20代から40代の若い世代にとって、投資はポピュラーなものになりつつあります。

野村総合研究所が2021年12月15日に配信した「データで読み解く金融ビジネスの潮流 高まる投資熱-投資している人と投資に興味を持つ人の割合が大きく上昇-」(著者:金子久氏)によると、2015年以降の増加率が特に目立ちます。中でも大きく伸びているのが20代、30代です。

  • 出典:「データで読み解く金融ビジネスの潮流 高まる投資熱-投資している人と投資に興味を持つ人の割合が大きく上昇-」

長期投資でリスクを分散しながら資産形成していくのは、非常に合理的で賢い選択です。とはいえ、大切なお金を投資で失ってしまうリスクは怖いもの。

リスクをゼロにすることはできませんが、危険な金融商品を避けるための鉄則はあります。ここでは3つ、紹介しましょう。

  • 「危険な金融商品」を避けるには?

1.良い話より悪い話を聞く

若い年代の方はネット証券を利用される方が多いと思いますが、金融機関にすすめられたり、知り合いの話を聞いたりして投資を始める方もいるでしょう。

日々商品の販売に力を入れている営業員は、人の心に入り込むのが上手です。詐欺ではないので「確実に儲かる」といった言い方はしませんが、「損をしないで儲けたい」という投資家の心理を巧妙に突いてきます。

そんな販売員の話で投資家が本気で聞くべきなのは、良い話ではなく悪い話です。

さて、投資における悪い話といえば「リスク」ですが、皆さんはリスクとはどういう意味だと思いますか?

投資でいうリスクは「危険」の意味ではありません。「価格の変動率」です。「リスクが高い」とは「価格が大きく変動する」こと。「リスクが低い」とは「価格の変動が小さい」ことになります。

価格が大きく変動するものはリターンと損失がそれぞれ大きくなる可能性があり(ハイリスク・ハイリターン)、価格がそれほど変動しないものはリターンも損失もそこそこにとどまる(ローリスク・ローリターン)、ということです。

では、なぜ悪い話、つまりリスクの話を注意して聞くべきなのか。

例えば、期待リターンが年3%の金融商品と、年10%の金融商品があったとき、どちらに注目しますか? 年10%のほうが魅力的です。しかし、期待リターン10%の金融商品には一方で20%の価格変動リスクがあり、期待リターン3%の金融商品は、5%の価格変動のリスクだとしたら、かなり見え方が変わります。

安定した長期運用を行うなら、期待リターン3%で予想リスク5%の金融商品のほうが、予定通りに投資目的を達成しやすいでしょう。

もちろん、年10%のリターンが続くラッキーな結果になる可能性もゼロではないですが、ギャンブルのようなものです。

2.1%の運用コストを甘く見ない

様々な金融商品の中でも特に人気があるのが投資信託です。

投資信託協会が発表しているインターネット全国調査の2022年版では、20代の22.5%、30代の26.8%、40代の25.2%が投資信託を保有しています。

  • 出典:「投資信託に関するアンケート調査報告書-2022年(令和4年)投資信託全般」

投資信託の運用で注意したいのが、運用中にかかるコストです。個別株式のコストは、売買時にかかる手数料だけですが、投資信託の場合は運用中も継続してコストが発生します。運用会社に支払う信託報酬などです。

金融機関でよく販売されている商品は、年率1~2%程度の運用コストがかかるので、負担は大きめです。

1~2%と聞くと「たいしたことがない」と感じるでしょうか。ところが長期投資になると、この1%の差がリターンに大きな影響を与えることになります。

投資信託などを利用した長期投資では、投資で増えたお金をそのまま運用に回すことで元本を増やし、雪だるま式にリターンが膨らんでいくことが期待されています。これが複利運用の効果です。

しかし運用コストが高いと実質のリターンが下がり、複利の効果も薄れます。期待リターンが6%だったとしてもコストが2%かかっていれば、実質リターンが4%です。その結果、再投資に回せるお金の減少につながり、複利運用の効果が低下します。この、ほんのわずかに思える違いが5年後、10年後には大きな差になるのです。

特に、運用金額が大きい人ほど要注意です。極端な例ですが、私にご相談に来られた方で長年運用している人の中には、運用利益は500万円程度だったのに、その間になんと3000万円ほどコストを支払っていた方もいます。

金融機関の営業員も、運用中の費用については簡単に伝えるだけで、実額での説明を怠っていることがあります。資料に具体的な数値が記載されていないヘッジコストや、先物取引費用のような変動費に触れていないケースも見受けられます。

中には「販売手数料ゼロ」を大きく掲げ、割高な運用コストや解約費用の隠れ蓑にしているような商品もあるので注意が必要です。

3.過去の実績を信用しない

投資に「絶対」はありません。しかし過去の実績を見ると安心感があります。 「実績があるのだから、それなりに良い結果は出るだろう」と楽観的にもなるでしょう。

しかし過去の実績が未来の保証になるわけでありません。一つ例を紹介しましょう。

独立系運用会社レオス・キャピタルワークス(2020年4月にSBIH Dが連結子会社化しました)が運用する「ひふみ投信」は、一時大きなブームとなりました。特に2018年ごろまでは、日本株を中心とした運用でTOPIX(東証株価指数)を大きく上回る結果を出し続け、つみたてNISAなどにも採用されました。

ただ2021年頃からは運用成果が芳しくなく、TOPIXよりも成果は下回っています。運用実績が大きく出始めた2017年ごろまでに投資を開始した人は恩恵を受けています。しかし過去の実績を見て投資を始めた人は、それほど利益が上がっていません。

これはひふみ投信がダメだという話ではありません。市場平均以上の成果を出し続けることは、そもそも非常に困難です。未来のことはわからない。過去の実績も完全な保証にはならない。ならばどうやって商品を選べばいいのでしょうか。

一つは、投資信託であれば、目論見書に記載された運用方針や投資理念に納得することです。そしてもう一つは、リスクを固定すること。

投資においては基本的に、相場状況を考慮せずに目標リターンを固定してはいけません。安定したリターンの約束は要注意です。固定するのはリスクのほうです。 自分が許容できるリスクの水準を設定して運用するのもそう簡単ではありませんが、まだやりようはあります。

もし、相場の状況にかかわらず運用成果を上げているという金融商品を提案されたら注意してください。 なぜそんなことが可能なのか、商品の仕組みや理屈をしっかり確認する必要があります。

「高いリターン」を謳う商品やサービスには必ず「高いリスク」があると考えなければなりません。

著者プロフィール:西崎務(にしざき・つとむ)

リーファス株式会社 代表取締役社長。
SMBC日興証券で全国トップセールスとして活躍したのち、独立系フィナンシャルアドバイザーとしてリーファス株式会社を設立。金融商品の仕組み、金融機関の販売手法まで熟知したアドバイスが好評で、全国から相談者が集まる。著書『60歳を過ぎたらやってはいけない資産運用』(アスコム)など。