第36期竜王戦1組出場者決定戦(主催:読売新聞社)は、5位トーナメント準決勝の渡辺明名人―広瀬章人八段戦が4月14日(金)に東京・将棋会館で行われました。対局の結果、100手で勝利した広瀬八段が決勝トーナメント進出まであと1勝としました。
渡辺名人の積極作戦
振り駒が行われた本局、先手となった渡辺名人は相掛かりの序盤を志向します。後手の広瀬八段が飛車先の歩を交換したのに対してこれを放置して右桂の活用を急いだのが渡辺名人用意の作戦で、2枚の持ち歩を生かして積極的に攻勢を取る姿勢が見て取れます。この直後、6筋に打った角で飛車を入手した渡辺名人が主導権を持って中盤戦が進展します。
一方で、二枚角を手にした後手の広瀬八段はこれを自陣に据えて盤面の支配を図ります。5筋に打った角を先手陣に成り込んで馬としたのは確実なポイントですが、4筋に打った角はさばきの目途が立たずに苦しい形を強いられます。チャンスとみた渡辺名人が30分の長考に沈んだ50手目の局面が、本局における最大の分岐点となりました。
二枚角の活躍で広瀬八段勝利
長考の末に先手の渡辺名人が選んだのは9筋からの端攻めで、後手が素直に応じれば後手陣にできた空間に飛車を打ち込む狙いがあります。実戦では先手の狙いを察知した広瀬八段がこれを放置して中央に手段を求めたのがうまい対応で、ここから形勢は急接近することになりました。こうなると後手陣の角も先手玉をにらむ要の攻め駒になっています。
苦境をしのいだ広瀬八段は、手番を握って待望の反撃に出ます。金銀を狙う両取りの桂を放ったのが平凡ながら決め手となり、徐々に先手の囲いは崩されていきました。終局時刻は21時21分、流れるような寄せを決めた広瀬八段が難戦を制して勝利。次戦で本戦トーナメント出場権を懸けて森内俊之九段と対戦します。感想戦では先述の50手目の局面を中心に検討が行われましたが、渡辺名人の方に明快な打開策は発見されませんでした。
水留 啓(将棋情報局)