スバルは近く、基幹モデルの「インプレッサ」をフルモデルチェンジして発売する。セダンやワゴンもあった過去のモデルとは異なり、6代目となる新型のボディタイプは5ドアハッチバックのみ。スバルからは「質実剛健ハッチ」との紹介があった。とすると、目指すはフォルクスワーゲン「ゴルフ」のようなクルマなのか? 新型に試乗してきた。
粘る足回り! ハンドリングの完成度は?
新型インプレッサのパワートレインはマイルドハイブリッドの「e-BOXER」とガソリンエンジンの2種類だ。e-BOXERはスバル伝統のFB20型水平対向2.0L直噴自然吸気ガソリンエンジン(最高出力145PS、最大トルク188Nm)に13.6PS/65Nmのモーターを組み合わせる。ガソリンエンジン車は動力性能154PS/193Nmの水平対向2.0Lを搭載する。トランスミッションはマニュアルモード付きのリニアトロニックCVTを採用。駆動方式はAWDとFWDを用意している。
サーキットでは新型のAWD、FWD、旧型のAWDの順番で試乗。パワートレインは全てe-BOXERだ。1周目は走行モード「インテリジェントモード」(i)で慣熟し、2周目のストレートから「スポーツモード」(S)モードに切り替えて1ラップ、最後のピットロードではハーシュネス路面(人工的に段差を作ってある)をアクセルオフで通過してスタート地点に戻るというパターンだ。
結論から述べてしまうと、新型の出来はすばらしいの一言。
最初に乗ったAWDモデルでは、スピードが乗った状態で通過する2コーナーの先に設けられたシケインを、ある程度のロールを許しながらも明確なグリップ感を感じながら通り抜け、その先の狭い25Rの第4コーナーやヘアピンではお尻をグッと下げつつ、リアからの駆動力を上手にいかして、気持ちよく加速体制に入ることができた。
こんな場面でも、4つのタイヤが粘りながら、きちっと接地している手応えがドライバーにはっきりと伝わってくるというのは、なかなかポイントが高い。後に乗った旧型でもこの感触は伝わってきたが、新型では性能をさらに煮詰めている印象だ。
FWDモデルは当たり前だが軽快感がより強まる印象。リアからの押し出しはないが、ドライのアスファルト路面ならこちらで十分、というのが本音だ。
新型のボディは「レヴォーグ」などの上級モデルと同じ「インナーフレーム構造」を採用。骨格を組み立てた後に外部パネルを取り付ける手法だ。構造用接着剤の使用範囲を旧型の7mから27mまで拡大し、強度を高めてある。さらにサスペンションの取り付け部、エンジンの捩り剛性、トランスアクスル結合部など、各部で剛性を引き上げたそうだ。
フロントには群馬大学との共同研究によるフレーム構造の新型シートを採用。取り付け部の構造も見直したという。インプレッサの兄弟車であるSUV「クロストレック」の試乗でも効果を実感したが、人体の構造(特に仙骨という部分)に着目した新型シートはホールド感が段違いだ。
ハンドリング面では2ピニオン仕様の電動パワステの手応えが重からず軽からずで、すっきりとした絶妙なセッティングがなされている。これらの改良の結果が結集したことで、新型インプレッサはホールド感に優れた気持ちいい乗り心地を実現できているのだろう。この好感触は助手席に座っていた同乗者にも明確に伝わっていた様子。スバル関係者によると、ステアリングを握らない同乗者の方が予測動作なしで体感できるので、よりわかりやすかったのではとの分析だった。
ピット前に設置された凹凸のハーシュネス路面を新旧モデルで通過してみた印象としては、ほんのわずかながら新型の方がゴトゴトという音の収まりが早かった。ルーフ部分をボルト止めから制振力のあるマスチック接着剤に変更して共振を減らしたことや、ドライバー入力とアシスト軸が分離した2ピニオンパワステにより路面の振動やキックバックがダイレクトに伝わってこないことなどが功を奏している証だ。
「ゴルフ」との共通点は?
試乗前のレクでは、スバル 商品企画本部の刀祢友久氏から「先にデビューしたクロストレックとの差別化を図るため、インプレッサではスポーツ色をより高めてある」との解説があった。実際に走ってみると、味付けの違いははっきりと実感できた。
気になったのはスバルが示した試乗の体感テーマだ。キーワードは「質実剛健ハッチ」。「質実剛健」はフォルクスワーゲン(VW)でよく聞く言葉だし、VWのハッチバックといえば伝統の名車「ゴルフ」が思い浮かぶので、こうなるとインプレッサとゴルフを比べてみたくなってくる。
現行ゴルフのボディサイズは4,295mm×1,790mm×1,475mm、ホイールベースは2,620mm。マイルドハイブリッド車は150PS/250Nmの1.5L直4エンジンと13PS/62Nmのモーターを搭載している。インプレッサとはパワー的にほぼ同等だ。サイズはインプレッサの方が180mm長く、車重は180kgほど重い。とはいえ抜群に高いボディ剛性や、同じ2ピニオン式ステアリングを採用したハンドリングの切れ味や剛性感など、2台には多くの共通点があるのだ。
明確に違うのは足の硬さだ。ゴルフは平均速度の高い欧州での走りがベースになるので、日本の街中で乗る際にはちょっとコツコツくるな、と感じる方もいらっしゃるはず。一方のインプレッサは担当者が「ちょっと柔らかめにセッティングしています」というほどで、日本での走行にあたっては全ての車速で路面と軽やかにコンタクトできるというメリットがある。
乗り心地の面では、新型インプレッサが採用するダンロップ「SPスポーツマックス050」タイヤは旧型から銘柄こそ変わっていないが、新型の走りに適合するようなトレッドパターンと軽量化を目指した開発がなされたものというから、その効果も大である。
他社のクルマを引き合いに出すことをスバルの人たちは嫌がるかもしれないが、新型インプレッサには「現代の和製ゴルフ」の名称を与えてもいいのではないかという気がする。