伊藤沙莉主演の連続テレビ小説『虎に翼』(NHK総合 毎週月~土曜8:00~ほか ※土曜は1週間の振り返り)で、伊藤演じる主人公・佐田(猪爪)寅子の夫、佐田優三役を演じている仲野太賀。寅子と結婚して子どもにも恵まれ、楽しい結婚生活が続くのかと思いきや、戦争がその幸せを引き裂いた。仲野を直撃し、脚本の段階から「読んでいて苦しかった」というシーンや、一番思い出深いシーンについて話を聞いた。

  • 佐田優三役の仲野太賀(右)と寅子役の伊藤沙莉

伊藤が演じる寅子のモデルは、日本初の女性弁護士で、後に裁判官となった三淵嘉子。寅子とその仲間たちが、困難な時代に道なき道を切り開き、迷える子どもや追いつめられた女性たちを救っていく。

戦争で幸せを奪われる展開に「胸が苦しくなった」

『虎に翼』の現場について仲野は「風通しのいい現場ですが、それは全部、伊藤沙莉ちゃんという座長が作り出す空気なのかなと思います」と伊藤の座長ぶりを称える。

「沙莉ちゃんは思ったことをちゃんと口に出すのですが、まったく嫌な気がしないというか、それが率直で素直な言葉だったりするので、いろんな問題がスムーズに解決されるんです。いろんな人に気を遣ってコミュニケーションを取りますが、それも気負わずにやられている気がします。現場の真ん中にそういう人がいると、我々も自然と『そんなに気負わなくていいんだ』という気持ちにもなれるし、リラックスして現場に入れます。きっとスタッフ全員が沙莉ちゃんのことを好きだと思います」

早くに両親を亡くした優三は、猪爪家に下宿し、弁護士だった父と同じ道を進むべく、昼は銀行で働きながら夜間は大学で勉学に励んだ。難関の試験は突破できず挫折を味わうが、寅子と結婚し、穏やかな幸せをつかむ。寅子との夫婦の絆が深いだけに、優三に召集令状がきた時には衝撃が走った。仲野も「戦争のシーンが近づくにつれ、胸が苦しくなりました」と振り返る。

「ようやく優三と寅ちゃんが結ばれ、それまで家族のいなかった優三が本当の家族を手にすることができました。もちろん寅ちゃんだけじゃなくて、今までずっと一緒に暮らしてきた猪爪家のみんなとも家族になれたし、愛する娘もできました。自分が望んでいた法律の道には行けなかったけど、彼自身が心の底から手に入れたかったもの、欲しかったものは家族だったんじゃないかと。そんな時に戦況がどんどん悪化していったので、脚本を読んでいて、苦しかったです」

さらに仲野は「優三もなぜ戦争に自分の幸せを奪われなきゃいけないんだろうと思ったでしょう。でも、彼の中の“主語”は常に寅ちゃんなんですよね。いつも寅ちゃんが悲しくないようにと考えるのが優三らしさなのかなと。だから、戦争に行くのは仕方がないから、せめて寅ちゃんを悲しませないように、そういう空気を作らないようにしたいという思いで出征していったんじゃないかなと思っています」と優三が寅子を思いやる心の内をおもんばかった。

これまでに他の作品で何度も戦争シーンを経験してきた仲野は「もう何回戦争に行ったのかわからないです。本当にいろんな作品に参加させてもらってきたので、経験としてはすごく積み上がっているものがあると思います」と言う。

河原での最後のデートシーン「すごく印象深かった」

これまでに撮影した中で一番思い出深いシーンについて聞くと、5月24日に放送された、寅子と河川敷でデートをしたシーンだと言う。

「出征する前に、いつも2人で行っていた河原での最後のデートシーンはすごく印象深かったです。それまでの寅ちゃんは、社会的な正しさみたいなところに自分の判断基準を置いていて、そこにとても苦しめられ、自分を責めていたんです。でも、優三としては、社会的な正しさではなく、寅ちゃんの心の正しさを大事にしてほしいと思いを伝えます。誰かのためにいっぱい頑張る寅ちゃんだからこそ、自分の人生をもっと大事にしてほしいと言える優三は、すごく優しいなと思いました。とても心を惹かれたシーンです」

そして改めて「1人の役を長い間、時間や時代の変化を感じながら演じられるのは本当に朝ドラならではで、貴重な経験をさせてもらっているなと思います。佐田優三という役に出会えてよかったなと本当に思います」と言葉をかみしめた。

最後に本作についてのメッセージをもらった。

「戦前は、女性が社会に出て活躍することがこんなにも難しい時代だったんだなと、脚本を読んで驚きました。本作では、当時の女性たちが言葉にできなかった、ため息のようなセリフが脚本に落とし込んであるので、痛快さもあります。法律の世界を目指す女性の物語というと堅く聞こえるけど、寅ちゃんはじめ猪爪家のキャラクターも個性豊かで、ユーモアにあふれた物語でもあるので、いろんな思いを背負った寅ちゃんの生き様みたいなものは、きっと見てくださる人の胸にも響くと思います。一生懸命頑張る寅ちゃんの姿を見届けてもらえたらうれしいです」

■仲野太賀
1993年2月7日生まれ、東京都出身。2006年にドラマ『新宿の母物語』にて13歳で俳優デビュー。『すばらしき世界』(21)で第45回日本アカデミー賞優秀助演男優賞、第64回ブルーリボン賞助演男優賞などを受賞。近年の主な出演作は、映画『生きちゃった』『泣く子はいねぇが』(20)、『あの頃。』(21)、『ある男』(22)、『ゆとりですがなにか インターナショナル』『愛にイナズマ』(23)、『笑いのカイブツ』(24)、ドラマ『コントが始まる』『#家族募集します』(21)、『拾われた男』『初恋の悪魔』『ジャパニーズスタイル』(22)、『季節のない街』『いちばんすきな花』(23)など。

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