藤井聡太叡王への挑戦権を争う第9期叡王戦(主催:株式会社不二家)は本戦トーナメントが大詰め。3月19日(火)には永瀬拓矢九段―伊藤匠七段の挑戦者決定戦が東京・将棋会館で行われました。対局の結果、角換わり右玉に構えて抜け出した伊藤七段が142手で勝利。難敵を下して挑戦権を獲得しました。

驚異の永瀬研究

6度目の対戦となる両者、過去の対戦成績は伊藤七段の4勝1敗と意外な偏りを見せています。振り駒が行われた本局は先手の永瀬九段が角換わり腰掛け銀に誘導。対して後手の伊藤七段は右玉に組んで仕掛けを封じました。ともに左銀を繰り替え盤上は第二次駒組みへ。

間合いの計り合いののち伊藤七段が動きます。飛車先の歩交換に出たのは直後の飛車捕獲を覚悟した踏み込みで、伊藤七段が飛車を犠牲に金桂香の三枚を手にして戦いは一段落。開始から80手を過ぎ、もう終盤戦にも見える緊迫した局面を迎えていますが、ここまで永瀬九段は消費時間11分と驚異的なペースで進めます。

ミスに乗じて伊藤七段が抜け出す

伊藤七段が専守防衛の自陣角を打った局面が分岐点となりました。ここで事前準備を外れたという永瀬九段は本局初となる長考で桂打ちを選択しますが、数手後の歩突きで桂を捕獲されては代償がなく不満なわかれ。感想戦では代えて単に香を取れば十分とされました。

辛抱強い受けでペースをつかんだ伊藤七段は駒得を頼りにじわじわと優位を拡大します。自陣の空いたスペースに控えの桂を打ったのが味わい深い好手。次に桂を跳ね出して王手をかける筋がわかっていても受けづらく、ここで後手優勢が確立されました。

終局時刻は17時8分、最後は形勢の開きを認めた永瀬九段が投了。竜王戦・棋王戦に続き藤井叡王への3度目のタイトル挑戦を決めた伊藤七段は「悲観的にならず前向きに臨みたい」と語りました。五番勝負は4月7日(日)に愛知県名古屋市の「か茂免」で開幕します。

水留啓(将棋情報局)

  • 伊藤七段は棋王戦第4局から中1日のハードスケジュールを乗り切った

    伊藤七段は棋王戦第4局から中1日のハードスケジュールを乗り切った(写真は第52期新人王戦三番勝負第2局のもの 提供:日本将棋連盟)