ロールス・ロイス初の電気自動車(EV)「スペクター」が日本に上陸した。フル充電の走行距離は530km(WLTP)、価格は4,800万円から。納車開始は2023年の秋から冬にかけての予定だ。ついにロールス・ロイスも電動化の道に足を踏み入れたわけだが、これにより「ロールス・ロイスらしさ」はどうなるのか。聞いてみた。
静粛性は「エクストリーム」な領域に
ロールス・ロイスによればスペクターは「ウルトラ・ラグジュアリー・エレクトリック・スーパー・クーペ」であるとのこと。ボディタイプは両側に1枚ずつドアがある2ドアクーペだ。ドアはロールス・ロイス史上、最も長い。
EVとして気になる航続距離は530km。動力性能は最高出力430kW、最大トルク900Nm、0-100km/h加速は4.5秒だ。このクルマの開発に当たりロールス・ロイスでは、「400年以上の使用を想定した250万kmに及ぶテスト・プログラム」を実施したとのこと。過酷な路面状況や気候条件でスペクターの性能を試してきたという。
ロールス・ロイスが「ファントム」「レイス」「ゴースト」などの車名を使っているのは、大きくて強力なエンジンを積んでいるにもかかわらず「幽霊」のように静かに走るからだと聞いたことがある。静粛性が同ブランドにとってひとつの強みだったわけだ。
ただ、クルマがEVになれば静かであることは当たり前になる。エンジンを積んでいないから当然だが、どのメーカーが作ったEVも乗ってみるとかなり静かだった。そうすると、EVにおけるロールス・ロイスの強みとは何になるのか。スペクター発表会の会場でロールス・ロイス・モーター・カーズ プロダクト・スペシャリスト・エレクトリフィケーション・ストラテジーのフレッド・ウィットウェルさんに聞くと、こんな答えが返ってきた。
「確かに、静粛性とインスタント・トルク(走り出す際に瞬発的に大きなトルクを発生させられること)はロールス・ロイスの特徴です。いつも静かで瞬発的に大きなトルクが発生させられるのは、V型12気筒エンジンでモーターの走りを再現しようとしていたからです」
ロールス・ロイスの共同創業者であるチャールズ・ロールスは、120年以上も前にクルマの電動化を予言していたという。静かで揺れなくて速いEVのよさをわかったうえでクルマを作ってきたロールス・ロイスにとって、クルマの電動化は同ブランドの強みをさらに磨き上げるための契機になったのかもしれない。
ウィットウェルさんによると、スペクターではバッテリーをフロアパンと融合させることで静粛性を向上させている。路面とキャビンの間に入るバッテリーが遮音材のような役目を果たすのだという。その効果も相まって、スペクターは「エクストリーム・サイレンス」(究極の静けさ、ウィットウェルさんのコメント)を実現できたとのこと。テストでは「あまりに静かすぎて逆に落ち着かない」との意見もあったので、ドライバーの操作に応じた音をあえて鳴らすなどの工夫を盛り込んだそうだ。
スペクターは「ロールス・ロイス史上、最も待ち望まれた(anticipated)クルマであり、これまでロールス・ロイスに乗ってこなかった人にもアピールできる」とウィットウェルさん。ロールス・ロイスでEVデビューというのも悪くない。