小学館は3日、昨年10月クールに放送された日本テレビ系ドラマ『セクシー田中さん』の制作過程で起きたトラブルなどについて、特別調査委員会による調査報告書を公表した。5月31日に公表された日本テレビの社内特別調査チームの調査報告書と同様に、日テレ・小学館双方の認識の“齟齬”が浮き彫りとなった。

  • 日本テレビ(左)と小学館

原作者の脚本執筆の可能性に合意したことは明らか

この報告書では、今回の経緯を以下の通り説明している。

原作者の芦原妃名子さんが、全10話のドラマの脚本作成において、第7話まで脚本の修正に翻ろうされ、脚本家に要望に沿った脚本を執筆してもらうことが非常に困難と判断し、原作のないドラマオリジナル部分の第9話・10話の脚本を自ら執筆。しかし、ドラマ放送後に脚本家がSNSで困惑したことを投稿し、それに対して芦原さんが経緯の反論をSNSとブログで説明した。すると脚本家へ非難が集中。芦原さんは投稿を削除し、SNSで「攻撃したかったわけじゃなくて。ごめんなさい。」とつづり、急死した。

芦原さんはブログで、ドラマオリジナル部分について、「原作者があらすじからセリフまで」用意すること、「場合によっては原作者が脚本を執筆する可能性もあること」などを“条件”として日本テレビに何度も確認したと説明。しかし、日テレ・小学館双方の報告書によると、日テレの制作側にその認識はなく、当然脚本家にも伝わっていなかった。

だが、小学館の報告書では、「客観的な証拠」として、昨年6月10日に小学館の担当者から日テレの担当者に「ドラマオリジナル展開に関しては、芦原先生の方から、脚本もしくは詳細プロットの体裁でご提案させて頂けませんでしょうか」と確認したところ、日テレの担当者が「ドラマオリジナル展開に関して芦原先生の方から、脚本もしくは詳細プロットの体裁でご提案して頂く点も承知しました」と、“脚本”を含めて回答していることから、「(芦原さんが)脚本を書く場合もあることを合意したことは明らかである」と断じている。

一方、日テレの報告書では、その後のやり取りでは“脚本”という文言が外れており、「詳細プロットのやりとりということにしている」と解釈。ただ、小学館の担当者は、日テレの調査に「本件原作者が脚本を執筆する可能性があることは前から約束されている」と書面回答している。

第一に尊重すべき原作者の優先順位を…

脚本家へのヒアリングでは、小学館の担当者から日テレの担当者へ、芦原さんによる第8話~10話の詳細プロットが送信されるにあたり、「ネタバレギリギリのライン探りながらバランス見ながら書いてるので、アレンジやエピソード順番入れ替え、セリフの変更は、基本、しないでほしい」と意向を伝えたが、脚本家は知らされていなかったことが判明。ほかにも、小学館側から当初「原作を大事にしてくれる方(=脚本家)でないと難しい」と注意されていたことなど、脚本家が日テレの担当者から知らされていない事項が複数あったことに言及している。

こうした点を踏まえ、「日本テレビは、本来、芦原氏の意向を本件脚本家に伝え、原作者と脚本家との間を調整するという役割を果たしていない可能性がある」とし、「原作者の意見が、摩擦を回避できる程度に十分に、脚本家に伝わらなかったことが問題である」と指摘。

さらに、「プロデューサーにとって、(出版社の)担当編集者はワンオブゼムの交渉相手であり、本来であれば第一に尊重すべき原作者の優先順位を下げてしまっていることもあるように思われる。本事案でも脚本家の意見というより、演出家の希望にも重きがあったのではないだろうか」と推測した。

一方、日テレの報告書では、脚本家が日テレの担当者に対し、芦原さんからの指摘が厳しい口調でそのまま読むのがつらくなったことから、咀嚼(そしゃく)してから伝えるよう依頼したことを受け、日テレの担当者は「伝えるべき情報」を咀嚼して脚本家に伝えるようになったとしており、「少なくともA氏(日テレ担当者)は本件原作者の修正点の指摘やその理由等伝えるべき情報はすべて本件脚本家には伝えている認識」と説明。

また、芦原さんから脚本家への評価が厳しくなった際には、日テレの担当者から小学館の担当者へ「プロットや脚本はコアメンバーの意見を基に本件脚本家が執筆しているのであって、本件脚本家だけの意見ではないことを繰り返し説明していた」としている。

思いがけぬ脚本家への批判「重圧を感じたのかもしれない」

小学館の報告書では、脚本家がクレジット表記に関して不満を持ち、SNSに投稿したことを「重大な局面」と位置づけている。それに対し、芦原さんがSNSとブログで経緯説明(「アンサー」と呼称)したいと強く希望し、その作業を小学館の社員も協力していた。

だが、この「高リスク事案」(小学館報告書)について、担当常務や法務室、広報室へ報告・相談がされていなかったことから、「日頃からリスク対応を行っているこれら部署に相談があれば、同氏の投稿を止められなかったとしても、起こりうるさまざまなリスクの説明はできたかもしれない」とし、「芦原氏の投稿は、炎上被害に対する反論投稿であったが、思いがけず本件脚本家に批判が向けられたことについて、責任の重圧を感じたのかもしれない」と推測した。

そして、今後の再発防止策には、「作家や編集者がSNSによる論争の矢面に立つようなことが生じた場合は、作家や編集者が孤立しないように、事案に応じて、会社が楯となって情報発信することを検討することが望ましい」と盛り込まれている。