・ブースター』(監督:渡辺勝也)が現在上映中である。『特捜戦隊デカレンジャー』は2004年に放送されたスーパー戦隊シリーズ第28作。特撮SF刑事ドラマというべき本作では、地球の警察では手も足も出ない異星人犯罪者=アリエナイザーが起こす数々の凶悪事件を捜査し、真相を暴き、人々の平和と安全を守る使命を帯びた「宇宙警察地球署」の破天荒な刑事(デカ)たちの活躍が描かれた。あれから20年を経て、円熟味を増したベテラン刑事の集まりとなった本作のデカレンジャーが挑む、地球のみならず宇宙全体を揺るがす特大犯罪とはいったい何か? オリジナル・キャスト再結集に加え、フレッシュなゲストたちがスリリングなSFドラマに彩りを添えている。
今回は、公開記念インタビューとしてデカピンク/胡堂小梅(ウメコ)を演じた菊地美香と、デカブレイク/姶良鉄幹(テツ)を演じた吉田友一にご登場いただいた。お二人は2018年に結婚し、京都在住を経て現在は高知県を拠点としている。今回のデカレンジャー20周年記念作品は、高知市地域活性推進課職員を務める吉田、そして高知で弁当店「十月一日」の店長を務めている菊地が企画段階から参加し、デカグリーン/江成仙一(セン)役の伊藤陽佑と共にアソシエイト・プロデューサーを担っている。
ここでは、お二人がいかにして高知の住人となり、高知を舞台にした『デカレンジャー』最新作のクリエイトに尽力したのかを中心に、お話をうかがった。
高知で弁当店を営む菊地美香、高知市地域活性推進課職員の吉田友一
――今回の『デカレンジャー20th』は、テレビシリーズ20周年記念作品であると同時に、お二人の現在の活動拠点である高知県の「町おこし」要素をも含んだ内容となっています。本作にはお二人が企画から深く関わっているとうかがいました。実現に至るまでの経緯を教えていただけますでしょうか。
菊地:高知に住み始めたころから、「ここで『デカレンジャー』の新作ができたらいいよね」と、食卓での会話レベルでは話していたんです。せっかく高知に来たんだし、こちらのいいところをたくさん紹介したいなと漠然と思っていましたが、2年前に東映の塚田(英明)プロデューサーから「そろそろデカレンジャーが20周年になるけど、どうする?」とお声がけいただいたのが、今回の作品ができるきっかけでしたね。デカレンジャーのメンバーで、1番「新作やりたい!」って声を大にして言ってたのが私なので、塚田さんが声をかけてくださったんだと思いますけど、そのとき「でしたら、ぜひうちの主人も参加させてください」と提案しました。
吉田:いちばん初めのキックオフ・ミーティングは2022年11月中頃にあったんですけれど、その2週間前、高知大学の学園祭「黒潮祭」に私と菊地、さいねい(龍二:デカレッド/赤座伴番役)くんが登壇し「大学生といっしょに考える、地方のIターン、Uターン」というテーマでディスカッションを行ったんです。そこでさいねいくんから「地方活性化のために、エンタテインメント=映画を手段として用いるのはどうか。幅広い人々に思いが届く、新しい形だと思う」という意見が出て、学生アンケートからも賛同の声が多くあったんです。私はこれに共感して、現在高知市の地域活性課で働いていることもあり、映像作品を地域に溶け込ませ、良いところをアピールできれば勝ち筋が見えてくるんじゃないかと思いました。それで高知ロケを組み込んだ企画をミーティングに持ち込んだのです。
菊地:特撮ヒーローに「町おこし」を組み込むといった今回の作品が、今後のテストケースになれたらいいなと思っているんです。
――さかのぼって、お二人が高知で活動されるようになったきっかけは何だったのか、お聞かせください。
菊地:もともとスローライフを目指していて、最初は京都に引っ越したんです。
吉田:結婚して1カ月もたたないうち、2018年の10月に京都へ行きました。よく「京都の人は他の地方から来た人に冷たい」って言われることがあるじゃないですか。でも菊地はこういう(明るい)キャラクターなので、どこでも無難に溶け込むことができたようです。
菊地:ご近所のお宅に「今度引っ越して来ました~」ってご挨拶したら、「あっ、ウメコや!」って言われたんです(笑)。やっぱり『デカレンジャー』の知名度ってすごいなと思った瞬間でしたね。
吉田:そのとき一緒にいたんですが、僕はふつうに旦那さんだとしか思われてなかったんです。それから2カ月後くらいに、町内会の集まりで「実は僕もデカレンジャーなんです」って自分で言って、ようやくテツだと気付いてもらえました(笑)
菊地:京都に住んでいたときも、地域の方々には大事にしていただきましたね。東京よりはゆったりしてるねって話していたんですけど、やっぱり京都もまだまだ都会だなと思って、3年後に引っ越しを考えたんです。
吉田:高知に移住しようと決めたのは、ちょうどコロナ禍真っ只中のころ、2021年でした。僕はそのころ島根大学の大学院に行っておりまして、師事していた先生が島根大学の臨床教授をやりながら、週の半分は高知市内のクリニックで院長をやっているという、とても忙しい人でした。島根と高知を行ったり来たりしていて、もしかしたら僕が弟子入りするタイミングによっては、島根に移住していた可能性もありました。
菊地:そう。島根と高知のどっちにしようかっていうときに、私の母方の実家だったこともあって、ご縁もあるし……ということで高知に決めたんです。
吉田:何か特別にしがらみがあったわけではなく、2人で決めるのならどこでもいいなって思っていました。
菊地:47都道府県、すべてが候補でした(笑)。「沖縄いいね~」「北海道いいね~」とか言っていて、じゃあ真ん中で行こうと思って京都を選び、次に決めたのが高知でした。
吉田:結婚後すぐは、僕が鍼の研修で沖縄の離島へ行っていたりして、バラバラで生活していたんです。だからこそ、ちゃんと地域に根を張って2人で生活していこうと決めたとき、菊地になじみのある高知がいいんじゃないかなと思いました。
高知ロケの“撮れ高”プレゼンのために市役所で議論白熱
――宇宙警察地球署の本拠「シン・ネオデカベース」の外観や通路などは、高知にある実際の建物で撮影されたとうかがいました。
菊地:とてもカッコよかったですよね! デカベースが高知にある、というのはスタッフの方々へのよいアピールになったと思います。
吉田:あれは「海洋堂スペースファクトリーなんこく」で撮影を行いました。シン・ネオデカベースの上部は合成ですけれど、下は建物そのままを使っています。最初の会議のとき、高知でロケをするならばどれだけの“撮れ高”があるのか、東映さんにプレゼンをしないといけません。そこで、高知市役所の地域活性推進課の職員、上司と一緒に、高知市内のロケ地選定のため2~3週間かけて「この場所はデカレンジャーの世界と合致するかな」「ここは合わないな」など、白熱した議論を展開しました。最初のころ「ここならデカベースにふさわしいんじゃないか」と上司から誘われて、見に行ったのが海洋堂スペースファクトリーでした。「ここはいいんじゃないか」「いや、むしろここしかない! これはイケるぞ!」という手ごたえを感じ、交渉に入ったんです。
菊地:SF感覚に満ちていて、まるで『デカレンジャー』が好きな人が作ったのかなと錯覚するくらい、宇宙警察のイメージにピッタリだったね。
吉田:塚田さんに「デカベースが高知にありました!」と、写真を添えてメッセージを送りました。やがてプロデューサー陣や渡辺(勝也)監督、脚本の荒川(稔久)さんたちを高知へお招きし、地元の名所や名物をたくさんご覧になっていただきました。
――今回、デカレンジャーの6人と若手刑事の江戸川塁(演:長妻怜央)はいくつかのチームに分かれて別行動を取り、常に全員一緒というわけではありませんでしたが、それがいかにも「刑事ドラマ」のような風味を感じました。それぞれのチームが事件を追い、謎が少しずつ明かされていき、最後に地球で全員集合する、スケールの大きなストーリーが魅力でした。
菊地:そう言ってもらえると嬉しいですね。各チームに分かれているのは、みんなのスケジュール的な都合が大きいんですけど。
吉田:東映京都撮影所がメインの撮影拠点で、高知ロケに行ってない人もいますしね。僕がストーリー作りの段階で特にこだわったのは、高知に行かなければ事件解決の糸口がつかめないという段取りをつけていただくことです。高知でロケをするからには、どうして高知にデカレンジャーが来なければならないのか、しっかりした理由が必要ですから。
菊地:ちょっと強引かな? と思えるところもありましたけどね(笑)
――高知に着いたとたん、センことデカグリーン/江成仙一(演:伊藤陽佑)が高知の名産品や名物、マスコットキャラクター・おとどちゃんグッズなどを買い込みます。川村文乃さん演じるモクミスが、お土産の「ぼうしパン」を食べていたりすると、観ている方も食べたくなってきますね。
吉田:ストーリーに関係のないカットでも、高知市役所の職員としては「特産物」を画面に入れ込んでほしいですから、シナハン&ロケハンで来てくださったスタッフの方々をおもてなししました。そうしたら、いろんな名物を荒川(稔久)さんがシナリオに入れてくださった。『デカレンジャー』のストーリーに無理なく高知が組み込まれる自然な部分と、ストレートすぎるタイアップの不自然な部分(笑)が、うまく融合していたら嬉しいですね。
――デカレンジャーの物語としては、『特捜戦隊デカレンジャー10YEARS AFTER』(2015年)、そして『スペース・スクワッド ギャバンVSデカレンジャー』(2017年)に続く形となります。今回の20周年記念作品で、テツやウメコはどのような成長を遂げたと思われますか。
吉田:テレビシリーズでのテツは、強力な助っ人であり、かわいい後輩ポジションでしたけど、その後の『10YEARS AFTER』や『スペース・スクワッド』だとちょっと大人しくなった印象がありました。その点今回は、テツがひさびさに「テツらしい」感じを出すことができて、とてもいい印象を受けました。自分の職務をまっとうして、しっかりと捜査に向かっている。そこは及第点が取れている感じ。先の2作ではけっこう強敵にやられっぱなしで、残念な思いでしたからなおさらです。ステーキでいえば、前回、前々回はつけあわせの“ニンジン”的存在でしたが、今回はステーキになくてはならない“スパイス”になっていると思います。
菊地:ウメコの場合、20年前と今を比べても本質的なところがぜんぜん変わっていないし、そこがウメコの魅力だと思います。急激に何か成長したという意識もなく演じていましたし、不変で不動なのがウメコらしいと思って、今回も役に取り組みました。
吉田:吉田個人の思いとしましては、今回は企画の段階から参加させてもらい、映画の作り方を一から学ばせていただいたという意味で忘れられない作品になりました。1本の作品を生み出し、送り出すまでにはこんなに大変な行程があるのかと、理解できたことが大きかったです。
――最後に、『デカレンジャー』を愛するファンの方々に向け、20周年記念作品のおすすめポイントを教えてください。
吉田:高知城の天守閣に、6人のデカレンジャーが勢ぞろいしたビジュアルを、ぜひご覧ください。高知の観光名所、美しい自然がふんだんに出てきますから、高知出身でいまは別な場所で暮らしている方に懐かしさを感じてほしいですし、高知のことを知らなかった方が本作をご覧になり、こんど高知旅行に行ってみたいなという選択肢のひとつに入れてくだされば、ありがたい限りです。作品を撮っておしまい、観ておしまいではなく、ここからさまざまなイベントを派生させ、高知がもっと盛り上がってくれるよう頑張りたいと思っています。そして今回の作品をきっかけにして「映画製作を通じて各地域を活性化する」フォーマットができれば、僕にとってミッション・コンプリートになります。
菊地:デカレンジャーのみんなはすっかり大人になりましたけれど、本質的な部分、仲間同士の絆などは昔とまったく同じです。オーソドックスな「勧善懲悪」の要素を何年も変わらずに貫き通しているところ、それがデカレンジャーの大きな魅力だといえます!
■吉田友一
1982年7月9日生まれ。新潟県出身。俳優。鍼灸師。島根大学大学院医学研究科修士課程(病態病理学講座)修了。高校2年生のときにモデルとして芸能界入り。2004年に『特捜戦隊デカレンジャー』デカブレイク/テツ役で人気を集める。2018年、菊地美香と結婚。現在は高知市で「京都よしだ鍼灸院」を開業すると共に、高知市地域活性推進課職員として活動を行っている。
■菊地美香
1983年12月16日生まれ。埼玉県出身。女優。2000年、ミュージカル『アニー』で女優デビュー。2004年『特捜戦隊デカレンジャー』でデカピンク/ウメコを演じ、注目される。以後、映画、テレビドラマ、舞台、アニメ(声優)など幅広いフィールドで活動。2018年に吉田友一と結婚。現在は高知市で弁当店「十月一日」の店長を務めている。