内臓脂肪の多い人は免疫機能が弱い、肥満の人はウイルス感染症の重症化リスクが高い―――。キリンと花王は24日、そんな研究結果を発表した。これは国内では初めての、そして世界的にもまだ論文が報告されていない発見だという。
■免疫ケア×内臓脂肪の研究者がタッグ
和歌山県立医科大学が主宰し、NPO法人ヘルスプロモーション研究センターが取りまとめているコホート研究「わかやまヘルスプロモーションスタディ」に参画し、2022年11月から免疫の司令塔(プラズマサイトイド樹状細胞、以下pDC)の活性、および内臓脂肪の関係について調査と研究を行ってきた、キリンホールディングスと花王。
キリンホールディングス ヘルスサイエンス事業本部の藤原大介氏は「当社は免疫ケアについて長く研究してきました。そんなキリンが、内臓脂肪、および生活習慣病について最も詳しく研究されている花王さんと協力し、両社の強みを持ち寄って今回の研究を進めました」と概要を紹介する。
はじめに、前提となるウイルス感染症とpDC活性の関連性については「若者はウイルスに感染してもpDCが速やかに活性化するため、ウイルスを減らすことで重症化を防ぎます。でも高齢者はpDC活性が弱いためにウイルスも増えやすい。これが高齢者がウイルスに弱いメカニズムだろうということが言えます」とあらためて説明する。
一方で、花王の大里直樹氏は「内臓脂肪は胃や腸のまわりについている脂肪のことです。メタボリックドミノの概念では、内臓脂肪の蓄積をきっかけに食後高血糖、高血圧、高脂血症など複数の症状が組み合わさって、どんどん疾患が悪化していきます」と説明。そこで花王ではこれまで、見えない内臓脂肪を見える化する研究、内臓脂肪をためない食事の研究、内臓脂肪をためない歩き方の研究などを重ねてきた、とアピールする。
そして本題となる今回の研究成果だが、和歌山県にて50~55歳の住民223名を対象に実施した特定健診(2022年11月)で得られたものとなる。花王が生活習慣や内臓脂肪面積のデータを取得し、キリンが血液中のpDC活性に関するデータを測定。そのデータを相互に共有して、内臓脂肪とpDC活性の関わりを共同で研究・解析した。
研究方法は以下の通り。まず内臓脂肪面積について、全ての被験者の中央値である77cm2を基準とし、77cm2以下の人を内臓脂肪が低い群、77cm2より多い人を内臓脂肪が高い群に設定。pDC活性についても同様に、全ての被験者の中央値である9.52%を基準とし、9.52%以下の人をpDC活性が低い群、9.52%より多い人をpDC活性が高い群と設定した。
そして内臓脂肪面積とpDC活性の関係性を調べた結果、内臓脂肪面積値が高い群は低い群と比較して30%もpDC活性が低いことが分かった。
内臓脂肪面積値が高い群は低い群と比較して、オッズ比として7倍高く新型コロナウイルス感染症に罹患。一方で、pDC活性の値が低い群は高い値の群と比較した場合、オッズ比として5倍高く新型コロナウイルス感染症に罹患した。
さらに内臓脂肪面積とpDC活性の高低による相乗効果を確認することを目的に4群に分けて解析したところ、内臓脂肪面積値が高くてpDC活性の値が低い群は、内臓脂肪面積値が低くてpDC活性の値が高い群と比較してオッズ比として20倍高く新型コロナウイルス感染症に罹患。同様の結果が、新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの両方の罹患との関係でも確認できた。
そこで両社では「今回の共同研究により、内臓脂肪面積値が多い人ではpDC活性が低いことが日本で初めて確認できました。また内臓脂肪面積やpDC活性はそれぞれ、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザの罹患しやすさに影響をおよぼし、内臓脂肪面積値が高くてpDC活性が低い場合は、特に罹患しやすいことが示唆されました。このことから内臓脂肪面積値が多くてpDC活性が低い人は、内臓脂肪量と免疫機能の両方をケアすることが重要である可能性があります」と結論した。
なお今回の研究成果は、宮城県で開催される第44回日本肥満学会・第41回日本肥満症治療学会学術集会(2023年11月25日~26日)で発表されるという。