きょう15日にスタートするカンテレ・フジテレビ系ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』(毎週月曜22:00~)。主演・杉咲花と、Yuki Saito監督の対談がこのほど公開された。

  • 左からYuki Saito監督、杉咲花=カンテレ提供

■杉咲花主演『アンメット ある脳外科医の日記』

『モーニング』連載中で、元脳外科医の子鹿ゆずる氏が原作を担当(漫画:大槻閑人)する同名漫画を実写化する今作は“記憶障害の脳外科医”という主人公が、目の前の患者を全力で救い、自分自身も再生していく医療ヒューマンドラマ。

杉咲とYuki監督の対談は以下の通り。

■主人公・ミヤビは誰にでも対等に向き合う人

――『アンメット』という作品に出合ったときの印象を教えてください。

杉咲:脳の疾患には後遺症がつきもので、手術をして終わりではなく、その先の人生にも医者たちが思いを馳せるという、原作者の子鹿先生ご自身の経験に基づくメッセージがとても印象的でした。一方で、医療の話にとどまらず、患者を救う側の医者も、誰かに救われたい瞬間があるという一人ひとりの生活者たちの物語でもあって、暮らしの手触りを感じられる作品だと思いました。

Yuki:確かに『アンメット』は、最初から伝えたいことがストレートに伝わってくる作品で、患者さんやその家族、さまざまな局面において、普段光が当たらない人にもちゃんと光を灯す。それが、子鹿先生が『アンメット』を通して伝えたいことなんだなと思いました。原作と違い、ドラマではミヤビが主人公ですが、彼女もまたすごい女性で、自分も脳に障害を抱えていて思い悩むことがたくさんあるはずなのに、それを人に見せない、明るい印象しかないキャラクター。朝起きて、忘れている2年分の記憶を2時間で自分の中にインプットして、それであの笑顔に至っていると思ったら、その部分は僕もすごく見たいと思ったし、そこにこそドラマが生まれると思いました。

杉咲:ミヤビは、誰にでも対等に向き合う人。それは記憶障害を抱えているからということではなく、なんというか、先天的にフェアな人なんだと思うんです。そのとき目の前にいる人と同じ目線に立って、陽だまりのような光で包み込んでしまう。例えば、この作品の中で三瓶先生はちょっと変わった人物として捉えられることもありますが、ミヤビは決してそんな風には思っていないのではないかと思うんです。物事を否定的に考えることをしない、彼女だけの独立したリズムを持った人なんじゃないかなって。

Yuki:そういう意味では、花ちゃんと似ているところもあるよね。言葉を借りるなら、先天的にフェアなところ。立場やポジション関係なく、同じ目線で向き合えるところは2人の共通点だと思うし、あと、明るく現場にいてくれるところ。ミヤビは苦悩を人に見せないけれど、花ちゃんも緊張や心の揺れを現場では決して見せない。朝、現場に入ったら笑顔で「おはようございます!」と言ってくれる感じが、すごく似ていると思います。だからこそ、現場に来てくださった子鹿先生も、花ちゃんのお芝居を見て「ミヤビにしか見えない」と言ってくれんだと思います。

杉咲:子鹿先生のそのお言葉は、本当にすごくうれしかったです。

■昨年9月から濃密な話し合い

――撮影現場では、俳優陣とスタッフで日々ディスカッションが行われているそうですね。

Yuki:実は、クランクイン前からかなり濃密な話し合いを重ねています。2023年の9月くらいからですかね。杉咲さんと首脳陣が頻繁に集まって、ご飯とかスイーツタイムを挟みながら、全体の構成から脚本のことまで8時間くらいのミーティング(笑)。僕の経験上、連続ドラマでこんなに長い時間かけて意見交換をしたのは初めてです。でも、プロデューサーと杉咲さんが話していることを聞いているだけでも方向性が見えてくるし、それを踏まえて自分もいろいろなプランを考えられるので、あの時間はとても貴重だったし、その後の撮影にも大きな影響を与えてくれたと思います。

杉咲:今も、現場ではほとんどのシーンで議論が生まれていて、制作サイドと俳優部といった垣根を越えたところでそれぞれの意見を共有して、より物語を煮詰めていく時間が日常的に流れています。それができるのも、去年から皆さんと積み上げてきた関係性があってこそだと思いますし、なによりこの作品に関わる人間の熱量が並々ならないから。ドラマ撮影というタイトなスケジュール感で、ここまで感覚をすり合わせられることはなかなかないですし、一人ひとりの覚悟がそういった時間を生んでいると思うので、やっぱりやりがいがあります。とはいえ、細かいところまで突き詰めて話し合ってきた分、頭ではわかっているけれどそこに心が着地しない瞬間もあったりして。文字を追いかけながら想像をめぐらせて話し合うのと、実際に肉体を通して現場に立つのはまったく感覚が違うので。

Yuki:ある種、プロデューサーや監督の目線に近いのかもしれないね。作品全体を見るのと、自分自身がミヤビを演じるのはやっぱり違うと思うし。花ちゃんはその両方が見えていて、ミヤビをどう見せたいのか客観的に分かっているから、いざ演じてみると、そのギャップが生まれるのかも。

杉咲:実際に現場に立つと、脚本を読んでいたときには想像もしなかった事態が起こるというか、例えば三瓶先生が目の前に立っているだけでどうしようもなく心が動かされてしまって、こんな感覚になるんだという気づきがあったりもして、それがすごく面白いんです。それは、これまで何度も共演してきた若葉(竜也)さんが三瓶先生を演じているからということもあるのかもしれませんが、今回の現場ではそんなことがあまりに連発するので。不思議な体験ですし、特別すぎる時間だなって。

Yuki:それは僕も同じで、所詮、僕が台本を読んで考えていたことなんて、ある種机上の空論で、現場で生身の人間がお芝居を始めたら、簡単に、いい意味で裏切られるんです。だからこそ、演じている人、役を生きている人の意見は強いと思っています。昔、アメリカで尊敬している先生に「Listen to the actor」——俳優が自分に言ってきたことは聞きなさい、聞く耳を持てる監督になりなさいと教わって、それを今でも実践するようにしているんです。だから、『アンメット』で到達したいところ、ゴールさえ同じ方向を向いていれば、俳優でもスタッフでも、自分の考えや意見を言葉にしていいと思うし、その方が僕自身も楽しい。そして、今の『アンメット』の現場はそれができていて、それこそが我々の最大の強みだと思っています。