4月22日(月)に行われたヒューリック杯第95期棋聖戦(主催:産経新聞社、日本将棋連盟)で佐藤天彦九段を下し、藤井棋聖への挑戦権を手に入れた山崎隆之八段。中継解説などでは自らコメディリリーフを買って出る柔和な面もある一方、対局で追い込まれたときには悲壮なまでに勝利に執着する侍のような一面もあります。

ファンの間では親しみと尊意を込めて「俺たちの山ちゃん」とも呼ばれる棋界屈指の愛されキャラが、実に15年ぶりに挑戦権を獲得です。彼が和装で6月6日(木)の五番勝負第1局に登場するだけで、万感胸に迫る方も多いのではないでしょうか。

2024年6月3日に発売された、『将棋世界2024年7月号』(発行=日本将棋連盟、販売=マイナビ出版)収録の山崎八段のインタビューの冒頭では、棋聖戦挑戦者決定戦 の佐藤天彦九段との一戦を解説しながら、対局中の心境を明かしてくれました。本稿では、このインタビューから一部を抜粋してお送りします。

  • 局後の山崎八段。感想戦は楽しそうに進められ、1時間以上続いた

    局後の山崎八段。感想戦は楽しそうに進められ、1時間以上続いた

(以下、抜粋)

楽しみすぎた序盤戦

――このたびは棋聖挑戦おめでとうございます。本日はよろしくお願いします。

「よろしくお願いします」

――まず、佐藤天彦九段との挑戦者決定戦の将棋について伺いたいと思います。立ち上がりからなかなか正体を見せない駒組みで見応えがありました。

「挑決ではあったんですが、出だしはお互いに将棋を楽しみすぎました(笑)。方針を決めるところで持ち時間に対して明らかに時間を使い過ぎていたので」

――当初はどんな作戦だったのですか?

「相振り飛車の予定でした。振り飛車の定跡の勉強をしないで自由に指し続けてきた結果、基本的な知識が足りない状態になってしまいました。ここ数年は振り飛車に対して苦戦が続いていて、本局の△3二銀~△4四歩とする作戦もよくやってはいるんですが、いつも久保先生に負かされているのであまり自信はなかったです。この作戦に対しては三間飛車にされることが多いのですが、本局は向かい飛車だったのでどういう指し方にするか悩みました」

  • 先手、佐藤九段の19手目▲8六角を受けて、山崎八段は長考に沈む。このとき彼は、4年前の敗北を思い出していた

――▲8六角(第1図)が序盤のポイントでしょうか。

「そうですね。次に△3二飛として相振り飛車にするつもりだったのですが、できなくなりました」

――本譜は▲8六角に36分考えて△4二金と上がって居飛車になりました。

「4年前の西田拓也五段との将棋が似たような感じで、それときは相振り飛車で負けてしまいました。でも、自分の中でもう少しうまく指せたんじゃないかという気持ちがあり、▲8六角と指される前は挑決という舞台であのときのリベンジを果たしたいという気持ちになっていました。相振り飛車にする方向に心が傾いていたので未練が残って妙に時間を使ってしまいました。もともと居飛車党なので素直に居飛車にすればいいだけなんですけど(笑)」

――いや、とても面白いです。あの長考の中身はそういうことだったのですね。

「▲8六角という手はもう少しあとで指されるのかなと思っていました。具体的には▲8六歩~▲8五歩としてから▲8六角とされて▲7五歩から攻められる展開はあるのかなと思って警戒していました。それは嫌だなと思っていたので、▲8六角のところで▲8六歩とされても△8四歩として、やはり居飛車にしていたかもしれません。これはお互いに手出しがしにくい将棋になると思います」

――その後、佐藤九段の▲8六歩から戦いが始まりました。

「振り飛車のほうも陣形が不安定なのでまとめにくいんじゃないかと思っていたんですが、あとで調べてみると互角だったので驚きました。この攻めが一段落したあと、玉を固めながら辛抱強く指せたのはよかったと思います」

――確かに金銀4枚がくっついた形になって後手が好調に見えました。

(第95期棋聖戦挑戦者インタビュー 山崎隆之八段「直感と逆転術」/島田修二)

完全版は、6月3日発売の最新号に掲載!!

『将棋世界2024年7月号』
発売日:2024年6月3日
特別定価:920円(本体価格836円+税10%)
判型:A5判244ページ
発行:日本将棋連盟
Amazonの紹介ページはこちら