北の大地に衝撃が走った! クマが出没した話ではない。『RIZIN.43』でタイトルマッチを控えた前日の6月23日、王者クレベル・コイケ(ブラジル/ボンサイ柔術)が減量に失敗、計量をパスできなかったのだ。これにより初防衛戦を前にベルトを剥奪された。

  • 6・24真駒内『RIZIN.43』でマウントポジションを奪い鈴木千裕に攻め入るクレベル・コイケ。この後、卓越したテクニックでアームバーを決める(写真:RIZIN FF)

だが、「鈴木が勝った場合のみ王者認定」の条件の下で試合は行われ、クレベルが完勝。王座は空位のままに。混迷を極めるRIZINフェザー級戦線…新チャンピオン決定戦は、誰と誰の間で、いつ行われるのか?

■クレベルの強靭なるメンタル

「ごめんなさい。体重をオーバーしてしまったこと、本当にすみませんでした。(鈴木)千裕にも、RIZINにも、応援してくれるファンにも悪いことをしてしまった。これは、とても恥ずかしいこと。だから今日勝てたことは嬉しいけど、喜びは半分です」
試合直後にインタビュースペースに姿を現したクレベルは、深々と頭を下げた後に神妙な表情でそう話した。

6月23日、サッポロファクトリー アトリウムで行われた前日公開計量、クレベルは契約体重(66キロ以下)を守れなかった。長時間にわたりサウナに籠るもタイムリミットまでに落とし切れず400グラムオーバー。
この時点で規定によりクレベルは王者ではなくなった。 その後、クレベル、鈴木千裕(クロスポイント吉祥寺)両陣営、主催者の間で協議が行われ6月24日、北海道・真駒内セキスイハイムアイスアリーナ『RIZIN.43』では、予定通りに試合を行うことが決まる。ただし、変則タイトルマッチ。「鈴木が勝ったときのみ王座を認定、クレベルは勝っても公式記録はノーコンテスト(無効試合)にする」条件がつけられた。

  • 試合後にインタビュースペースに現れたクレベル・コイケは、メディアからの質問を受ける前に深々と頭を下げた(写真:SLAM JAM)

公開計量の際、クレベルは涙を流し憔悴、フェイスオフでも頭を下げ視線を地面に向けた。メンタルコンディションは最悪。それまでは「クレベル圧倒的優位」と目されてきたが、風向きが変わったように思えた。

だが、そうではなかった。
当日のリングで試合を支配したのは、クレベル。開始直後に鈴木が得意の打撃で攻め込むかと思いきや、クレベルが醸す圧力の前に見合ってしまう。右のパンチを振るい蹴りも出したが踏み込みが浅くクレベルにいなされた。こうなるとクレベルペースだ。1分過ぎにロープ際でクレベルが組みつきグラウンドの展開に持ち込む。以降、鈴木は何もできず、試合時間が3分にさしかかる寸前にクレベルが巧みなボディムーブからアームバーを決めた。鈴木は左手で力なくタップ、試合終了のゴングが打ち鳴らされた。

試合後の会見で、「落ち込んだ気持ちを、どのようにして立て直したのか?」と問われたクレベルは言った。
「聖書を読みました。そこには『涙は一晩続くが、翌朝には幸せと笑顔がくる』と書かれていました。今回の失敗も神様が与えてくれた試練です。私には支えてくれた仲間がいる。計量ミスをした私の隣で一緒に泣いてくれた妻がいる。負けるわけにはいかないと気持ちを切り替えました」

ブラジルで生まれ日本に移住し、苦境の中から這い上がってきたこの男のメンタルを甘く見てはいけない。前日計量の際、涙を流すクレベルを庇うような発言をしていた鈴木は、千載一隅のチャンスを逃した。

  • クレベル(右)にペースを握られた鈴木は、パワーでテクニックを封じることができなかった(写真:RIZIN FF)

■考えられる3つのストーリー

鈴木に勝利した後、クレベルはリング上でマイクを手にして言った。
「お願いがあります。すぐにタイトルマッチをやらせて欲しい。7月でも、10月の名古屋でもいい」
さらに、インタビュースペースでは、こうも口にしている。
「今回、私は自分に負けてしまった。そして大切なタイトルを失った。でもほかの誰かに負けたわけではない。今日の試合も勝った(公式記録はノーコンテスト)。いまでも自分の心の中ではチャンピオンだと思っている。もう一度ベルトに挑む権利はあると思う」
逞しい、遠慮もない。自分のミスは謝るが、権利もしっかり主張する。それがクレベルのやり方だ。

空位となったRIZINフェザー級王座、果たして誰と誰の間で新チャンピオン決定戦が行われるのか?
現時点で考えられるストーリーは次の3つか。
まず1つ目。
7月30日、さいたまスーパーアリーナ『超(スーパー)RIZIN.2』で朝倉未来(トライフォース赤坂)とヴガール・ケラモフ(アゼルバイジャン)が対戦するが、この闘いの勝者とクレベルが、秋か大晦日に王座決定戦を行う。
2つ目は、『超RIZIN.2』での朝倉vs.ケラモフが王座決定戦に昇格。ここで決まった新チャンピオンに秋か大晦日、クレベルが挑戦する。
そして3つ目は、秋に計画されている名古屋大会でクレベルと斎藤裕(パラエストラ小岩)で王座決定戦を行う。そして新王者の初防衛戦の相手は、朝倉vs.ケラモフの勝者。

どのストーリーも興味深いが、1つ目の可能性が高いように思う。もっとも理にかなった新王者決定方法であり重厚感が伴うからだ。
だが、『RIZIN.43』終了後の総括で榊原信行RIZIN CEOはこう話した。
「王座決定戦にクレベルが出ると決まっているわけではない。最右翼ではあるが、そう決めてはいません」
ならば2つ目もあるのかもしれない。3つ目の流れも面白いと思うが可能性は低いか。

いずれにせよ、年内に第4代チャンピオンが誕生する。そして今後、RIZINフェザー級にベラトールの強豪も絡もう。平本蓮(剛毅會)らの動向にも注目が集まる。タレント揃い、混沌としてきたフェザー級戦線、もし来年に「GPトーナメント」が開催されたならば、RIZINのリングは、さらに熱くなること必至─。

文/近藤隆夫