殺人犯の記事を役作りのヒントに
――そんな9話を撮影する前の日は、どんな準備をしたんでしょうか。
中井:“人を殺す”って、すごい精神状態じゃないですか。だから、合っているかは分からないんですけど、殺人犯の記事や本を読んだり、映画を見たりして、どんな気持ちなんだろうと想像して。撮影直前の3日ぐらいは、すごく暗い気持ちで過ごしていました。
――清美という役について考えるだけではなく、“殺人犯”という角度からも、考えを巡らせていたんですね。9話で、お互いのお芝居を見ていかがでしたか。
田中:すごいんですよ、中井さんは。絶対に噛まないし、台詞を間違えないんですよね。僕は9話で涙をわんわん流したんですけど、それも中井さん演じる清美の目を見たときに、切なさとやるせなさと、妹を生かすためにこれまでやってきたという肩の荷が下りた感覚から自然と涙が出てきたので、清美が中井さんで良かったと実感しました。
中井:テストの撮影では私が一番泣いていたのですが、本番では田中さんが泣き始めて、やっぱり人って、相手が泣いていると自分は泣くまいと強くなるというか。お兄ちゃんが泣いていることで、感情を抑えたような清美になったと思います。
中井が気になっていた本番前の談笑
――相手のお芝居で、自分のお芝居も変化していったんですね。
中井:ちょっと、田中さんに気になることを聞いていいですか? 人それぞれだと思うのですが、こういう大変なシーンや涙するシーンの前に、皆すごく談笑してたじゃない?
田中:(笑)。それ、絶対気になってるんだろうなと思っていた!
中井:純粋に聞きたいんだけど、皆どうして、本番でバッと切り替えられるのかなって。
――難しいシーンの前も、田中さんは和やかに過ごすことができていた、と。
田中:中井さんは一人で気持ちを作り込んでいるのが分かったから、皆でそっとしておこうという感じだったのですが、僕は早見さんや勝村さんと直前までワイワイ話をしていたんですよね。僕も昔は一人で作り込みたいタイプだったんですけど、それだと長い撮影の本番まで集中力が続かなくて、泣けなくなったり、感情が出せなくなったりしちゃって。あえてリラックスして、一度ゼロに持っていってから、切り替えて本番で一気に出す、というスタイルに変えました。特に9話前は、清美の言葉を受けて、返す側の役割だったので、“人の言葉を受ける余白”を自分の中に残すために、あえて人と会話していたかったんです。でも、直前まで包丁の小道具をブンブン振り回していたので、ただのハッピー野郎に見えていたかもしれません(笑)。
清美と暦なりの正義「タイムリープするほうが悪い(笑)」
――感情の作り方は人それぞれなんですね。お二人は、清美と暦をどんな人間だと解釈して役作りをしましたか。
田中:台本を読んでいても、どちらかというと未来よりは暦に共感できたし、復讐のためにまわりを傷つけるなんて普通の考えではアウトですけど、暦の中には、「母親の復讐をする」「清美を守る」という一本筋の通った正義があって。暦のズレた正義と、未来のまっとうな正義がぶつかるのが、『めぐる未来』の面白さだと思いました。僕は正直、優しい兄である暦のことをひどい奴だとは思えなくて。ただただ、そうするしかなかったんだなと。こんなにも人を思うことができるのだから、何か一つ違えば、正しい方向で生きることができたんじゃないかなと想像をしつつ、誰かを守るために正義を突き通して、自己犠牲もいとわない暦のことを、かっこいい兄だなと思います。もちろん、人を殺しちゃいけないですけど。
中井:私は、自分が清美の一番の味方でいてあげなくちゃなって、撮影期間の数カ月ずっと思っていました。見ている方が、清美に対して「ひどい」、「かわいそう」だけで終わらず、清美の強さと弱さを両方表現することで、「どっちが善でどっちが悪なんだったっけ」と考えさせられるようなシーンを絶対に作りたいと思っていました。
――「清美の味方でいてあげなくちゃ」という思いは、なぜ生まれたのでしょうか。
中井:台本を読んだときから、清美の気持ちが伝わってきて、「間違ってないことをしている」と思えたからです。
田中:「間違っていないよね」と僕たちは思っているんです。どう考えても、タイムリープするほうが悪いだろって(笑)。どの視点から見るかというだけの話で、未来が主人公だから僕たちが悪者に見えるけど、僕たちが主人公だったら未来が悪者に見えるだろうし。清美も暦も、自分たちなりの正義があって、僕たちは悪くない、正しいことをしているという気持ちを持っていたと思います。
――ありがとうございます。インタビュー後編では、萩原利久さん、早見あかりさんの印象をお伺いします。
2000年1月6日生まれ、大阪府出身。2018年「ミスiD2019」で7代目グランプリに選ばれ、2020年、日本テレビ系ドラマ『やめるときも、すこやかなるときも』で女優デビュー、2022年、『サーチライト-遊星散歩-』で映画初主演を果たした。代表作にドラマ『君には届かない。』、映画『少女は卒業しない』、『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』、『炎上する君』、『LIKE THAT OLD MAN』など。NHK総合・NHK BSプレミアム4Kドラマ『ケの日のケケケ』が3月26日放送予定、公開待機作に、映画『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!』(8月9日公開予定)がある。
2000年1月24日生まれ、大阪府出身。2012年、テレビ朝日系ドラマ『13歳のハローワーク』で俳優デビュー、『宇宙兄弟』で映画デビューを果たす。代表作に、ドラマ『無用庵隠居修行』、『東京男子図鑑』、『エール』、『君には届かない。』、映画『るろうに剣心』、『アイスと雨音』、『孤狼の血』、『桜色の風が咲く』、『ぬけろ、メビウス!!』、『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編-運命-/-決戦-』など。映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』が公開中。