第81期順位戦(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)は、B級1組の最終13回戦に当たる全6局の一斉対局が各地の対局場で行われました。このうち、9勝2敗で首位を走る中村太地七段は羽生善治九段と対戦。角換わりの熱戦のすえ97手で敗れましたが、他会場の結果を受けて自身初となるA級昇級および八段昇段を決めました。

中村七段用意の奇襲

先手番の羽生九段は角換わりの序盤に誘導します。相腰掛け銀の戦型に進むかと思われたところで後手の中村七段は右桂の活用を急ぐ工夫を披露しました。1時間を超える長考の末そのまま中村七段が単騎の桂跳ねを繰り出したことによって、本局は序盤早々角換わりの力戦形に突入しました。

中村七段の奇策に意表を突かれた羽生九段が昼食休憩を挟んで38分の考慮で決意した銀引きは、跳ね出してきた桂を生け捕りにする手を見せつつ後手からの攻めを催促する、いわば最強の応手でした。このあと、羽生九段がじっと自陣の金を寄って割り打ちのキズを消したところでようやく局面は一段落を迎えます。

羽生九段の力強い押し返し

局面は「中村七段の攻め対羽生九段の受け」という構図で進展しています。攻めを続ける中村七段が先手玉周辺の守り駒を乱していることを主張する一方で、先手の羽生九段は飛車角交換という実利を重視しています。中村七段の攻勢が一瞬止まったタイミングで、手番を得た羽生九段は後手陣に飛車を打ち込んで反撃の狼煙を上げました。

飛車打ちの反撃が厳しく、形勢は羽生九段のペースに転じて終盤戦に突入しています。中村七段に盤面左方からの集中攻撃を見せられた局面は先手にとって一瞬のピンチを思わせましたが、羽生九段は周到な対応を用意していました。6筋にいた玉をヒラリと4筋にかわしたのがそれで、こうなると羽生九段が右玉の要領で後手の攻めを受け流すことに成功した形です。

羽生九段が貫録示す

優勢を築いた羽生九段はその後も的確な攻めで中村七段の玉を追い詰めていきます。持ち駒の歩を打って遠く後手玉を守る馬に働きかけたのが、指されてみれば納得の好着想でした。この「急がば回れ」の好手によって羽生九段は容易に竜の活用を見込むことができます。以降は粘る中村七段の受けをふりほどいた羽生九段が危なげない着地を決めました。

終局時刻は22時28分、最後は自玉に受けの見込みがなくなったのを認めた中村七段が投了を告げて熱戦に幕が下ろされました。勝った羽生九段は6勝6敗の指し分けで今期順位戦を締めました。一方の中村七段は手痛い一敗で9勝3敗に後退しましたが、競争相手の澤田真吾七段が敗れたためA級昇級を手中に収めました。中村七段は同時に八段昇段も決めています。

【B級1組13回戦結果(左が先手)】
○羽生善治九段(6勝6敗) - ●中村太地七段(9勝3敗・昇級)
●屋敷伸之九段(4勝8敗) - ○佐々木勇気七段(9勝3敗・昇級)
●澤田真吾七段(8勝4敗) - ○三浦弘行九段(7勝5敗)
●山崎隆之八段(6勝6敗) - ○横山泰明七段(5勝7敗)
○千田翔太七段(6勝6敗) - ●久保利明九段(4勝8敗・降級)
○丸山忠久九段(4勝8敗・降級) - ●郷田真隆九段(2勝10敗・降級)

  • 少年時代の中村七段が羽生九段に憧れて八王子将棋クラブの門をたたいたエピソードは有名だ

    少年時代の中村七段が羽生九段に憧れて八王子将棋クラブの門をたたいたエピソードは有名だ

水留 啓(将棋情報局)