きょう12日にスタートする赤楚衛二主演ドラマ『こっち向いてよ向井くん』(日本テレビ系、毎週水曜22:00~)。ねむようこの同名漫画を原作にした、雰囲気も性格も良く仕事だってできるのに、なぜか10年も恋愛から遠ざかっている“恋愛の仕方忘れちゃってる男子”が主人公のラブコメディーだ。

これまで数多(あまた)制作されてきた、恋愛に積極的ではない女性が主人公のラブストーリーを、あえて性別を逆転させただけのドラマかと思いきや、単純そうに見えて実は難解で、その難解さをミステリーのようにひも解いていく気持ち良さがありつつ、そう簡単に解決できるほど甘くない…というほろ苦さも残した、実に味わい深い“ヒューマン”ラブコメディーに仕上がっていた。

  • 『こっち向いてよ向井くん』に主演する赤楚衛二 (C)日テレ

    『こっち向いてよ向井くん』に主演する赤楚衛二 (C)日テレ

■“いつものラブコメ”が巧妙なトリックに

このドラマの特徴は見る前と見た後で、全く印象が異なる点を挙げたい。タイトル『こっち向いてよ向井くん』という文面からは、振り向いてほしい女性と振り向いてくれない男性という構図が想像できてどこか“男性優位”な目線を感じる。また、キービジュアルも主人公・向井くんを演じる赤楚衛二のアンニュイな表情から、女性視聴者への“萌え”を意識したあざとさが感じられ、“恋愛の仕方忘れちゃってる男子”というフレーズも、よくある女性視点のドラマから性別を変更しただけの安易さが感じられてしまう。いずれにしても、どこかで見たことあるような、狙いすました“いつものラブコメ”を想像してしまっていたのだが、そう見える部分こそ実は、巧妙なトリックとなっていたから驚きだ。

冒頭、主人公である向井くんのキャラクターが、同僚たちとの軽快なやりとりの中で紹介されていくが、33歳で独身、かつ童顔で周りへの気配りを忘れず仕事もできるという設定には、あからさまな恋愛下手や、恋愛に対して物臭な態度は一切見られない“普通の好青年”として映る。そんな“普通の好青年”でありながら、恋愛し結婚して子供を持つ…という一般的な“普通”は手に入らない。その葛藤をリアリティーをもって描いていくのだが、逆にその状況があまりに普通で好青年であるがゆえに、ドラマの主人公として面白みに欠けるのでは?と感じてしまいそうになる。

しかし、その“あまりに普通の好青年”こそが、このドラマ全体のフックとなっており、またタイトルから感じられた“男性優位”という部分が、まさか主人公自らに降りかかってくる…という複雑な構造を見せてくる。それは一体どういうことなのか。簡単に見えるけれどそう単純ではない…というこのドラマの奥深さを楽しんでほしい。

  • 生田絵梨花(左)と赤楚衛二 (C)日テレ

■“あざとさ”の真の正体が、後半に待ち受ける

第1話では、10年前に別れた元カノ・美和子(生田絵梨花)を今も引きずりながらも、職場にやってきた派遣社員の真由(田辺桃子)の登場によって、向井くんに再び恋のスイッチが入るか!?…というストーリーが展開されていく。そこでは、向井くんの紳士的な態度にプラスしてほんのり“抜け”の部分も見せる、つまりキービジュアルから読み取れる“あざとさ”を感じ、赤楚のナチュラルさも相まって、その“あざとさ”だけで恋愛描写を突破していくんだなとたかを括ってしまいそうになる。

だが、物語が進んでいくとなんだかおかしい…。見ているうちに、そんな向井くんの“あざとさ”はもちろん、様々なキャラクターや映像にまで“あざとさ”が交錯し始めて、一体それはどんなサインなのか?何のためのモーションなのか?なぜ“それ”を意味ありげに映すのか…、どんどんフラストレーションが溜まっていく展開になっていくのだ。

実はそれもまた、このドラマの狙いであることが分かってくる。先の主人公の“普通の好青年”という設定、キャラクターや映像による“あざとさ”の真の正体が、後半に待ち受ける解決編で明かされることになるのだ。この部分はまさに謎解きドラマのようで、伏線回収をしていくような爽快感がある。恋愛ドラマでありながら、一体どんな謎解きが待ち受けるのか。