藤井聡太棋聖への挑戦権を争うヒューリック杯第95期棋聖戦(主催:産経新聞社、日本将棋連盟)は決勝トーナメントが大詰め。4月16日(火)には準決勝の永瀬拓矢九段―山崎隆之八段の一戦が東京・将棋会館で行われました。対局の結果、独特の相掛かり戦術を駆使した山崎八段が111手で勝利。難敵を制して挑戦者決定戦に進出しました。
驚愕の序盤戦術
振り駒で先手となった山崎八段は相掛かりに誘導。自陣中央の歩をタダのところに差し出したのが驚きの作戦の序章でした。序盤から一歩損を甘受した山崎八段は、さらに歩損を重ねたうえ自陣の金の動きで一手損。歩損+手損の代償をどこに求めるかに注目が集まります。
不満ない序盤戦を経た後手の永瀬九段は1筋の端攻めから有利の拡大を図りますが、山崎八段はこの動きを待っていました。交換で手にした角を8筋に据えたのが後手の飛車金を同時に狙う絶好打。手順に作ったと金との協力で、左辺からの後手陣制圧が見えてきました。
山崎ワールド全開の勝利
持ち時間の差がそのまま形勢差となって現れます。ひと足先に秒読みに入った永瀬九段は必死の王手で迫りますが、右玉に組み替えてあった山崎八段の戦略が奏功して先手玉には寄りの形が見えません。1時間半の時間を残す山崎八段は満を持して寄せに乗り出しました。
中盤で活躍した角とと金の両方を捨てたのが「終盤は駒の損得より速度」を地で行く会心の決め手。後手玉を危険地帯に呼び寄せた直後の銀打ちが詰めろ飛車取りとなり、先手優勢は明らかです。終局時刻は18時18分、最後は自玉の詰みを認めた永瀬九段が投了。
一局を振り返ると、序盤に中央の歩を失った山崎八段がここを目標に金銀を盛り上げる反撃作戦を成功させた格好です。勝った山崎八段は挑戦者決定戦に進出、次戦で挑戦権を懸けて佐藤天彦九段―佐々木大地七段戦の勝者と対戦します。
水留啓(将棋情報局)