BtoB市場を主力としている企業はたくさんあるが、BtoCに活路を見出し、新たなビジネスに取り組もうと試行錯誤を続けている企業もいる。奈良県に拠点を持つ国広産業もその中の一社で、ここ数年はBtoCに目を向け、新たな製品開発を続けていた。同社はここへきてNTT DXパートナーと協力体制を構築。奈良県や地元の金融機関である南都銀行などのサポートもあり、新商品を開発し、応援購入サービス「Makuake」での先行販売を開始した。国広産業の社内へ向けた発表会の模様を紹介しよう。
ワクワクとドキドキを社員と共有
7月7日、奈良県葛城市にある国広産業本社の社屋の一角に、同社の新たなチャレンジとなるBtoC向け製品の発表会が開催された。国広産業は1972年の創業以来、バレル研磨用プラスチックメディアの製造に特化した形で成長を続け、現在では国内シェア70%を誇るニッチトップ企業となっている。
「国広産業様はこれまでBtoB市場で成長してこられましたが、お客様に直接製品を届けるためにはどうすれば良いかという考えのもと、私たちNTT DXパートナーと共にこの5カ月間、プロジェクトを進めてきました。今回はみなさんの会社がどのような取り組みを行い、その結果どんな製品が生まれたかご紹介したいと思います」と、冒頭で語ったのはNTT DXパートナーの朴 在文氏(以降、朴氏)だ。
国広産業は2022年8月に奈良県が行った施策「デジタルマーケティング伴走支援事業」に採択され、ECサイトの構築を加速、その後2023年2月からNTT DXパートナーと協力体制を構築し、BtoC市場へ向けた製品開発を進めてきたという。
「私たちがこれまで行ってきたビジネスはBtoBという商流であり、OEMという販売形態がほとんどでした。そうした形のビジネスでは、お客様のニーズを拾ってより良いサービスをご提案することや、自らの力で市場を構築、製品の価格をコントロールすることが難しいという課題を長年抱えてきました」と、国広産業の代表取締役 影石 崇氏は、新たなビジネスに取り組むことになった経緯を語る。
そんな同社がBtoCを意識し始めたのは、意外な出会いからだった。「2018年12月に新価値創造展に初めて出展しました。そこでは私たちとこれまでまったく関係が無かったデザイナーや建築士といった方々から、この石は何でできているのですか? 新しい素材ですね! とたくさんのお声をいただきました」と影石氏は当時を振り返る。
自社にとっては研磨石でしかなかった石が、他の業界から見れば素材になる。それを知った影石氏は、B2Cでも自社のノウハウを活かすことができるのではないかと、製品開発を始めたのだ。「バレルで石を磨くと、とても滑らかな質感になる。これにデザインや機能を持たせればよい製品ができると考えました」(影石氏)。
堅実に製品開発を進める一方、これまでBtoB市場が長かった国広産業は適切な販路を持てないでいた。そこで同社が考えたのが先ほど紹介したEC事業への参入だったというわけだ。「さらに私たちにはECサイトを運用していくノウハウもありません。そこで南都銀行様、NTT DXパートナー様にお願いして、商品開発、販売促進を目的とした取り組みを始めたのです」と影石氏は、これまでの経緯をスライドを交えながら社員たちに説明した。
壇上のスクリーンには、今回のプロジェクトで起こった様々なイベントがPVとなってダイジェストで放映された。失敗あり、苦労ありと紆余曲折を経て、ようやく製品が形になった様子がよく分かる内容だった。そして、スライドが変わり、国広産業から生まれた新たなブランドが発表された。
「新しいブランド名は『stone +(ストーンプラス)』となります。石を手に持ったときの落ち着いた感じ、やすらぎなど、人それぞれの感覚をプラスしていただく。『暮らしに石を。ときめきを。』というサブテーマがまさにそれを表現しています」と影石氏。石の持つ魅力をユーザーがそれぞれ五感で得られるような、そんな思いが込められたブランド名だ。
国広産業にしか創れない"石"のスマホスピーカーで市場に挑戦
発表されたスマホスピーカーは電源コネクタとの接続無しに使えるので、キッチンでも使えるほか、キャンプなどのアウトドアでも活躍する。
独特の滑らかな質感の本体の上部にあるスマホ用のスペースに差し込むと、石の本体全体が共鳴するような感覚で音が広がっている。市場によくある製品と比較してもらったが、音の温かさはこちらの方が上に感じる。エッジの聞いた楽曲よりは、柔らかなサウンドとの相性が抜群のように思う。この辺は人によって感覚が異なるので、ぜひ実物でチェックしていただきたい。
ベージュとブラックがラインアップ。台座のカラーを変えることでコーディネートも楽しめる。
新製品が発表された後、自由にスマホスピーカーに触れられる時間が設けられた。興味津々で壇上にある製品に歩み寄る社員たち。開発に加わった社員でも、完全版となる製品を見るのは初めてという人も多く、サウンドを比べたり、手に持ったりしながら感慨深い表情をしていた。
発表会を終えて、国広産業 影石氏とNTT DXパートナー 朴氏は以下のように語った。
「50年の歴史がある弊社ですが、今回の取り組みが大きな転換点だと考えています。ただし、今回の製品にたどり着くまでには苦労もありました。例えば、人造石の品質には特に気を遣いましたし、短期間のうちに納得のいく品質のものを作るには、NTT DXパートナーのみなさまとの協力体制と、開発に関わった弊社の社員の切磋琢磨とチームワークが必須だったように思います。
今回の経験で、弊社の技術も上がりました。そのノウハウは既存のお客様がご利用になる研磨石にも十二分に活かされていくので、主幹事業にも好影響が残せることになります。
国広産業には『Stoneで世界を彩り豊かに』というビジョンがあります。石を通じて生活を良くしていただく。研磨事業も貢献していると思いますが、今回から一般のお客様にも私たちの思いを届けたいと考えています。この後も、第二弾、第三弾を用意しています。ですので、みなさま今後ともよろしくお願いします」(国広産業 影石氏)
「ECサイト構築から始まり、2023年の2月からは一緒になってそこで販売する製品開発を始めました。スマホスピーカーは人気のアイテムですが、石で作られたものはそれほど存在していないため、チャンスがあると思いました。当初は高級スマートフォンの重厚感に見合う品質がなかなか出ませんでしたが、スタッフのスキル向上や人員の追加などの強化していくうちに狙った品質が出てくるようになりました。その頃には私たちNTT DXパートナーと国広産業様で構成される開発チームのチームワークもとても良くなり、二人三脚のように息の合った業務がこなせるようになりました。
当初の苦労を考えると、今日この日にスマホスピーカーが発表できるとは思ってもみませんでしたが、国広産業様と関わってこられて本当に良かったと思っています。とはいえ、これはゴールではなく通過点です。最終的に国広産業様が継続的にBtoC市場で成長できるような仕組みを作ることがゴールだと考えているので、そこまでの導線をどのように作っていくのか、今後もご協力させていただければと考えています」(NTT DXパートナー 朴氏)