人にも環境にもやさしい有機農業。そんな有機農業の魅力に触れ、そのおいしさを味わえるイベント「小田原オーガニックフェスタ」が、12月2日、神奈川県小田原市の小田原城址公園二の丸広場で開催されました。
会場には、全国の有機農業生産者が一堂に集結。会場内の店舗には北は北海道、南は九州、さらに海外からも、有機農業で生産された各地の農産物が勢ぞろい。生産者たちが有機農業への取り組みや想いを語りつつ互いに交流を深め、多種多様な農産物や工夫を凝らした加工品、地元・小田原産の有機野菜などを楽しめるイベントとなりました。
小田原城で行われた有機農業イベント
このイベントを共催したパルシステム生活協同組合連合会(以下、パルシステム)では、提携する国内294の産直産地のうち、70の産地が有機栽培に取り組んでいます。また、その魅力を幅広く生産者・消費者に伝えるため、産地交流イベントや有機野菜セットの販売、情報メディア「KOKOCARA」での発信など、さまざまな活動を行っています。昨年12月10日に千葉県香取市で開催された「コア・フードフェスタ」もそのひとつです。
明けて2023年、今回の「小田原オーガニックフェスタ」は、新型コロナウイルスの5類感染症移行を受け、参加を希望する産地が大幅に増加。さらに生産者団体3団体と小田原市で構成された「小田原有機の里づくり協議会」の協賛により、小田原城址公園二の丸広場という絶好の会場も提供されての開催となりました。
晴天に恵まれた午前10時、すでに多くの人が集い始めている二の丸広場で、「小田原オーガニックフェスタ」の開会が宣言されました。開会の挨拶を行ったのは、小田原有機の里づくり協議会の代表理事を務める石綿敏久さんです。
石綿さんは、「有機栽培農産物を始めて、かれこれ40年。当時はまだ無農薬農産物の生産者は“変わり者”で、“変わり者”の消費者がそれを選んでいました。ですが、いまでは“変わり者”も増え、このような大イベントを開催するほどの人が集まっています。環境問題が取り沙汰される中で、我々有機農業を行う農家の使命はますます大きくなっていくと思います」と、有機農業にかける想いを述べました。
「循環」がキーワードとなった第1回トークセッション
オープニングセレモニーが終わると、さっそく第1回トークセッションが開始されます。テーマは 「有機農業を含めた環境保全型農業について」。みどりの食料システム戦略や有機農産物の情勢、有機農産物とその加工品の生産拡大を通じ、消費者の理解を深める話し合いが行われました。
みどりの食料システム戦略とは、国内における食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現することを目指し、2023年に発足した農林水産省のプロジェクトです。
農水省で農業環境対策課長を務める松本賢英さんは、「“有機農業は、持続的な農業である”という認識が日本ではまだ広まっていない状況です。我々としてもさらなる普及・拡大に努めていきたいと思っています。そのためには、消費者の方にわかりやすくお伝えすることが重要ですので、農水省としても環境負荷低減効果の見える化に取り組んでいます」と語ります。
全国から来た生産者が意見を活発に展開した第1回トークセッション。最後に司会を務めたパルシステムの工藤友明さんが、その内容をまとめます。
「みなさんがお話しされたとおり、これから『循環させる』がキーワードになってきます。日本の肥料自給率は1%にも満たない。資源がない国がどうやって食料安全保障をしていくか考えると、地域全体で農業を支える仕組みが求められるでしょう。消費者と生産者、行政といった地域の生活者が一緒に育む取り組みがもっと盛んになってほしいと思っています」。
食べ比べにスタンプラリー、抽選会とイベントも盛りだくさん!
「小田原オーガニックフェスタ」にはお米や野菜はもちろん、果実や畜産物、加工品などさまざまな有機農産物が出店されていました。スタンプラリーも開催されており、会場内に用意された3つのクイズに正解するとプレゼントがもらえるイベントも。
お米コーナーでは、JAいすみ(千葉県)、JAたじま(兵庫県)、庄内協同ファーム(山形県)といったお米の産地が出店。それぞれのお店が試食品を提供していました。普段なにげなく食べているお米でも、食べ比べるとはっきりと味の違いが分かります。
お料理コーナーでは、有機農法ギルド(茨城県)の有機野菜を使ったパルシステムのお料理セットの試食が行われていました。たっぷり有機にんじんと九条ねぎのチヂミは子どもでも食べやすいと大好評。
野菜コーナーは、エコーたまつくり(茨城県)、夢産地とさやま(高知県)、鳥越ネットワーク(福岡県)、やさか共同農場(島根県)の採れたて有機野菜が大人気。お昼を過ぎる頃には売り切れが続出していました。
鳥越ネットワークの鳥越耕輔さんはもともとプロボクサー。ですが、父親に「もしお前に帰ってくる気があるのなら規模を拡大する」と言われ、福岡県に帰ってきたそうです。最初はいやいや農業をしていた鳥越さんですが、ある日、有機農業の経営で成功している人に出会い、考え方を変えたそうです。農業は、農業従事者にとって生活を支える糧を得る経済活動。「おいしい野菜を作ることで農家が儲かる」、これも農業を持続していくうえで忘れてはならない大事な点でしょう。
果実コーナーでは、ジョイファーム小田原(神奈川県)や無茶々園(愛媛県)がキウイやレモン、温州みかん、ゆずなどを販売。採れたて果実のおいしさや、果実の旨みをそのまま活かした加工品に、多くの人が舌鼓を打っていました。
ジョイファーム小田原の鳥居啓宣さんは、小田原で有機キウイの栽培を行ってきた有機農業の先駆者です。鳥居さんは、有機農業をスタートさせたきっかけを次のように話してくれました。
「キウイって、モモやブドウと違って新芽が出てもアブラムシにやられないんですよ。しかし、綺麗な畑を作ってきた日本人は、農薬を使って虫を避けてきました。でもパルシステムさんと付き合い始めて、除草剤を使わないやり方をやっていくうちに、畑にタンポポや三つ葉が自然に生えてくるようになった。これは大事にしなくちゃいけないと思って、有機認証をちゃんと取ることにしました。それが20年前です」。
畜産コーナーには「畜産学習会」の会場が設けられており、榎本農場(北海道)の榎本裕太さんが講演を行っていました。榎本農場は、乳用種去勢牛の減少を受け、アンガス系統種の飼育を開始しました。その背景には、環境保全や資源循環、持続型畜産、アニマルウェルフェアといったパルシステムとの考えの一致があったそうです。
2017年からは国内農産物、国内製造食品副産物のみを原料とした配合飼料で新しい可能性を探っており、安定的かつ、安心・安全なコア・フード牛肉生産を行っています。明治飼糧とともに開発した配合飼料「あんしんビーフ」は、実際に会場でも触れることができました。
受付では「お米があたる抽選会」を実施。引いたくじが当選すると、喜びの声が上がっていました。
お昼には、ステージに小田原市観光PRキャラクター「梅丸」と、パルシステムの牛のキャラクター「こんせんくん」が登場。写真撮影に応じたり、ときには子どもたちと遊んだりしているワンシーンもあり、来場者を和ませていました。
自然のバランスが取れていれば虫は害虫化しない
午後に開催された第2回トークセッションのテーマは「有機農業の今後について」。全国から集まった生産者さんが、現状の有機農業の課題やこれからの展望について語り合いました。
恵泉女学園大学の教授として教鞭を執りつつ、生産者として有機キウイやブドウを育てている澤登早苗さんは、普段私たちが口にする食べ物について次のように語ります。
「畑には私たちの食べ物だけでなく、空気も水も植物もあり、土の中には微生物もいます。自然のバランスが取れていれば、虫は害虫化しないんです。これがいま農業生物多様性ということで、国際的にも認められるようになってきました。どんな風に農産物ができているのか、食べる人たちにもっと関心を持っていただきたいと思っています」。
またパルシステム静岡 副理事長の細谷里子さんは、「家庭や身近な人と食べ物の話をしてほしいと思います。まずは、今日オーガニックの話聞いてきたよ、野菜の作り方がいつもと違うんだ、みたいな話をするところから始めていきたいなと思います。勉強になりました」と、消費者の代表として話しました。
第1回、第2回トークセッションの合間には、小田原市長の守屋輝彦さんもステージに登壇。「実は私もみかん農家に生まれ育ちまして、農業の楽しさ、厳しさ、つらさ、苦しさを目の当たりにしてきました」と自らの経験を語りつつ、持続可能な農業のあり方について考えを述べます。
「日本の農業の将来はなかなか解決策が見えない状況にあります。やはり農業は産業ですので、経済ベースに乗って回っていく仕組みをどうやって作っていくか、それこそが持続可能な農業のあり方になるんだろうと考えています。そのひとつとして有機農業に世間の注目が集まり、消費者の意識もだいぶ変わってきました。『消費者が自分で価値を求め、それに見合った価格を負担する』という循環が少しずつ生まれているように感じます。本市においても、今年度中にオーガニックビレッジ宣言をしたいという思いで準備を進めているところです」。
有機農業は環境を守りながら食料自給率を向上させる一手段
大盛況に終わった「小田原オーガニックフェスタ」。最後に、パルシステムの島田朝彰さんにお話を伺うことができました。島田さんは、取り組みを始めた理由について次のように話します。
「有機農業の生産者は、増えたと言ってもまだまだ少数派で、悩みを共有できる人たちが近くにいないことが多いのです。そういった人たちが孤立しないよう、技術交流や課題解決、単純に悩みを聞いてもらう場を提供したいと思って始めたのがきっかけです」。
パルシステムは、有機米販売量1,000トンを目指しているそうです。一時は600トンまで低下したこともあったそうですが、コロナ禍で需要が増し、現在の販売量は約800トンほど。現状の生産量は約850トンであり、需要に対してギリギリ。有機農業が増えることは、パルシステムの望みでもあるといいます。
「有機農業に取り組んでいる生産者さんは、自分の信念を持ってやられている方々です。そんな農産物がちゃんと評価され、ちゃんとした価格が設定されるために、出口としてパルシステムがあると思っています。こういったイベントを通じて、『がんばっている生産者さんが、次の生産に繋げられる購入体制を取っていくので、安心して作ってほしい』という我々の想いが伝わると嬉しいです」。
一方、消費者からすれば、有機農産物はいくらおいしくて安全でも、やはり高価に感じることもあります。消費者が有機農産物を選択することはどのような未来に繋がるのでしょうか。
「有機農業は、環境を守りながら食料自給率を向上させるための一つの手段です。たくさんの肥料と農薬を使っての大量生産は、一時的な収奪農業にしかなりません。次の世代に繋げるために、有機農業を日本の農業における一つの技術として確立しなければならないと思います。そういった背景を考えながら、消費者のみなさまに『食べて応援』いただけると幸いです」と島田さん。
「農水省の松本さんが仰っていたとおり、日本にいつ“食料を輸入したくてもできない時代”がきてもおかしくありません。そういったとき、最低限お米だけでも食べられる日本にしていきたいなと思っています」と、子どもたちに対する食育の重要性についても語っていました。
今回の「小田原オーガニックフェスタ」のように行政との連携があれば、学校給食などを通じて「食の重要性」を伝えていくこともできそうです。