NTTカードソリューションのデジタル通貨発行代行サービス「おまかせeマネー」を活用したプレミアム商品券が、大阪府の6地下街で採用され提供を開始している。おまかせeマネー導入のメリット、または課題はあるのだろうか。
大阪地下街 営業部次長 兼 営業企画課長の田中文徳氏、営業部 営業企画課 主査の牧野利哉氏、NTTカードソリューション ギフトサービス事業部 営業部の中野智彰氏に話を聞いた。
■おまかせeマネーとは?
おまかせeマネーは、現金と同じように使用できるデジタル通貨の発行代行サービス。大阪地下街では、紙の商品券の代わりとして「6地下街共通プレミアム付きデジタル商品券」を発行。これまで1億2,000万円分を2回、計2億4,000万円分の商品券を発行している。 購入金額に20%のプレミアムが付き、たとえば1万5,000円で購入をすると1万8,000円分の利用が可能となる仕組みだ。販売価格は1,000円(1,200円分)、3,000円(3,600円分)、5,000円(6,000円分)、1万円(1万2,000円分)、1万5,000円(1万8,000円分)の 5種類を用意しており、利用したい金額にあわせて小額から商品券を購入できるようになっている。 (残高が1万8,000円を超える購入は不可、累計12万円までの追加購入は可能。)
大阪地下街は、大阪にある8つの地下街のうち、ホワイティうめだ、ドーチカ、コムズガーデン、なんばウォーク、NAMBA なんなん、あべちかという6地下街を運営。そのため、今回のように複数の地下街で共同の取り組みが行いやすいという状況だった。
もともと同社では、2019年に6地下街共通の紙の商品券も発行していたが、各地下街にある営業所に、使われた商品券をテナントが持ち込んで数えて現金化する、という作業が必要で、「数えるだけでも半日かかる日もあるほどかなり手間がかかった」と田中氏は話す。
それもそのはず、発行した1億2,000万円のほとんどが使用されたうえに、額面が1,000円券と500円券だったため商品券の枚数も膨大。それだけの商品券を数えて現金をテナントに渡すという作業が発生していたのだ。
2019年に紙のプレミアム商品券を発行した後、コロナ禍によってテナントの売上が激減。そうしたテナントへの支援もかねて商品券を改めて企画したのが始まりだったそう。紙の商品券の課題があったことから効率化を狙って検討してきたところ、NTTカードソリューションのおまかせeマネーに白羽の矢が立ったという。
おまかせeマネーでは、利用者が専用サイトにアクセスして指定額を購入。決済時は店頭に掲示されたQRコードを読み込んで支払をするという、一般的なデジタル商品券の仕組み。紙の商品券とは異なり1円単位で使えるメリットもある。
6地下街のプレミアム商品券では、利用期間が2022年8月5日~10月31日、12月1日~2023年2月28日という2期にわたって実施され、それぞれ総額1億2,000万円分が用意された。
新しくスマートフォンを使う形になったため、特に高齢者の利用に不安もあったという。実際、登録やチャージ、最初の決済時などは質問されることが多かったようだが、地下街の広場でイベントを実施して操作説明をするなどの工夫もしたとのこと。テナント側も、もともとクレジットカードやQRコード決済も対応していなかった店舗もあり、テナント向け説明会も実施した。
■利用客の分析を活用し、今後のイベントの参考にも
おまかせeマネーの採用が決まったのは2021年12月。そこから半年で準備を進めて正式稼働。1回目のデジタル商品券の利用開始は2022年8月。初日にアクセスが殺到することを考えて、ユーザー登録期間と購入期間を設けた結果、トラブルもなく完売したとNTTカードソリューションの中野氏は話す。
紙の商品券が、販売開始5日間で完売したことに比べればスロースタートだったと言えるかもしれない。また、牧野氏は、高齢者の初速が遅かったというのもあるかもしれない、と予測もしている。
現時点で分かっている範囲だと、40~50代が利用の中心で、60代や30代もいたものの、20代の利用は少ないそう。スマートフォンを使うデジタル商品券なので、当初の予想では「若い世代が多く、年配層のお客様に拒否されるのではという懸念もあった」と田中氏は話したが、実際は年配層に敬遠されることもなかったそう。
この利用者の年代や利用状況が分析できるというのは、デジタル化の恩恵のひとつ。大阪地下街では、これまでそうした情報の分析ができなかったが、デジタル商品券では利用客の分析ができるようになり、今後のイベントなどの参考にもできる。デジタル商品券の発行額を増加させることで、さらに全体の利用動向に近づけていく考えだ。
「紙の商品券の方が、お客様は使いやすい」(牧野氏)という側面は確かにある。デジタル化で若干の手間は増えるが、慣れれば利用客側もそれほど手間はないという判断。逆におつりの出ない紙の商品券とは異なり、1円単位で使い切れるデジタル商品券のメリットがあるとの考えだ。
結果として、利用されるテナントの業種も変化。紙の商品券では物販店が多く使われていたのが、デジタル商品券では飲食店の利用が拡大。紙に対して200~300%増というテナントもあったという。
■今後もデジタル商品券の取り組みを継続
1回目のデジタル商品券発行を経て2回目では、12月の販売開始後13日で完売。「チャージ額の20%が無料(タダ)で付いてくる」といった紹介の仕方もするなどした結果、販売が拡大。第1回目で会員登録をした人であれば、そのままのアカウントで購入できることもあって販売が伸びたそう。
その点では、牧野氏もおまかせeマネーに対して「もう少し会員登録が楽になったらいい」という要望があるそうだ。
こうしたことから、いったん登録しておけば次回の購入もしやすくなることから、同様の事業をやる場合は一度目の結果だけで判断せず、継続することでデジタル商品券の利用動向が正確に測れることになりそうだ。
また、このアカウントは6地下街のプレミアム商品券だけでなく、地下街個別の商品券配布などのイベントでも活用できる。これまでも、特定の地下街でだけ使える商品券を抽選で配布するといったイベントが開催されていたが、おまかせeマネーのシステムを使ってデジタル化が可能。プレミアム商品券で会員登録をすでにした人なら即座に使えるので利便性も高まる。
実際、このプレミアム商品券の利用期間には、各地下街個別の商品券も発行されており、15種類ほどが同時進行していたそう。たとえば個別地下街専用商品券を優先して使い、残高が足りない場合は6地下街共通のプレミアム商品券を使う、といった優先順位付けなどの仕組みの構築が難しかった、と中野氏は話す。
それでも複数の商品券を合算して1円単位で使えるという、使い勝手の良い仕組みが構築できて、利用客からも大きなクレームはなかったそう。回答店舗の約78%が良かったと回答しているそうだ。
商品券は、紙とデジタルの双方を発行すれば誰でも使いやすいというメリットはあるが、テナントや事務局側の手間が2倍になるというデメリットもあり、判断が難しいところ。田中氏は、「すべてのお客様がデジタルを使っているわけではないので、必要なときは紙で発行する可能性はあるが、基本はデジタルで発行していくつもり」と話す。
大阪地下街では、すでに次の商品券発行も計画しているそうで、デジタル商品券の取り組みを継続していく考えを示している。