紋枯病とは? 主な原因と症状

紋枯病とは、いもち病に次いでイネによく見られる病気です。病斑は葉鞘に現れますが、葉や穂にも病斑が出ることがあります。病斑は、暗緑色の水浸状で、内部は褐色から灰色の様相となります。病気が広がると、葉や葉鞘が柔らかくなり、雨風で倒伏しやすくなってしまいます。また罹患(りかん)した株は枯れてしまうので、収穫量の低下や米の品質低下を招き、経済的にも大きなダメージとなってしまいます。

梅雨時の気温が高い条件が続いたり、多肥栽培や過繁茂したりしている水田では紋枯病が発生しやすく、わせ品種や短稈(たんかん)・多けつ品種で被害が大きくなりやすいといわれています。

原因は糸状菌の一種

紋枯病の原因菌は糸状菌の一種で、水田のあぜ道などに茂った雑草や、前年の被害株に形成された菌核が越冬し、再感染します。原因菌は代かきなど土をかき混ぜた際に水面へ浮かび、イネの株に付着します。気温が22℃を超え、株間の湿度が高くなると菌から菌糸が伸び、葉鞘に侵入し発病します。

発生初期の症状

まず水面に面した葉鞘部に病斑が発生します。発生初期は、暗緑色で水浸状の小さな斑点状の病斑です。進行するにつれて病斑の色が茶褐色や灰色に変わったり、上部にも大きな病斑が現れたりするようになります。初期段階では目視で確認しづらいので注意が必要です。

進行すると菌核が形成される

病気が進行すると、病斑上に2~3ミリほどの大きさのドーム状で褐色の菌核が出来ます。また葉鞘には白い菌糸が伸び、クモの巣のように見えます。

菌核はやがて土壌に落下し、土壌の中で越冬します。

紋枯病といもち病の違いとは?

イネに多い病気である紋枯病といもち病。どちらも同じような病斑が現れ、イネが枯死してしまうという点で非常に似ており、なかなか見分けがつかないという人も多いのではないでしょうか。それぞれの病気の特徴をよく確認して、適切な防除ができるようにしましょう。

◯紋枯病の特徴

前年、土壌に落下した菌核が土壌中で越冬し、伝染源となる

6月下旬頃に水面近くの葉鞘に感染する

症状が進行すると、株間や茎間の発病(水平伸展)が進む

幼穂形成期頃からイネの上部葉鞘に病気が進行し、発生数が多いと減収する

前年に多発した圃場や、繁茂過多、7~8月の高温多湿期にわせ種などで発生しやすい

◯いもち病の特徴

菌に感染した種子や、被害を受けたわら、もみが伝染源となる

紋枯病と異なり、わらやもみで菌が越冬する

イネのあらゆる部位に感染する

育苗期や置苗時に発病すると、水田に移した時の伝染源となる

6月下旬頃から葉いもち病が発生し始める

葉の病斑が伝染源となって、穂いもち病が発生してしまう

上記のように、伝染源の違いや病状の違いなどがありますが、判断が難しい場合は園芸店や農業指導者などのプロに聞いても良いでしょう。

紋枯病が発生した際の防除方法

紋枯病の症状を発見したら、以下の方法で防除を実施してください。

薬剤散布を行う

耕種的防除を実施する

あぜ道沿いのゴミをすくい取る

三つの防除方法について、それぞれ解説していきます。

1.薬剤散布を行う

紋枯病は薬剤によって予防と治療を行うことができます。病状初期段階での散布がより効果的なので、水面近くに病斑がないか日頃から観察しましょう。また、育苗期に箱処理剤を散布するのも効果的です。

2.耕種的防除を実施する

秋の収穫後、紋枯病の菌核が越冬できないように、水田に残ったイネ残滓(ざんし)や雑草をよくすき込んで腐食を促します。また周辺の雑草取りや、土壌中の足りない栄養を補給するなどして、病気になりにくい環境を作りましょう。

3.あぜ道沿いのゴミをすくい取る

菌核は代かき時に土壌中から水面に浮かぶほか、水中や水面に浮かんでいるゴミやイネの残滓にも紋枯病菌が付着しています。そのため、あぜ道沿いのゴミや水中のゴミをすくい取って清潔に保つことが大切です。

紋枯病の予防方法や防除時期

紋枯病の発生を防ぎ、被害を抑えるには以下の方法が効果的です。

多肥・密植を避ける

箱施用剤による予防

あぜ道の雑草除去

代かき時に浮遊物を除去

防除時期は7月下旬~8月中旬まで

以上五つの予防方法について解説していきます。

1.多肥・密植を避ける

紋枯病は肥料が多く、風通しの悪い密植状態を好みます。そのため、適正施肥を心がけ、密植を避けることが大切です。

2.箱施用剤による予防

育苗時に育苗箱施用剤を散布することで、定植後の紋枯病発生を抑えることができます。

3.あぜ道の雑草除去

紋枯病の菌核はあぜ道の雑草などに付着して越冬することがあります。雑草を刈り取り奇麗な状態を保つことで、越冬を防ぐことができます。

4.代かき時に浮遊物を除去

水中の浮遊物にも紋枯病の菌核は付着しています。代かき時に浮遊物を除去することで、発生数を抑えることができます。

5.防除時期は7月下旬~8月中旬まで

紋枯病は7月中旬頃から発生するため、7月下旬~8月中旬に薬剤散布を行うのが効果的です。

紋枯病の予防や治療に効果的な農薬

紋枯病の予防や治療に効果があるといわれている農薬を紹介します。

モンガリット粒剤

モンカット粒剤

バリダシン液剤5

以上三つの薬剤について、解説していきます。

1.モンガリット粒剤

出典:

モンガリット粒剤はイネの紋枯病や稲こうじ病など、複数の病気に有効な薬剤です。
根から有効成分が吸収され、素早く全体に行き渡り効果を発揮します。
ただし、同じ名称の薬剤であっても、有効成分の濃度によって使用できる作物が異なるので注意が必要です。

2.モンカット粒剤

出典:

モンカット粒剤は紋枯病の菌糸生育や菌核形成に強い予防力を持った薬剤で、予防と治療の両方に使うことができます。粒剤なので散布がしやすく、残効性も高いため使い勝手の良い薬剤です。

バリダシン液剤5

出典:

バリダシン液剤は紋枯病の菌糸生育や菌核形成などの侵入行動を停止するなど、強い予防力を持った薬剤で、治療にも使えます。

菌糸内を通じて薬効が伝わるという特徴があり、直接薬剤が付着していない部分にも効果を発揮します。また、薬剤耐性菌が発生しづらい薬剤としても評価を受けています。

水田を清潔に保って、紋枯病を予防しよう

紋枯病はいもち病と見分けがつきにくいため、農薬散布などの対処法を間違えないよう注意が必要です。

紋枯病にかかってしまうと、イネが枯れてしまうほか、倒伏しやすくなったり、収量や米の品質が低下してしまったりするなど様々な被害をもたらします。紋枯病の発生を抑えるためには、常日頃から水田や周辺のあぜ道などを清潔に保ち、原因菌が越冬できない環境を作ることが大切です。また、栽培時にも多肥や密植を避けるなど、管理を行うことで発生件数を抑えることができます。それでもなお、病気が発生してしまった際は、病気が水田全体に広がってしまう前に薬剤散布を行うことが大切です。

稲作は比較的管理がしやすいといわれていますが、病害虫の防除抑制など、注意力や対応力が必要になる場面も少なくありません。油断をせずに、しっかり栽培管理を行いましょう。