ICTなどを活用したeスポーツの発展と地域活性化を議論する「eスポーツシンポジウム2022」が、10月15日に神奈川工科大学で開催された。

  • 神奈川工科大学の学長・小宮一三氏

NTT東日本とNTTe-Sportsが共催し、同大学の先進eスポーツ研究センターの研究成果発表や有識者による講演などが実施された本シンポジウム。そのプログラムの中から今回は、神奈川工科大の取り組み内容と併せ、「eスポーツを活用した地域活性化」と題されたパネルディスカッションのもようを紹介する。

eスポーツ研究に取り組む神奈川工科大

本シンポジウムの主催する神奈川工科大は、eスポーツの発展と地域活性化を目標に掲げて設立されたNTTe-Sports、NTT東日本との3者連携協定を2020年に締結。来年の60周年を控え、eスポーツに関する専用施設の建設計画も進めている。

「本学ではたくさんのシンポジウムを開催していますが、eスポーツに関するシンポジウムはおそらく今回が初めてではないかと思っております」と話すのは、同大学の学長・小宮一三氏。

「世界的に盛り上がりを見せているeスポーツですが、国内での取り組みはまだまだ遅れています。ITの先進大学として教育研究を行う本学は、eスポーツに強い関心を持っており、本シンポジウムがeスポーツの魅力と今後の発展の道筋をご理解いただく一助となれば幸いです」(小宮氏)

横浜マリノス株式会社ブランド戦略部・武田裕迪氏による基調講演の後、神奈川工科大の先進eスポーツ研究センターの取り組みが紹介された。

音響工学を専門とする情報メディア学科・上田麻理准教授は「eスポーツにおける聴覚情報の役割」と題し、講演を行なった。

  • 神奈川工科大学 情報メディア学科・上田麻理准教授

同大学の情報学部は2021年に「スポーツ音響学」の授業を開設。eスポーツの分野ではFPSにおける聴覚情報の重要性を定量化する検証を行う学生の研究など、音から得る情報量により、ゲームの能力に大きな差が生じることなどを紹介した。

「本学の学生にはゲームで世界的にも卓越した能力を持つ学生もおり、音響デバイスなども含め、そのこだわりは広く深い。そうした学生の能力をリソースとして活かしつつ、ゲーム上達のためのトレーニングや聴覚メカニズムなど学術分野への知見につなげたいです」(上田氏)

情報ネットワーク・コミュニケーション学科の岩田一准教授は、「eスポーツの操作におけるネットワーク遅延の影響検証」について報告。ゲーム競技の公平性を担保する遠隔対戦システム実現に寄与すべく、レースゲームとリズムゲームを題材に、実施した実験を紹介した。コロナ禍でのネットワークを経由した大会開催の需要などが、研究背景の一つにはなっているという。

また、2018年に同大学の公認サークルとして発足したKAIT eSports部の学生も登壇し、その活動内容を発表した。同部はeスポーツ普及や個々のスキル向上のための競技を主体に活動を始め、2020年に公認の部活動へと昇格。現在約70名の学生が在籍する。

「大乱闘スマッシュブラザーズ」「Apex Legends」「スプラトゥーン」「Shadowverse」「Call of Duty」「VALORANT」の計6部門があり、スマブラ部門は大学対抗戦でも優秀な成績を残す強豪。NTTe-Sportsが運営する「eXeField Akiba」で学外イベントを開催するなど、イベントや大会運営にも積極的に取り組んでいるという。

自治体担当者が語るeスポーツの魅力

パネルディスカッション「eスポーツを活用した地域活性化」では、厚木市政策部企画政策課・梅落秀一氏、小田原市経済部観光課・宇佐美雄也氏、横須賀市文化スポーツ観光部観光課からは小山田絵里子氏と関山篤氏がパネリストとして登壇した。

eスポーツの聖地を目指し、先進的な取り組みを進める横須賀市の小山田氏は、「主な取り組みとして、2019年からPCメーカーさんにご提供いただいた高性能PCを、市内の各高校に無償で5台ずつ貸与しています。ネットワークやセキュリティ面の整備をNTT東日本様にご協力いただき、生徒がeスポーツに取り組むための教育支援も行っています」と、同市のeスポーツ振興について紹介した。

  • 横須賀市文化スポーツ観光部観光課の小山田絵里子氏

アニメ「たまゆら」との2013年のコラボ企画を皮切りに、様々なサブカルチャーコラボをを展開してきた同市。ゲームでは地域特性を活かし、2019年から開催しているスマホゲーム「アズールレーン」のイベントや、今夏には猿島での「モンスターハンターサンブレイク」のコラボイベントも話題となった。

  • 横須賀市サブカルチャーコラボの歴史

NTT東日本グループが手がける次世代型ICT教育施設「スカピア」でのセミナー開催など、eスポーツに市民が触れる場を整備するほか、これまで高校生を対象にしたeスポーツ大会「YOKOSUKA e-Sports CUP」を3回開催。参加チーム数は11チームから今年は90チームとなり、市の遊休施設を活用したeスポーツチームの誘致にも成功した。

  • 横須賀市でのeスポーツの取り組み

続いて、小田原市の宇佐美氏は小田原市がeスポーツ振興を開始した背景として、令和2年度に実施した小田原観光に関するイメージ調査結果を紹介。若年層に訴求でき、新たな地域産業の創出の可能性も秘めたeスポーツに注目したという。

  • 小田原市経済部観光課の宇佐美雄也氏

「Z世代だけでなく、ミレニアム世代など現在のファミリー層など幅広い人に訴求できるのもeスポーツの魅力」とのことで、今年2月にはプレイベント「e-Sports小田原の陣〜ぷよぷよ体験会〜」を開催。コロナ禍で告知もままならないなかでのオフライン開催だったが、ファミリーを中心に約500人が参加したそうだ。

  • 「e-Sports小田原の陣〜ぷよぷよ体験会〜」

この11月と来年3月には小田原城の本丸広場でeスポーツ大会をオフライン開催する予定。小田原駅直結の施設で市民の利用を主に想定したeスポーツ発信拠点の整備を進め、観光誘客のためにゲームタイトルとコラボした回遊促進コンテンツの造成も計画中とのことだ。

厚木市の梅落氏は「厚木市はeスポーツの取り組みが具体的にはまだ何も始まっていない状態です。今日は2市の取り組みを学ばせていただくつもりで参りました」と前置きした上で、昨年度実施したゲーム交流会ついて紹介。神奈川工科大はじめ市内企業・団体との連携を強化する方針を語った。

「東京五輪2020大会でニュージーランドのホストタウンに登録された厚木市には、昨年1月の事前キャンプで男女サッカー代表チームが滞在しました。コロナ禍で市民との交流が難しいなか、ニュージーランド代表選手と市内サッカーチームに所属する子どもたちがサッカーゲーム『FIFA 21』で対戦しました。ソニー厚木テクノロジーセンター様、厚木eスポーツ協会様と連携したこのゲーム交流会は非常に盛り上がり、eスポーツに大きな可能性を感じています」(梅落氏)

eスポーツ振興でも地域の特色を打ち出す時代に

小田原市の宇佐美氏は市役所内の理解が思うように進まないとのことで、横須賀市にアドバイスを求めると、担当者の2人は次のように回答した。

  • パネルディスカッション「eスポーツを活用した地域活性化」の様子。横須賀市文化スポーツ観光部観光課の関山篤氏と小山田絵里子氏、小田原市経済部観光課・宇佐美雄也氏、厚木市政策部企画政策課・梅落秀一氏がパネリストとして登壇した

「実際に上司をゲームショウや大会へ連れて行き、熱気などをお肌で感じてもらうことが、1番かなと思います。あとは『モンハン』でとくに感じたのは、すでに庁内でそのゲームが大好きな人がいるので、積極的にそういう人材を探し、声をかけていくことが大事」(小山田氏)

「実は市民からネガティブなご意見をいただいたことはないです。まだまだ認知度が低い面もあるかもしれませんが、横須賀に移住したプロチームが町内会イベントに呼ばれるなど、期待感のほうが大きいと感じます」(関山氏)

横須賀市は令和2年度から本格的にeスポーツ振興に関する予算を獲得。現在、同市のeスポーツ事業は地方創生推進交付金の対象事業にもなっており、「大会では協賛企業様から協賛金をいただき、企業版ふるさと納税でのご寄付もあります。徐々に規模も拡大していて、eスポーツの可能性を感じている」(関山氏)という。

eスポーツへの注目度が全国的に高まるなか、自治体の特色の出し方に関して会場から質問が出ると、「まさに模索中ですが、小田原市の歴史観光をうまく掛け合わせた独自のものをつくり上げていきたい」(宇佐美氏)、「厚木市内には5つの大学と約1万社の事業所があり、それは大きな強み。高齢者の認知症予防などと絡めつつ、神奈川工科大様をはじめとした産学官連携の相乗効果を期待しています」(梅落氏)とコメント。

  • 厚木市政策部企画政策課・梅落秀一氏

小山田氏は「今後は全国規模の大会誘致にも力を入れていきたいです。また、市民全員が応援するぐらいのスター選手を育成し、さらなる認知度向上を図りたい」と語った。

日頃からeスポーツに親しむ人にとっては興味深いトピックの数々が語られた本シンポジウム。YouTubeでもアーカイブ動画が公開されている。