第82期A級順位戦(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)は、1回戦の佐藤天彦九段-斎藤慎太郎八段戦が6月16日(金)に東京・将棋会館で行われました。対局の結果、115手で勝利した佐藤九段が名人挑戦に向け好スタートを切りました。

矢倉対中住まいの対抗形

先手となった佐藤九段は初手に角道を開けて矢倉を志向します。これを受けた後手の斎藤八段は近年流行しつつある中住まい型を採用。早い段階で1筋に角を覗いて交換を打診します。昨年3月のタイトル戦での実戦例をはじめとして水面下で研究が続く形を前に、お互い比較的早いペースで指し手を進めます。

放っておくと後手陣が安定すると見た佐藤九段は、角交換を拒否したのち3筋の歩を突いて戦端を開きます。棒銀の要領で右銀を繰り出したのは容易に予想された展開ながら、これに加えて守りの要の右金まで前線に加えたのが意表の構想でした。これを見た斎藤八段は局後、「感覚がわからなかった」と振り返ります。

歩頭の角捨てで佐藤九段が勝利

棒銀の交換に成功した佐藤九段は、続いてこの右金を後手陣に迫らせて飛車先のさばきを狙います。形勢は難解ながらも、このあと盤上中央で角銀交換の駒得を果たした佐藤九段が主導権をつかんでジリジリした中盤戦が展開します。この直後、後手の斎藤八段が先手陣に作った成銀を引いて様子を見た局面が本局のハイライトになりました。

手番を握った先手の佐藤九段はここで妙手を用意していました。後手の歩が待ち構えるところに持ち駒の角をタダ捨てしたのがそれで、継続の銀捨てで敵飛を素抜く狙いがわかっていても受かりません。この手を見た斎藤八段は20分を割いて対応を考慮しますが、ついに先手の狙いを受け入れるほかありませんでした。

終局時刻は23時52分、自玉の受けなしを認めた斎藤八段が駒を投じて佐藤九段の勝利が決まりました。飛車を持たれると斎藤八段の玉はひとたまりもありません。勝った佐藤九段は局後、「角を打って攻めがつながると思った」との感想を述べました。2回戦では、佐藤九段は永瀬拓矢王座と、斎藤八段は広瀬章人八段と顔を合わせます。

水留啓(将棋情報局)

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  • 佐藤九段はA級における対斎藤八段戦の連敗を3で止めた(1勝3敗)

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