「物価上昇」「金利上昇」「不動産価格上昇」の"トリプル高"が現実のものとなった昨今、「変動金利はいつ上がる?」「固定金利と変動金利、どちらを選ぶべき?」など、住宅ローンに改めて注目が集まっている。
世界経済の不透明感が強まっている中、果たしてこれからの住宅ローン金利はどうなっていくのか。住宅ローン比較サービス「モゲチェック」を提供する株式会社MFSが開催したメディア向け勉強会の内容を踏まえて、住宅ローン金利の現状と今後の見通しを紹介する。
■住宅ローン金利の現状、固定金利が上昇傾向
足元の住宅ローンの金利動向を見ると、アメリカの利上げの影響を受けて、固定金利は上昇傾向。10年固定金利は1.20%、フラット35は1.54%となっている。一方、変動金利は日銀のマイナス金利政策続行により、0.44%の低位で安定している。
固定金利上昇の背景に、アメリカの利上げの影響が大きいために、日銀のイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)による歯止めが効きにくくなっていることが挙げられるという。
10年よりも長い年限の日本国債の利回りが上がっているため、それを反映して固定金利も上昇。住宅金融支援機構においても、市場からの資金調達のコストが上がっていることから、フラット35の金利を上げざるを得ない状況になっているそうだ。
■固定金利は今後2%台になる可能性も
住宅ローンを借りている人、あるいは借り入れを検討している人が気になるのは、今後の金利の動向だろう。「モゲチェック」の予想では、固定金利は今後2%台に上昇する可能性もあるという。
「モゲチェック」を運営する株式会社MFS 取締役 COOの塩澤崇氏は、アメリカの利上げは当面続くと見られており、2023年5月頃には5%程度に上昇する見込みであることを根拠として挙げる。
■固定金利の上昇が不動産価格の抑制につながる?
固定金利が上昇すると、固定金利で借り入れをする人の返済額が増えるのは当然だが、固定金利の上昇は変動金利ユーザーにも影響する可能性がある。固定金利の上昇によって、住宅ローンの借入可能額が減るかもしれないのだ。
住宅ローンの貸し付けをする際、銀行は返済比率(その人の収入の何%を返済に充てるのか)を算出した上で審査を行う。このとき、家計が金利上昇に耐えられるよう、実際に適用される金利よりもやや高い「審査金利」を用いて返済比率が計算される。
現状の審査金利は3.0~3.5%程度だが、今後審査金利が上がれば借入可能額が減少する。
返済比率の上限を35%、毎月の返済額を15万円と仮定しよう。この条件で借りられる住宅ローンの元本は、審査金利が3%のときは3,900万円だが、審査金利が4%に上がると3,390万円まで目減りしてしまう。審査金利は固定金利の上昇幅などを見ながら総合的に決定されるため、固定金利が上がると審査金利も上昇すると考えられる。
さらに、審査金利の上昇によって住宅ローンの貸し出しが伸びなくなると、結果的に不動産価格の抑制につながる可能性もあるという。実際に、アメリカでは利上げの影響で住宅ローンが借りづらくなった結果、不動産価格の上値が抑えられている。こうしたことが今後日本でも起こりうるのだ。
■変動金利は2030年頃まで上がらない?
直近の物価上昇や固定金利の上昇で、「変動金利が上昇する日も近いのでは」と見る人もいる。
一方で、日銀の黒田総裁は「持続的なインフレ2%を達成するまで金融緩和を続行する」と宣言している。この「持続的なインフレ2%」は「賃金上昇⇒需要増大⇒物価上昇」という経済のサイクルが回ることを意味し、中でも「賃金上昇」が最大のポイントとなる。
日本の賃金は過去30年間上がっておらず、直近の物価上昇を考慮した実質賃金はむしろマイナス傾向にある。こうした状況を踏まえ、モゲチェックでは「変動金利の上昇は当面先」と見込んでいる。
モゲチェックの調査によれば、変動金利が1%上昇すると、国内の変動金利ユーザー全体の年間負担額は1兆円も増加する。「賃金上昇を伴わない金利上昇は消費活動を冷やしかねないため、利上げは賃上げが前提になるだろう」というのが塩澤氏の見立てだ。
モゲチェックの塩澤氏が"考えられる変動金利上昇のタイミング"として挙げるのが、2030年頃だ。ボリュームゾーンのバブル世代の退職により、労働市場が引き締まることで、全産業で賃金が上がると予想している。これによって「賃金上昇⇒需要増大⇒物価上昇」という経済のサイクルが回れば、日銀も利上げに踏み切る可能性がある。
■2023年に欧米がリセッション入りか
グローバル経済の動きで気になるのが、2023年に欧米がリセッション(景気後退)入りするのではないかという懸念だ。リーマンショックやITバブルでも見られたように、欧米経済が日本より一歩先に景気回復するという構図がある。
せっかく日本の景気が上向いてきたのに、一歩先を行く欧米がリセッションに入ったため、利上げができないという事態は過去に何度も繰り返されてきた。今回も、欧米のリセッション入りで日本の利上げがさらに遠のく可能性がある。
住宅ローンユーザーとしては、欧米のリセッションがいつ起きるのか、また起きた場合は日本にどのような影響を及ぼすのか、注視しておきたいところだ。
■いま選ぶべきは「変動金利」
物価上昇などによって先行きへの不安感が増す中、「固定金利と変動金利、どちらを選べばいいかわからない」という人も多いだろう。しかし、住宅ローンを取り巻くさまざまな状況を踏まえた上で、モゲチェックが推奨するのはやはり「変動金利」だ。
その理由として、足元の固定金利と変動金利の差があまりにも大きいこと、また、前述の通り変動金利は当面上がらないと見ていることが挙げられる。住宅ローンはその特性上、最初の10年間の利息負担が大きいたため、最初の10年間ほど安い金利で借り入れをするべきで、今わざわざ金利の高い固定金利を選ぶ必要はない。ただし、住宅ローンユーザーには、万が一に備えて貯蓄と中長期の運用を提案しているという。
変動金利が借りられる人は変動金利を選び、その上で将来の金利上昇に備えて、貯蓄や中長期の資産運用で余力を残しておく。これが現状での住宅ローン借り入れの「最適解」といえるかもしれない。