第95期ヒューリック杯棋聖戦(主催:産経新聞社、日本将棋連盟)は、一次予選1、2回戦の9局が各地の対局場で行われました。このうち、東京・将棋会館で行われた窪田義行七段―井出隼平五段戦では井出五段が87手で勝利。井出五段は同日行われた黒沢怜生六段との対局も制して予選3回戦進出を決めました。
四間飛車対ミレニアム囲い
振り飛車党として知られる井出五段ですが、相手が飛車を振ったときは相振り飛車を避ける展開を好みます。本局も、後手となった窪田七段が四間飛車に構えたのに対し先手の井出五段は飛車先の歩を突いて居飛車の態度を表明しました。6筋に角を上がったのが序盤の工夫で、ミレニアム囲いに組み上げて自玉の堅さを主張する狙いがあります。
先手の作戦を受け、窪田七段は守備の要の左金をスルスルと四段目に繰り出す趣向を披露します。美濃囲いに組む手順を放棄してでも先手のミレニアム囲いをとがめようという作戦で、このような力戦は窪田七段の真骨頂ともいえます。実戦は、窪田七段が7筋に繰り出した金を井出五段が角で取る臨機応変の対応を見せて戦いは一段落を迎えました。
玉頭の厚み生かして井出五段が勝利
駒割は窪田七段の駒得ながら、戦いを起こすために美濃囲いを崩した代償が響き井出五段が形勢をリードして中盤戦が展開します。手番を握った井出五段は持ち駒の金を6筋に打ってリードを広げにかかります。玉頭周辺の勢力争いに持ち込めば振り飛車側の大駒を働かせずにすむというこの大局観がうまく、盤上はここから井出五段の独擅場となりました。
左辺を制圧した井出五段は飛車を7筋に転換して攻勢を強めます。終局時刻は12時0分(持ち時間1時間)、結局最後までミレニアム囲いに手をつけさせることを許さなかった井出五段が鋭い寄せで窪田七段の玉を寄せきって勝利。勝った井出五段はこの日の午後に行われた黒沢六段との対局も制して3回戦進出を決めています。
水留 啓(将棋情報局)
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