事業を始めようとする時、事業の内容や規模によっては開業資金が高くなってしまうケースがあります。特に個人事業主の場合、法人と比べて金融機関からの融資が得にくいという事情もあり、開業時の資金調達を課題に挙げる方も多いでしょう。

そこでおすすめしたいのが、国や地方自治体が提供する「補助金」や「助成金」の活用です。今回の記事では、個人事業主が開業時に活用できる補助金や助成金をご紹介します。補助金や助成金を申請するメリットや注意点もあわせて解説しますので、ぜひ参考にしてください。

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■補助金と助成金は何が違う?

まず、補助金と助成金にはそもそもどのような違いがあるのか確認してみましょう。

<補助金とは>

補助金とは、国や地方自治体などが支給する返済不要のお金です。主に、経済産業省や農林水産省、中小企業庁等の官公庁が実施しており、その多くが公募の形をとっています。補助金の目的は、特定の産業を育てたり、施策を推し進めたりするためで、主にスモールビジネスを含む中小企業や個人に対して交付されます。

また、補助金の特徴として、「受給の難易度が高いものも多くある」という点が挙げられます。補助金はあらかじめ交付する企業数や予算が決まっているものがほとんどですので、申請数が多いと受給の倍率が非常に高くなるケースも珍しくありません。さらに、申請期間が1ヶ月程度など短い補助金も多いです。

そのため、補助金を申請する際には、たとえ受給の要件を満たしていても、必ず受け取れるとは限らないことを意識しておく必要があります。

<助成金とは>

助成金とは、主に厚生労働省が主導している制度で、補助金と同様に返済する必要のないお金です。助成金の大半は、労働環境の改善や人材育成を支援することを目的として交付されます。

補助金との大きな違いは、助成金の場合、審査はあるものの所定の要件を満たしていれば原則として支給されるという点です。また、申請期間は随時、あるいは長期間設けられているものが多く、補助金と比べて受給しやすいのが特徴です。

ただし、人気の助成金は早期に終了してしまう恐れもあるため、その点には注意しておきましょう。

■補助金や助成金を申請するメリットと注意点

補助金や助成金を申請する際は、メリットだけでなく注意すべき点もあります。どのようなメリット、注意点があるのか確認しましょう。

<補助金・助成金を申請するメリット>

・返済が不要である

補助金と助成金は、どちらも返済する必要がありません。返済しなくて良い理由は、補助金は国税や地方税が原資に、助成金は会社と労働者が支払う雇用保険料が原資になっているものが多くあるためです。つまり、補助金や助成金の要件に該当している個人や会社は、それを受け取る権利があるのです。

返済不要な資金を確保できれば、さまざまな費用のかかる開業時には大きな助けとなるでしょう。

・融資を受ける際に有利になる

後ほど解説する「創業補助金」などを受給できれば、金融機関など外部からの信頼を得る際にも役立ちます。受給できたということは、事業計画が国や地方自治体から認められたことを意味しますので、金融機関からの融資も受けやすくなるでしょう。

・ビジョンを明確にできる

補助金や助成金を申請するには、事業計画書の作成が必要です。その過程では、事業のイメージや資金計画などを明らかにしなければならないため、起業のビジョンを明確にできるというメリットがあります。

また、審査においては、第三者から事業に関する客観的な意見をもらうことができますので、それをもとにより良い事業へと発展させることが可能です。

<補助金・助成金を申請する際の注意点>

・原則として後払いである

補助金と助成金は、原則としてどちらも後払いになります。審査に通過しても、すぐにお金を受け取れるわけではないのです。そのため、早急に必要となる資金に対応するためには、補助金や助成金ではなく金融機関からの融資を検討しなければならないでしょう。

・必ず受け取れるとは限らない

先ほどもあったように、補助金は受給が難しい場合も多く、必ず受け取れるとは限りません。また、虚偽申請が発覚したり、申請後や支給後に要件から外れたりした場合は、支給されたお金の一部または全額の返還が求められますので、適正に制度選びや申請を行いましょう。

・書類の作成に時間がかかる

補助金や助成金の申請には、事業計画書や申請書類の作成が必要です。また、審査を通過した後も、資金の使い道などを書類で報告しなければなりません。特に起業したばかりですと、書類の作成に慣れておらず作業に時間がかかる懸念があります。

■個人事業主が開業の際に活用できる補助金・助成金7選

このようなメリットや注意点のある補助金・助成金ですが、日本には数千種類もの補助金や助成金があると言われています。その中でも、個人事業主が開業する際に役立つ補助金・助成金を、7つピックアップしてみました。

<補助金>

1.IT導入補助金

IT導入補助金は、業務効率化や売上アップなどを目的にITツールを導入する個人事業主や中小企業を支援する制度です。たとえば、POSレジシステムや予約・顧客管理システム、クラウド利用料など、ITツールの導入にかかった費用の一部について補助が受けられます。

日本ではDXがまだ充分には進んでいませんが、デジタル化・自動化が進めば、労働環境の改善や生産性の向上につながることでしょう。特に費用面でDX推進をためらう個人事業主、企業は多いですが、IT導入補助金によって対応するのも選択肢の1つです。

2.ものづくり補助金

ものづくり補助金は、中小企業や小規模事業者が働き方改革や賃上げ、インボイス制度など相次ぐ制度変更に対応するための制度です。正式名称は「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」といい、新しいサービスの創出やものづくりに関わる費用の一部を補助してくれます。

ものづくり補助金には、「通常枠」「回復型賃上げ・雇用拡大枠」「デジタル枠」「グリーン枠」「グローバル市場開拓枠」などの枠があり、毎回人気の高い補助金の1つとなっています。

3.小規模事業者持続化補助金

小規模事業者持続化補助金は、小規模事業者や特定非営利活動法人を対象とした制度です。これらの事業者が、今後行われる制度変更に対応し、生産性向上や持続可能な経営に向けた販路開拓に取り組む際の経費を一部補助します。

補助の対象となるのは、販路開拓や業務効率化のための取り組みにかかった費用で、たとえば、ネット販売システム構築費用、商品PRイベントの費用、新商品の開発費などが当てはまります。

また、この補助金を受ける条件として、「経営計画の作成を、商工会や商工会議所と一体となってする」ことが挙げられており、商工会議所の指導・助言を受けられる点もメリットです。

なお、小規模事業者持続化補助金には複数の枠がありますが、2023年から新たに「インボイス特例」が設けられ、免税事業者から適格請求書発行事業者に転換する「インボイス転換事業者」に対しては、各枠の補助上限が一律50万円上乗せされることになりました。

4.事業承継・引継ぎ補助金

事業承継・引継ぎ補助金とは、事業承継などを機に新しい取り組みを行う中小企業や小規模事業者を支援する制度です。「事業承継」とは会社の経営を後継者に引き継ぐことですが、この補助金では、以下のようにして後継者が事業を引き継ぐ(引き継いだ)ことが該当します。

法人の場合: 先代経営者の退任および後継者の代表就任
個人事業主の場合: 先代経営者の廃業・後継者の開業

また、事業承継・引継ぎ補助金には「経営革新」「専門家活用」「廃業・再チャレンジ」の3つの区分があり、それぞれの取り組みに要した経費の一部について補助が受けられる仕組みとなっています。事業承継・引継ぎによる開業を考えている方は、この補助金の活用を検討してみましょう。

5.創業補助金(名称は自治体によって異なる)

創業補助金は、各地方自治体が実施している創業者向けの補助金で、名称は補助金や自治体によって異なります。たとえば、茨城県の「水戸市創業期支援補助金」は、創業後5年以内の個人または法人が対象で、ホームページ作成費用や広告費、販促費などの経費が補助の対象となります。

こうした創業補助金はすべての自治体にあるわけではなく、個人事業主が対象から外れたり要件が厳しかったりする場合もありますが、開業した地域に自分が利用できる補助金がないか一度調べてみるといいでしょう。

<助成金>

6.キャリアアップ助成金

キャリアアップ助成金とは、アルバイトや派遣社員など非正規雇用労働者のキャリアアップや、従業員のスキルアップによる賃金向上などを目的とした制度です。元々は「正社員化コース」「人材育成コース」「処遇改善コース」の3コースだけでしたが、現在は助成内容によって以下の6種類に分かれています。

「正社員化コース」
「賃金規定等改定コース」
「賃金規定等共通化コース」
「賞与・退職金制度導入コース」
「短時間労働者労働時間延長コース」
「社会保険適用時処遇改善コース」

キャリアアップ助成金に限った話ではありませんが、助成金は補助金と異なり、要件を満たしていれば基本的に審査で落とされることはありません。起業する時に人を雇用する予定がある場合は、あらかじめ活用を検討しておきましょう。

7.人材確保等支援助成金

人材確保等支援助成金は、従業員の働きやすい職場づくりを目指し、雇用管理の改善や生産性向上などを行った事業者へ支給される助成金です。この助成金は、「テレワークコース」や「人事評価改善等助成コース」など、業種や目的別に9つのコースに分かれています。

それぞれのコースで要件や助成金額は異なりますが、たとえば、「テレワークコース」なら「期間内に1回以上、労働者全員がテレワークを実施するか、週平均1回以上テレワークを実施すること」が要件となっています。

■補助金や助成金を上手に活用しよう

補助金や助成金を受け取ることができれば、ためらっていた設備投資を進められるなど、事業を発展させるのに大いに役立ちます。ただし、補助金や助成金は各制度によって内容や要件、金額などが異なりますので、申請前にはそれぞれの詳細をよく確認するようにしましょう。また、年度や時期によって内容が変更されている補助金・助成金も少なくありませんので、あわせて把握しておくことが大切です。