2月2日に発表された米国の1月の雇用統計は強い結果でした。その後に発表された1月のISM非製造業(サービス業)景況指数なども堅調だったため、FRB(連邦準備制度理事会、米国の中央銀行)による3月利下げの観測は大きく後退しました。OIS(翌日物金利スワップ)という指標に基づけば、8日時点で金融市場が織り込む3月利下げの確率は17%と、今年初めの100%近い確率(=利下げを確実視)から低下しました。ただ、5月までの利下げの確率は8割近くあり、引き続き高いようです。


今年1月の雇用は1年ぶりの大幅増加

1月の雇用統計は、事業所調査のNFP(非農業部門雇用者数)が前月比35.3万人増と、市場予想(18.5万人増)を上回り、昨年1月(48.2万人増)以来の大幅な増加となりました。また、統計の年次改定(※)により、昨年1年間の雇用増加ペースが22.5万人/月から25.5万人/月へと上方修正されました。労働市場は引き続き堅調だと判断できそうです。

※通常はサンプル(約70万事業所)に基づく推計値を用いますが、毎年3月時点で失業保険の登録者が全数カウントされ、翌年2月(1月分)の年次改定に反映されます。季節的な凸凹を均(なら)すための季節調整係数が再計算されるため、データは5年間さかのぼって改定されます。

■雇用統計を構成する事業所調査と家計調査(後述)については、末尾の◆キーワードをご覧ください。

賃金の伸びも高まり、労働所得は底堅い

時間当たり賃金は前年比4.5%増で、前月の4.3%増から伸びが高まり、引き続きインフレ率(昨年12月PCEコアは前年比2.9%)を上回りました(=実質賃金の伸びはプラス)。<雇用者数×週平均労働時間×時間当たり賃金>で求められる総賃金指数は前年比4.7%と、伸びはジリジリと鈍化していますが、CPIの伸び鈍化と歩調を合わせた動きとなっているようです。

失業率は低水準を維持

家計調査に基づく失業率は3.7%と前月と同じ、引き続き低水準を維持しました。労働参加率は62.5%と、昨年2月以来の低水準となった前月から横ばいでした。ベビーブーマー(1946-64年生まれ)の引退により、労働参加率はかつてほどの水準には戻らないのかもしれません(※)。

(※)労働参加率は、16歳以上の人口に対する労働市場参加者(=雇用者+失業者)の割合。専業主婦や学生などが労働市場に参加すれば労働参加率は上昇します。一方で、高齢化などにより引退する人が増えると労働参加率は低下します。2000年以降、労働参加率はすう勢的に低下しており、引退者の増加が原因だと考えられます。

◆キーワード

雇用統計: 事業所調査と家計調査 事業所調査(establishment survey)は12万の企業や政府機関の、63万カ所の事業所を対象とした調査。給料のデータをもとに、全体および業種別の雇用者数、労働時間、賃金などが発表される。NFP(non-farm payroll)のPayrollは給与支払い簿のこと。当該月の12日を含む給料のデータ。事業所調査は支払った給料の数を雇用としてカウントするため、重複を避ける目的がある(主に週給制だが、2週間給制や月給制などもあり)。

家計調査(household survey)は、約6万世帯の家計を対象にしたアンケート調査。家計調査の対象期間は当該月の12日を含む1週間。調査期間中に「(1時間でも)仕事をしたか」「(しなかった場合に)職探しをしたか」、そして回答者の属性(年齢や人種など)や失業の理由などを尋ねるもの。失業率や労働参加率など様々なデータが発表される。

事業所調査と家計調査は全く異なる調査なので月々の結果が違った方向を示す場合もあるが、やや長い期間を通してみれば同じ方向を指す。