第82期A級順位戦(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)は、2回戦の広瀬章人八段-斎藤慎太郎八段戦が8月9日(水)に関西将棋会館で行われました。対局の結果、角換わり腰掛け銀のねじり合いを119手で制した斎藤八段が今期初勝利を挙げました。

角換わり腰掛け銀の定跡開拓

両者6度目の対決となった本局は(斎藤八段の3勝2敗)、二人の意図がかみ合ってすらすらと角換わり相腰掛け銀の定跡形に進みます。後手番らしく4筋に飛車を回って専守防衛の陣を敷いた広瀬八段に対し、先手の斎藤八段はテンポよく右桂を跳ねて戦端を開きました。同一の実戦例がなくなった昼食休憩明けあたりから長考合戦が始まります。

飛車先の歩交換を果たした斎藤八段は勢いをそのままに横歩を取って攻撃を続行。この飛車はすぐに捕獲されますが、これを敵銀と刺し違えたのが直前109分の長考で用意していた斎藤八段の継続手でした。駒損の代償として、斎藤八段は右銀を繰り出すことで角取りをかけつつ後手の玉頭にプレッシャーをかけることができます。

斎藤八段圧巻の読み切り

先攻を許した後手の広瀬八段ですが、飛車を手に入れたのは確かな実利。さっそくこれを敵陣に打ち込んで反撃を開始します。歩の手筋を駆使して先手陣を乱したのは好調な攻めですが、手順中に角を犠牲にしたのはわずかな懸念点です。局面の焦点は、駒台に載る斎藤八段の二枚角と盤上にある広瀬八段の二枚飛車のどちらが働くかに絞られています。

広瀬八段の攻めが一段落した局面で、先手の斎藤八段は攻防手を用意していました。自玉近くの空間を埋めるように自陣角を打ったのがそれで、この角は遠く後手の銀を狙う八方にらみの駒になっています。この直後、広瀬八段は先手陣にスキありと見て鋭い捨て駒の連続で迫りますが、斎藤八段はその切っ先がわずかに届かないことを読み切っていました。

終局時刻は0時29分、最後は自玉の詰みを認めた広瀬八段が投了を告げて斎藤八段の勝利が決まりました。一局を振り返ると、広瀬八段の二枚飛車による猛追を丁寧な読みで余しきった斎藤八段の対応力が光る一局となりました。これでスコアは両者1勝1敗に。3回戦で斎藤八段は永瀬拓矢王座と、広瀬八段は佐々木勇気八段と対戦します。

  • 斎藤八段は終盤、最後に費やした19分の長考で後手からの猛攻を読み切った(写真は第79期名人戦第1局のもの。提供:日本将棋連盟)

    斎藤八段は終盤、最後に費やした19分の長考で後手からの猛攻を読み切った(写真は第79期名人戦第1局のもの。提供:日本将棋連盟)

水留 啓(将棋情報局)