第94期ヒューリック杯棋聖戦(主催:産経新聞社、日本将棋連盟)は、決勝トーナメント2回戦の渡辺明名人―羽生善治九段戦が4月1日(土)に東京・将棋会館で行われました。対局の結果、85手で勝利した渡辺名人が準決勝進出を決めました。

相掛かりの力戦形

振り駒が行われた本局、先手となった渡辺名人は相掛かりの序盤戦に誘導します。渡辺名人が早めに角道の歩を突いたのを受け、後手の羽生九段はすぐさま飛車を寄って揺さぶりをかけました。過去に類似した局面はありながらも全く同一の実戦例はなく、早くも相掛かりの力戦型に突入しています。駒組みが続いたのち、羽生九段が2筋の歩を突いて戦いが始まりました。 羽生九段が左銀を前線に繰り出して盤上右方の制圧を狙ったのに対し、先手の渡辺名人はこれを軽く受け流す方針を採ります。突っかけられた1筋の歩を放置して自陣を整備したのはその一環で、この端歩を取り込ませておいて飛車取りに角を打つ切り返しを見込んでいます。後手の左銀をうまく遊び駒にすることに成功した渡辺名人が主導権を握りました。

渡辺名人が一気の反撃決め快勝

手番を握った先手の渡辺名人は、羽生九段の飛車がタテに動くと銀が浮き駒になることに注目して攻めを組み立てていきます。タダのところに香を打って飛車取りとしたのがうまい継続手で、この手を境に渡辺名人はいっそう攻勢を強めます。後手の羽生九段としてはやや駒得ながら、先手陣に対する攻めの取っ掛かりがないことが大きな懸念点です。 盤面右方での攻防が続いたのち、首尾よく後手陣に竜を作ることに成功した渡辺名人が優位を拡大して局面は終盤戦に突入します。この直後、3筋の歩をじっと伸ばしてと金作りを目指したのが「と金の遅早」の格言通りの決め手となりました。絶えず左銀が負担になっている羽生九段としては、この歩成りを一手で味よく受ける手段がありません。 終局時刻は17時27分、反撃を開始してからは一度も形勢の針を譲らなかった渡辺名人が羽生九段の反撃を許さず快勝。2期ぶりとなる棋聖挑戦に向けて大きく前進しました。渡辺名人は次局で佐々木大地七段と顔を合わせます。

  • 両者の対戦成績は渡辺名人から見て39勝42敗と拮抗している(写真は第80期名人戦七番勝負第4局のもの 提供:日本将棋連盟)

    両者の対戦成績は渡辺名人から見て39勝42敗と拮抗している(写真は第80期名人戦七番勝負第4局のもの 提供:日本将棋連盟)

水留 啓(将棋情報局)