北越急行は2023年3月18日にほくほく線のダイヤ改正を実施する。ほくほく線はJR上越線の六日町駅とJR信越本線の犀潟駅を結ぶ路線で、両端の駅からJR線と直通する。とくに越後湯沢駅で上越新幹線と連絡するから、ダイヤ改正は避けられない。ただし、今回のダイヤ改正はJR線と調整するだけでなく、ほくほく線そのものの施策を転換するダイヤ改正となった。
ほくほく線はかつて首都圏と北陸地域を結ぶ速達ルートの一部だった。越後湯沢駅と富山駅・金沢駅を結ぶ特急「はくたか」がほくほく線を経由し、最高速度160km/hで走行した。その後、2015年3月に北陸新幹線長野~金沢間が延伸開業すると、越後湯沢駅経由の首都圏・北陸連絡ルートの役目は終わった。それでも時間帯によっては東京~直江津間を速達できるとして、北越急行は特急料金不要、最高速度110km/hの超快速「スノーラビット」を運行してきた。
東京~北陸間の需要はなくても、十日町駅や直江津駅からほくほく線経由で東京を結ぶ需要を拾えるとして、超快速「スノーラビット」は下り2本・上り1本設定された。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う長距離旅行客減少、経営状況悪化の影響を受け、2022年3月から下り1本のみとなっている。その他、停車駅を増やした快速列車が下り1本・上り2本ある。
2023年3月以降の改正ダイヤは、超快速「スノーラビット」も快速列車もなく、同時間帯に普通列車が設定されている。減便も目立つ。朝の下り普通列車1往復が土休日運休になった。もともと通学列車だったため、学校が休みの日は運休する。12時台の普通列車は廃止された。報道発表資料を見ると、「前後の列車と統合」という表現になっているが、2つの列車の間を取ったとはいえない。12時台の廃止といえる。
「金土休日」にJR線へ直通していた列車は「土休日」となって、金曜日の延長運転は消えた。もともと直前にJR線の列車が走っている。普通列車もJR線直通が減って、JR線の列車への乗換えが案内されている。親切に「直通列車で越後湯沢駅や直江津駅まで送迎する」という余裕がなくなったといえそうだ。
現行の下り「スノーラビット」は越後湯沢駅9時14分発・直江津駅10時15分着。ダイヤ改正後は普通列車になるため、直江津駅の到着時刻が10時43分となり、約30分遅くなる。えちごトキめき鉄道に乗り入れる唯一の列車だったが、この乗入れも終了する。現行の越後湯沢駅11時48分発の快速列車はダイヤ改正で普通列車になり、越後湯沢駅11時41分発に繰り上がる。直江津駅到着は約10分遅くなるため、所要時間は20分増える。
上りは朝の快速2本が消えた。現行の始発列車である直江津駅5時52分発の快速列車は20分繰り上げ、直江津駅5時32分発の普通列車に。越後湯沢駅の到着時刻に変更はなく、上越新幹線の上り東京行「たにがわ402号」への接続を維持する。東京駅到着は8時40分。通勤・通学も可能な時間ではある。現行の直江津駅8時2分発の快速列車はダイヤ改正後、直江津駅8時12分発の普通列車になる。越後湯沢駅への直通は取りやめ、六日町駅でJR線の列車へ乗継ぎとなる。上越新幹線へ乗り継いだ場合の東京駅到着が30分ほど遅くなり、11時28分に到着する。
その他、直江津駅を12時台に発車する普通列車が消え、直江津駅を7時31分に発車する六日町行の普通列車はは土休日運休となる。直江津発の最終列車が約30分繰り上がる一方、十日町駅で長時間停車するため、六日町駅到着までに現行の時刻との差は縮まる。
列車の時刻データをダイヤに表すと、北越急行の意図を理解しやすい。朝の通学時間帯は快速・超快速をやめる代わりに、普通列車の運行間隔をほぼ等間隔に整理した。
ほくほく線沿線は六日町駅、十日町駅、まつだい駅、虫川大杉駅の周辺に県立高校がある。下りは約40分間隔、上りは約30分間隔となったので、各列車と高校の始業時刻を比較すると、列車ごとに乗車する高校が分かれるはず。混雑の均等化が期待できそうだ。通過列車がなくなったことで、すべての駅で乗車機会が同じになった。いままで通過列車があった駅からは増発と同じ効果がある。
12時台の列車は消えて、ぽっかりと穴か空いたように見える。これに関して、じつは観光列車や企画列車用に空けているのではないかと筆者は予想する。「えちごトキめきリゾート 雪月花」(えちごトキめき鉄道)がほくほく線に乗り入れたときも12時台だった。普通列車がなければ臨時列車の設定に自由度が高まるし、停車時間を長めに取れるだろう。
そしてもうひとつ、北越急行の目的はコスト削減。全列車を普通列車化し、北越急行のHK100形の最高運転速度を95km/hに落とす。速度を下げれば消費電力が下がる。その上にモーター・台車等の負荷も下がり、ブレーキパッドの摩耗も減る。つまり、車両が長持ちする。
コスト削減に関して、北越急行代表取締役社長の小池裕明氏が新潟日報のインタビュー記事で言及している。2022年6月24日付の新潟日報「三セク鉄道協会長に就任 北越急行・小池裕明社長インタビュー 鉄道会社と行政関係密に 路線維持住民の声尊重」によると、「コスト削減のため、最高速度を現行の110キロから10キロ下げ、所要時間を10分ほど延ばすことも考えている。ただ、エネルギー価格など物価も上がっており、トキ鉄と同様に値上げの検討を始めている」とのこと。
さらに、「設備を交換すること自体に相当の費用がかかる。変電所や列車が行き違うための設備など削減できるものは既に休廃止している。さらに設備のスリム化を進めるかどうかは慎重に判断する必要がある」とも語った。
現行ダイヤを見ると、特急「はくたか」が運行された時代に使っていたすれ違い設備のうち、魚沼丘陵~美佐島間の赤倉信号場、十日町~まつだい間の薬師峠信号場、まつだい~ほくほく大島間の儀明信号場はすでに使われていない。列車のすれ違いは十日町駅、まつだい駅、虫川大杉駅、くびき駅で実施しており、これはダイヤ改正後も変わらない。平行ダイヤとネットダイヤを維持するために、最低限必要な設備といえる。
北越急行の輸送人員は回復傾向にある。2022年3月期決算の輸送人員は前年同期比9.4%増の81万人、通学定期利用者が3万人増え、観光客など定期外利用者は4万人増えた。2022年9月中間決算によると、輸送人員は前年同期比で14%増とのこと。行動自粛の緩和や、大地の芸術祭をはじめとするイベントの再開効果が現れた。このままの水準で2023年3月期を想定すると、営業収益は前期比9,809万円増となる。ただし、自治体の新型コロナ関連の助成金がなくなるため、赤字は約3億円の増加。最終赤字は約8億4,682万円になるという。
北越急行は特急「はくたか」が運行された当時の利益を元手に資産を運用しており、80億円以上の純資産を保有する。一時は100億円以上を保有しており、1億円以上の運用益を得ていた。これは特急「はくたか」廃止を見込んでいたからだった。予定通り資産を取り崩してきたものの、コロナ禍の影響で予想外の減収となった。そこで、新潟県は2022年度予算で、北越急行に対して2億8,000万円の支援を行った。
さらなる懸念は、変電所やトンネル、高架橋など設備補修の費用がかさむこと。車両の更新期限も迫る。こうした状況の中で、北越急行は首都圏・北陸連絡という役割を辞退し、コスト削減と沿線地域の利便性に特化した判断を行った。それが2023年3月のダイヤ改正に現れた。
ただし、沿線人口の低下が進む中で、沿線外からの乗客を獲得する必要はある。ローカル鉄道は「楽しい鉄道」を強めていきたい。せめて維持する必要がある。HK100形のうち2両は天井に映像を投影する「ゆめぞら号」として運行されている。このような楽しいしかけをコストカットしてはいけない。北越急行は、わざとゆっくり走ってファンを楽しませた「超低速スノータートル」など、低予算で楽しいしかけを作る知恵があった。新しいダイヤの隙間に、どんな面白さをしかけられるか。北越急行の新たな施策に期待したい。