3月に強い上昇トレンドに突入して以降、上昇を続けてきたドル/円相場ですが、10月20日に約32年ぶりの150円台をつけました。翌21日には一時152円台目前にまで上昇したのちに為替介入が行われ、144円台まで円高が進み、乱高下の様相となっています。
日常的に投資等を行わない方々にとって、普段は為替相場の値動きはあまり気になることはないと思いますが、ここまで急激な値動きとなるとニュース等でも取り上げられる機会が増えてきます。
この為替の動きにどう向き合えば良いのでしょうか? 今回は直近の激しい値動きにも触れながら、今後の行動の考え方について見ていきたいと思います。
■24年ぶりの為替介入も、円安は止まらず
まずは、この約1カ月で行われた為替介入について、簡単に見ていきましょう。為替介入とは、為替相場の急激な変動を抑え、その安定化を図る目的で、外国為替市場にて通貨の売買が行われることを指し、財務大臣が判断し、日本銀行が実施します。ニュースでは、「政府・日銀」という表現がされることがありますが、実施を決めているのは財務省なのです。
以降では、最近行われた為替介入について見ていきましょう。直近ではじめて実施されたのは9月22日でした。この日は日銀の金融政策決定会合があり、夕方の黒田総裁の会見を受けてドル/円相場が上昇し、24年ぶりの145円台をつけていました。そのタイミングで過去最大ともされる2.8兆円規模の介入が行われ、短期間に140円台まで円高が進みました。
その後、リバウンドにより144円台近辺まで戻すも、投機的な激しい値動きは一旦小康状態となります。投機的な値動きの牽制の目的もあった為替介入は市場に一定の効果をもたらしました。しかし10月中旬に入ると、米国の10年債利回りの上昇などもあり、ドル円相場は再度上昇に転じます。
続いて大規模に為替介入が実施されたのは10月21日です。前日に約32年ぶりの150円台をつけたのちに円安が止まらず、151円台後半で推移していたところで介入が実施されたと推測され、短期間の間に大きく円高方向に振れ144円台まで下落しました。週明けの24日の朝方にも大きく円高方向に振れた場面があり、ここでも介入があったのではないかと推測されています。
■「変動」と「水準」がポイント
最近の大きな値動きの背景には、相場変動に伴う取引の活発化があります。短期的な取引で利益を上げるには、相場の変動(ボラティリティ)が必要になりますが、今年のドル・円は十年来の節目を次々と突破し、値動きも激しいことから個人の取引が活発になっています。金融先物取引業協会が発表した9月の店頭FX取引売買動向を見ると、円・ドル取引の売買高は1098兆円と今年6月を超えて過去最大となっています。
今後は現在の大きな変動をどう抑え込むか、また年間で30円以上進んだ、行き過ぎた円安水準がどう落ちつくかがポイントであり、それを達成するために引き続きしばらくは為替介入が話題になることが予想されます。
10月下旬の介入以降、ドル円は毎日2円程度の値動きが続いており、9月ほど変動を抑える効果は発揮されず高値圏での大きい変動となっています。また10月21日・24日と150円近辺で介入が続いたことから、150円の水準はある程度意識されていることが予想されます。今後は、150円を1つの大きな意識する水準として、値動きが落ちつき取引ボリュームも減少方向へと動いていくかが今後の重要のポイントとなるのではないでしょうか。
■今の水準からどう動くかを想定してアクションを考える
為替介入が積極的に行われていることからも、現在の1ドル=150円近辺の水準は政府としても望ましい状態ではないことがわかります。
本来メリットと語られてきた円安も、大企業でさえデメリットと感じる事態にまでなっています。「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの柳井正・会長兼社長は「円安でメリットを感じている人がいるのか。製造業でもほとんどいないと思う。むしろ、デメリットだ」と語っています。事業を行う上でも、コスト増など悪影響が出ているのです。
現在のような、通貨が大きく変動する環境では、個人はどのような行動が求められるのでしょうか。このような著しい為替相場の変動は頻繁に起こるわけではありませんが、学びをあげるとすると、自分の資産をすべて円で保有することは、一定のリスクがあることは身をもってわかったのではないでしょうか。
もちろん、日本国内から出る予定がないのであれば、あまり通貨の価値を外貨と比較する必要はありませんが、円安によって輸入コストが上がり、国内の物価の増加圧力になることを考えると間接的には行き過ぎた円安の弊害があるとも言えます。
ところが、1ドル150円まで進んだ今から、外貨資産の比率を増やす行動が適切かというと、それはわかりません。ここにきて、ニュースで為替に関して触れる機会が増えてきたことから、円をドルに換えるような動きも増えてきているようです。
一方で、政府がこれ以上の円安を嫌がっているような状況の中、150円を大幅に超える円安が更に起こるかは一考の余地があるでしょう。今後円からドルに換える場合は、ドル円がこれ以上上昇する確率と、反落して円高方向に進んでいく確率のどちらが高いかを考えてみる必要があります。
もし保有しているドル資産があれば、価値の上昇により全体の資産に占めるドル資産の割合が増えている可能性もあるため、利益確定のために一部円に変えるといった行動は資産のバランスを考える上でも良いでしょう。資産のバランスを考えながら、慌てずに行動することが求められます。
平時ではあまり必要性が高くない金融に関する知識ですが、有事には少しわかるだけで行動にポジティブな影響を与えます。ニュースなどから活発に情報を入手したい現在の状況を活用し、自身の資産保有の在り方について、考えてみてはいかがでしょうか。