第36期竜王戦1組ランキング戦(主催:読売新聞社)は、1回戦の永瀬拓矢王座―森内俊之九段戦が1月19日(木)に東京・将棋会館で行われました。対局の結果、147手で勝利した永瀬王座が2回戦進出を決めました。

矢倉対雁木の力戦形

先手となった永瀬王座が角換わりの序盤を志向したときに、後手の森内九段が角道を止めたことで本局は矢倉対雁木の形に進展しました。駒組みが続いたのち、永瀬王座が左桂を跳ねて囲いを菊水矢倉に組み替えたのは面白い工夫で、ここから本局は実戦例の少ない力戦形に持ち込まれます。

永瀬王座の玉は金銀4枚の堅陣に囲われていますが、守備駒が盤面左方に偏っているため絶えず後手から駒を打ち込まれる懸念があります。森内九段が雁木の屋根である歩を突き捨ててまで角交換を挑んだのはこの弱点に注目した動きで、ここから本局は激しい動きを見せることになりました。

永瀬王座が細い攻めつなぎ有利に

自陣に馬を作られた先手の永瀬王座は、森内陣の雁木の屋根が空いていることに注目して遠見の角を放ちます。3筋の飛車の利きを敵陣まで通しておいてから▲4四角とタダのところに角を上がったのが継続の好手で、ここで先手の永瀬王座がリードを奪いました。この角に飛びつくと飛車の成り込みが生じるため、森内九段はこの角を取ることができません。

森内陣への食いつきに成功した永瀬王座は、手順に飛車を入手して攻めを継続します。森内九段も玉を盤面左方に転換して粘りの姿勢を見せますが、永瀬王座の玉が相変わらず堅陣に収まっているため攻め合いに持ち込むことはできません。形勢は永瀬王座有利のまま終盤戦に突入しました。

魚鱗の陣が鶴翼の陣を破る

7筋に逃げ込んだ森内九段の玉を狙って、二段目に飛車を打ち下ろしたのが永瀬王座の基本に忠実な攻め方でした。このあと、森内玉の守りの銀をはがしてから金を寄せていくことで一間竜を狙ったのが決め手となり、永瀬王座は一歩一歩確実に森内玉を窮地に追い詰めていきます。7筋での折衝が続いたのちようやく永瀬玉にも詰めろがかかりますが、そのころには永瀬王座は森内玉への詰みを準備し終えていました。

終局時刻は21時17分、自玉の詰みを認めた森内九段が投了。戦いが始まってから一度も形勢の針を譲らなかった永瀬王座が快勝で2回戦にコマを進めました。一局を振り返ると、永瀬王座の敷いた堅い魚鱗の陣が森内九段の敷いた広い鶴翼の陣を上回った格好です。永瀬王座は次局2回戦で松尾歩八段と対戦します。森内九段は出場者決定戦に回って1組残留と本戦進出を目指します。

水留啓(将棋情報局)

  • 勝った永瀬王座は公式戦の連敗を2で止めた(写真は第93期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第1局のもの 提供:日本将棋連盟)

    勝った永瀬王座は公式戦の連敗を2で止めた(写真は第93期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第1局のもの 提供:日本将棋連盟)