第94期ヒューリック杯棋聖戦(主催:産経新聞社、日本将棋連盟)は、決勝トーナメント1回戦の羽生善治九段―斎藤明日斗五段戦が3月20日(月)に東京・将棋会館で行われました。対局の結果、106手で勝利した羽生九段が2回戦進出を決めました。
角換わり早繰り銀の最新研究
振り駒が行われた本局、先手となった斎藤五段は得意の角換わり早繰り銀で先攻の態勢を取ります。後手の羽生九段が相早繰り銀で対抗する姿勢を見せたのに対して6筋の歩を突いてタイミングを計ったのが斎藤五段の用意で、後手の攻めを呼び込んで反撃する狙いがあります。両者想定通りの展開か、序盤から早いペースで指し手が進みます。
羽生九段が7筋の歩を突いて銀を五段目に進出させたとき、強く歩を打って銀取りとしたのが斎藤五段の研究。代えて飛車先の歩を突いて十字飛車の筋を含みに反撃をする手がよく指されているところです。斎藤五段は昨年11月に行われた公式戦で、本局の形と先後を入れ替えた類型を経験しています。ここから実戦例の少ない力戦に突入していきます。
羽生九段の反撃
盤上左方での激しいやり取りが一段落した局面は形勢互角で、先手の斎藤五段は自陣の広さを、後手の羽生九段は手持ちの歩の多さを主張して中盤戦が続きます。この直後、斎藤五段は自陣に眠っていた飛車を大きく8筋に転換する構想を披露しました。局面は、この飛車先逆襲が間に合うまでに羽生九段が手を作れるかが焦点になっています。
自玉を安全な盤面右方に逃した後手の羽生九段は、6筋の歩の突き捨てから攻撃を組み立てていきます。空いた空間にタダ捨ての銀を打ったのが継続の好手で、先手が自然に応じると遊び駒の桂が天使の跳躍で跳ね出してくる読み筋です。これ以降、先手に反撃の暇を与えぬまま自陣の飛車のさばきに成功した羽生九段が形勢をリードして局面は終盤に突入します。
二枚馬の威力で羽生九段制勝
優勢を確立した羽生九段は、このあとも手筋の連続技で先手陣を崩していきます。攻撃の要と思われた飛車を銀と刺し違えたのが「終盤は駒の損得より速度」の格言通りの好手で、続いて5筋に打った角を先手陣に成り込んで先手玉への寄せの拠点としました。
終局時刻は19時36分、先に作った馬を呼び寄せて二枚馬の威力で先手玉を寄せきった羽生九段が快勝で斎藤五段を降しました。本局を振り返ると、羽生九段は斎藤五段の序盤研究を正面から受け止めつつ、飛車の活用を最後まで許さずに攻め切った形です。勝った羽生九段は2回戦で渡辺明名人と対戦します。
水留 啓(将棋情報局)