藤井聡太棋聖に山崎隆之八段が挑戦するヒューリック杯第95期棋聖戦(主催:産経新聞社、日本将棋連盟)は6月6日(木)に千葉県木更津市の「龍宮城スパホテル三日月」で開幕しました。対局の結果、相掛かりの持久戦から手筋を駆使して抜け出した藤井棋聖が90手で勝利。5連覇に向け好スタートを切りました。

山崎流の序盤術

振り駒で先手番を得た山崎八段は得意の相掛かりを志向、自玉を中住まいに収めて持久戦を目指します。7筋の位を取ったのは山崎八段らしい趣向で、後手の右桂の活用を防ぐ意味合い。盤上はこの7筋の位をめぐって戦いが展開されるかと思われました。

山崎流の序盤術を見た後手の藤井棋聖は明るい大局観でペースをつかみます。左辺の圧力を気にすることなく3筋に継ぎ歩攻めを仕掛けたのが検討陣を驚かせた一着。自玉近くなだけにリスクを伴うものの直後の自陣角が強烈な援軍で、右辺の勢力争いで優位に立った形です。

描かれた藤井曲線

局面は右辺の競り合いを軸に中盤戦たけなわ。苦境の山崎八段は端に角を打つ勝負手で逆転を目指しますが、藤井棋聖はじっくり時間を投入してリードを拡大します。自陣の銀取りを手抜いて敵陣の金を外したのが絶品の踏み込みで山崎玉には適当な受けがありません。

手番を得た山崎八段が最後の反撃に乗り出したとき、金を上がって自玉の安全を確保したのが藤井棋聖の受け切りの決め手。飛車を手にすれば先手玉は手順に寄り形です。終局時刻は18時38分、最後は自玉の詰みを認めた山崎八段の投了で藤井棋聖の勝利が決まりました。

一局を振り返ると山崎八段の遠大な構想を藤井棋聖が現実的な打開策で打ち破った格好に。敗れた山崎八段は局後「(中盤で銀を右辺に)引かれてみると(対応が難しく)後手後手に回ってしまった」と振り返りました。第2局は6月17日(月)に新潟県新潟市の「高志の宿 高島屋」で行われます。

水留啓(将棋情報局)

  • 藤井棋聖は防衛すれば通算5期となり永世棋聖の称号を手にする(提供:日本将棋連盟)

    藤井棋聖は防衛すれば通算5期となり永世棋聖の称号を手にする(提供:日本将棋連盟)