第81期A級順位戦(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)6回戦の藤井聡太竜王―佐藤天彦九段戦が12月23日(金)に名古屋将棋対局場で行われ、110手で藤井竜王が勝利しました。この結果、今期成績は勝った藤井竜王が5勝1敗、敗れた佐藤九段が1勝5敗となりました。

急戦矢倉の新構想

先手となった佐藤九段は初手に角道を開けて矢倉の戦型を志向しました。対して後手の藤井竜王は右桂の活用を急ぎ、急戦矢倉の布陣を整えます。直後に見せた△6三金が新感覚の一手で、自玉の広さを主張しながら攻めに厚みを加える構想です。佐藤九段が右銀を三段目に繰り出して早繰り銀の攻めを見せたとき、藤井竜王はさっそく銀取りに右桂を跳ね出して戦いを開始しました。

局面は早くも実戦例のない戦いに突入しています。藤井竜王の仕掛けを受けた佐藤九段は、2筋で歩を交換したのち角を中央に据えて戦いに備えました。やがて細かいやり取りが一段落したタイミングで、佐藤九段は7九にいた玉を2手掛けて居玉の位置に戻す苦心の対応を見せます。ここでは右銀を繰り出しての攻め合いや右金を玉に寄せての陣形整備との比較で悩んだという佐藤九段ですが、実戦では玉を戦場から遠ざける受けを選んだ形です。

封じられた佐藤九段の勝負手

受けの手を続ける佐藤九段に対し、後手の藤井竜王は棒銀の要領で8筋に銀を繰り出しました。放置しておくと飛車先突破があるため、ここは先手の佐藤九段としても攻めを急がされています。佐藤九段が6筋の銀で桂を食いちぎったのは直後の桂打ちとの連携で2筋突破を目指す攻めの勝負手でしたが、藤井竜王もここは最小限の受けにとどめて8筋方面からの反撃に転じました。

盤上では盤面全体を使った激しい攻め合いが繰り広げられています。藤井竜王が△7六銀と先手陣にプレッシャーをかけた局面は、局後の感想戦でも時間をかけて検討されたポイントの局面となりました。佐藤九段としてはここで角と飛車を立て続けに切り飛ばして飛車金両取りに角を打つ手を狙いたいところでしたが、結局この猛攻も藤井竜王からの反撃が厳しく後手がわずかに有望と結論付けられました。

藤井竜王の盤石な指し回し

期待の反撃を指すことを封じられた佐藤九段はじっと自玉の早逃げで辛抱しますが、ここから藤井竜王の待望の反撃が始まります。垂れ歩の手筋で先手の飛車を近づけてから自陣の左桂を跳ねたのが絶品の活用で、これによって自陣を安全にしながら先手の攻め駒を封じ込めることに成功しました。このあとも、局面の複雑化を図る佐藤九段の攻めに丁寧に対応しつつ敵陣に竜を作った藤井竜王が優勢となって終盤戦に突入します。

自身の攻めが一段落したタイミングで△6五銀と引いたのが藤井竜王の緩急自在の指し回しでした。この手は遊び駒の銀を活用しながら受けに厚みを加え、先手からの攻めを誘った一石二鳥の手です。対する佐藤九段はやむを得ず飛車切りの攻めを敢行しますが、こうなっても自玉が安全であることを藤井竜王は読み切っていました。ここで手にした駒を元手に、最後は藤井竜王が佐藤九段の玉を即詰みに討ち取って熱戦に幕を引きました。

終局時刻は翌24日0時6分、勝った藤井竜王は1敗をキープして今期初めてリーグ単独首位に躍り出ました。次局7回戦では▲藤井竜王―△豊島将之九段戦、▲佐藤康光九段―△佐藤天九段戦が予定されています。

水留啓(将棋情報局)

  • 藤井竜王は最年少・最速での公式戦通算300勝を達成した(未放映のテレビ対局含む)(写真は第35期竜王戦番勝負第1局のもの 提供:日本将棋連盟)

    藤井竜王は最年少・最速での公式戦通算300勝を達成した(未放映のテレビ対局含む)(写真は第35期竜王戦番勝負第1局のもの 提供:日本将棋連盟)