日本テレビの水曜10時のドラマ枠といえば、新米知的財産部員が“特許”を巡り奮闘する前クールの芳根京子主演『それってパクリじゃないですか?』や、元天才ヴァイオリニストが地方交響楽団を立て直していく1月期の門脇麦主演『リバーサルオーケストラ』、お金も家もないシングルマザーが漁業の世界へ飛び込む昨年10月期の奈緒主演『ファーストペンギン!』など、いずれも“働く女性”が主人公の作品ばかり。むしろそれをこの枠の強みとしてきたわけだが、今作は2016年の大野智主演『世界一難しい恋』以来、7年ぶりの単独男性主演作品となっている。おのずと、なぜここでシフトチェンジを図ったのか?と考えてしまうのだが、その意図は新鮮みを出すため以外にも隠されていた。

今作は、昨今の「男性も女性も関係ない」「男だから女だから」という紋切り型にしないフラットな視点を持ち合わせており、 人間の本質をいかに見ることができるかという部分を突き詰めている。それは今だからこそできることで、今描かなければいけない題材と言っていいだろう。ある意味、現代を映す鏡=社会性も持ち合わせつつ、けれど、堅苦しくなく実に軽快に描けるのは、日本テレビの水曜10時枠だからこそではないか。

■これまでの波瑠には見られなかった魅力に気付けるキャラクター

こうした様々な難しい要素を見事に体現しているのが、主演の赤楚だ。10年恋愛から遠ざかっている“恋愛の仕方忘れちゃってる男子”をカッコいい俳優が演じてしまうことのリスクを最小限にし、劇中で次々飛び出す“あざとさ”にも全く嫌味を感じさせず、情けなさがありながら見捨てられない、応援したいと思わせてしまう中性的なキャラクターをここまでナチュラルに演じられるのは希少だ。

少年のような容姿でありながら芯がある大人っぽさも内包しつつ、だけどやっぱり頼りない…という向井くんの絶妙なアンバランスを赤楚が体現しているからこそ、このドラマが持つアンバランス…簡単そうに見えて実は難解…を独自性のあるエンタテインメントへ昇華することに成功しているのだ。

  • 赤楚衛二(左)と波瑠 (C)日テレ

向井くんの恋の相談相手・洸稀を演じる波瑠だが、彼女が主演のラブコメで水曜10時と言えば、この枠では『#リモラブ ~普通の恋は邪道~』(20年)や、前回の男性主人公だった『世界一難しい恋』(16年)、また何より前クールの今枠の裏『わたしのお嫁くん』(フジテレビ)にも登場していたため、若干食傷気味な予感もあったが、心配ご無用。これまでは、仕事はできるが“恋愛には疎い”キャラクターが多かったが、今回は恋愛にかかわらず“人間”を俯瞰でとらえることができる“マスター”のような女性を演じており、新鮮だ。逆に、これまでの波瑠には見られなかった魅力に気付けるキャラクターに仕上がっている。

■恋愛ドラマでありながら“自分探し”も内包

第1話を見終えると『こっち向いてよ向井くん』というタイトルが、自問自答、自身への問いかけのようにも思える。恋愛ドラマでありながら“自分探し”も内包した作品なのだ。しかし、“自分探し”と言ってもめんどくさい話では一切なく、様々に魅せるエンタテインメントの仕掛けが施されている、楽しいけれど人間が知れる奥深い作品だ。特に、ドラマチックな出来事が向井くん自身に散々降りかかってきたのにもかかわらず、最後の最後に放った一言にはとてつもない“軽さと深み”を感じてしまった。

向井くんは一体誰に振り向き、そして自分自身にも向き合えるのか。恋愛ドラマとして、人間ドラマとして、最後まで見逃せなくなりそうだ。

  • 田辺桃子 (C)日テレ