上野動物園生まれのパンダのシャンシャンは、パンダファンにとって特別な存在。母親シンシンの妊活から待望のシャンシャン誕生、中国返還までを振り返ってみたい。

  • 「シャンシャンは特別顔がかわいいんだよね」唯一無二の特別な存在だったシャンシャン。

唯一無二の特別な存在、シャンシャン

「シャンシャンは特別顔がかわいいんだよね」

シャンシャン(香香)は、上野動物園で、2017年6月12日に生まれたジャイアントパンダのメス。「パンダなんてみんな同じ」なんて思っている人もいるかもしれないが、とんでもない。黒と白の模様の具合、目の位置、体形などが1頭ごとに異なる。

シャンシャンは、丸っこい耳がちょこんとついたぷっくり丸顔。口角が上がっていて、いつも笑っているようで本当に愛らしい。

日本パンダ保護協会の名誉会長も務める黒柳徹子さんも、「今いるパンダの中で、一番かわいいと思う」と語っていたっけ。

シャンシャンは、我々にとって唯一無二の特別な存在なのだ。それなのに、2020年11月、中国への返還が発表された。新型コロナウイルスにより返還は延期となり、もうずっと日本にいるのでは? とほのかに期待したものの、2023年2月21日、シャンシャンは本当に中国に帰ってしまった。寂しい……。

シャンシャンの母親であるシンシンは、シャンシャンの前にも何度か妊娠や出産を経験している。残念ながら、流産や死産もあった。1988年以来29年ぶりとなる2012年生まれの赤ちゃんは、誕生7日目に亡くなった。

期待されていただけに、動物園スタッフも地元上野の人々もパンダファンも、深刻な赤ちゃんパンダロス。状況を説明するための開かれた記者会見では、パンダ担当者の一人が涙を流していた。

そんな悲しい過去を乗り越えてのシャンシャン誕生は、もはやお祭りであった……!

パンダの妊娠・出産の特異性と難しさ

パンダは交配後、83~200日(個体差あり)の妊娠期間を経て出産する。発情期は年1回、2~5月に訪れるが、メスの妊娠の可能性が高まるのは、ほんの数日のみ。スタッフは行動の変化や、尿中ホルモン値などを確認しながらタイミングを見極める。

ペアのオスとメスとはいえ、普段は別々に飼育し、妊娠可能期間だけ一緒にするのが望ましい。こうすることで、パンダの自然な繁殖行動をうながすことができるからだ。

無事に生まれてからも油断はできない。パンダの赤ちゃんは100グラムほどと、非常に小さな体で生まれてくる。これは、母親の体重の900~1000分の1程度で、哺乳類の中で最も小さい方だ。

こちらはフリー素材として公開されていたパンダの赤ちゃんのイラスト。黒色が薄く出た状態で描かれているが、生まれたては全身ピンクだ。

母親パンダは、赤ちゃんパンダを常に両手(両前足)で抱いて過ごす。飲まず食わずに世話に明け暮れる時期もあるとか。

フィーバーにあやかるべく、筆者も週刊誌などにパンダの記事をいくつか書いた。赤ちゃん誕生から間もないころ、動物学者の今泉忠明さんに話を聞く機会があったが「担当者は緊張の続く日々だと思うよ」と教えてくれた。

その数日後、上野動物園での記者会見にも参加することになった。確かに、ピリッとした空気を漂わせつつも、パンダチームの赤ちゃんに対する大きな愛情を感じさせる会見であった。

全身ピンクだから名前は「ピンクピン太郎」!?

シャンシャンは147グラムと、平均的な体重であった。誕生翌日、NHK街頭インタビューで、赤ちゃんパンダの名前を問われた女の子はこう答えた。

「ピンクピン太郎」

確かに、白黒のパンダの赤ちゃんが全身ピンク色なんて思わないよね。過去、パンダの名付けを過去に多く的中させたパンダ界の偉人である安住紳一郎アナウンサーほか、ネットユーザーも「確かにピンクピン太郎すぎる」「それがいい!」と大興奮。

だが、名前は一般公募を経て「シャンシャン」に決定。中国語で「香香」と書き、「香」は「花開く明るいイメージ」を持つ。シャンシャンは呼びやすくて素敵な名前だけど、「ピンクピン太郎」のワードを今でもときどき思い出し、口元がにやけることがある。

成長を多くの人がライブカメラで見守った

頼りない姿だったのにいつの間にか目が開き、歯が生え、歩けるようになり、木に登れるようになり……と、ネットニュースも新聞もシャンシャンの成長をたくさんの記事で伝えてくれた。

2017年12月19日、母親のシンシンとともに公開スタート。公開初日は、45倍以上の倍率を勝ち抜いた400組が観覧。その後、一般公開がはじまり、半月で観覧者は10万人を突破した。一般公開と同時に、シャンシャンの様子をリアルタイムで伝える「シャンシャンライブカメラ」もスタート。

ママに引きずられてかわいい! 木に登ってえらい! 寝ているだけで尊い!

ライブカメラ映像があまりにもかわいすぎた。寝ているだけなのにいつまでも見ていたい、シャンシャンライブカメラが気になるから早く家に帰りたい、そんな日々だった。

シャンシャン1歳の誕生日のころ、筆者も上野動物園を訪問した。長い行列に並んで、ほんの短時間だけ観覧できた。木に登ってスヤスヤねんねしている!

  • 【写真】全身ピンクだから「ピンクピン太郎」!? ではなく名前は「シャンシャン(香香)」に。もしかしてもうずっと日本にいるのでは? と、ほのかに期待したが…

こんなかわいい生き物が自然に発生するなんてなんかの間違いでは!? 動画で見続けてきたので、昔からの知り合いに会うような不思議な親近感まで覚えた。

動物園の売店はパンダだらけで、さまざまなパンダグッズが飛ぶように売れていた。

中でも、「ほんとの大きさパンダの仔」ぬいぐるみは大人気であった。生後2日目(全身ピンク・147グラム)、10日目(うっすら黒色が出てきた284グラム)、20日目(ほぼ完全白黒・608グラム)と、成長過程の赤ちゃんパンダを本当の大きさ&重さのぬいぐるみで表現する、そのセンス!

もしかして、もうずっと日本にいるのでは!?

かわいすぎるアイドル、シャンシャン。2019年11月には母親と別居し、独り立ちとなった。2020年11月、中国への返還が発表されたが、新型コロナウイルスにより延期が決定。

もしかして、もうずっと日本にいるのでは? と、ほのかに期待したものの、2023年2月21日、シャンシャンは中国に帰ってしまった。でも、好奇心旺盛でおてんばなシャンシャンだから、遠い中国でも元気に木に登り、楽しく過ごしているはず!

はあ、でもなんて寂しいんだ。

※※写真とイラストは筆者撮りおろしとフリー素材です。ありがとうございました。