日本全体で30年間賃金が上がっていない一方、最近は身の回りのモノの値段や光熱費などの上昇が目立っている。年金制度の先行きも不透明な中、将来に不安を抱いている人も多いのではないだろうか。

そんな中、改めて「投資」に注目が集まっているが、「投資なんてお金に余裕のある人がするもの」と考えている人もいるのではないだろうか。

20代でFIRE(Financial Independence, Retire Earl:経済的自立と早期リタイア)を達成した投資家の遠藤 洋(えんどう ひろし)氏は、「投資に年収は関係ない」と断言する。初心者におすすめの投資方法や、投資先の選び方など、お金と時間の自由を手に入れる極意を聞いた。

■初心者におすすめなのは「個別株」

――初心者におすすめの投資方法を教えてください。

中小企業の個別株への集中投資です。ETFや投資信託は何も考えずに投資できるのがメリットですが、そのぶんリターンも低くなるので、大きなリターンを狙うなら個別株のほうがいいです。

世の中の動向に敏感になれるのも、個別株をすすめる理由です。個別株に投資をすると、世の中の動きと株価がリンクしているのが見えてくるんです。コロナ禍で人の動きが止まったときは、鉄道や飲食店の株価が下がった一方で、デリバリーサービスやネットサービスの運営企業の株価は上がりました。

初心者は手軽なイメージのある積立投資に目がいきがちですが、金融業界には「お金はあるけど自分の頭で考えたくない」という人をカモにするような商品がたくさんあります。詐欺ではなくても、銀行の窓口で勧められるような金融商品は手数料が高いので、勧められるままに買って損をする人が後を絶ちません。

自分のお金を投資する以上、投資の前段階でちゃんと勉強して金融リテラシーを身に付けることが、最初のステップとして一番大事だと考えています。

――初心者が個別株に投資する場合、どのくらいのスパンで考えればいいのでしょうか?

最初のうちは勉強の意味もあるので、時間軸は短めに設定してもいいでしょう。まずは数カ月~半年程度で見て、慣れてきたら半年、1年、2年、3年くらいの時間軸にしていくといいと思います。

■投資先は自分が詳しいジャンルに絞る

――最初に投資するのは1社のみでも、その後色々な業界に投資先を分散させていったほうがいいのでしょうか?それとも、特定の業界に絞ったほうがいいですか?

自分が詳しい業界やジャンルに絞っていいと思います。自分の仕事や趣味に関係するものなど、自分が理解できる業界やジャンルに絞って、わからないものには手を出さないことが大切です。

日経平均がどう動くのかは予測不可能だと思っていますが、個別株はある程度予測可能です。自分の詳しい領域であれば、「この商品を出すんだったら売上が伸びるだろうな」といったことがわかりますし、ファンがついていて自分自身もリピートしているような商品を出している企業はやはり業績が伸びていきます。

結局、伸びるのは、世の中に「価値」を提供している会社、つまりは、みんなが欲しいと思うような商品・サービスを提供できている会社です。それを判断するのに必ずしも専門知識はいりませんし、好きなものや生活に身近なものであれば、消費者目線で判断できますよね。

そういった会社を見つけて、株を買って投資をするのは、個別株だからこそできることです。

――個別株の中でも遠藤さんは小型株をすすめていらっしゃいますが、小型株をすすめる理由は?

人間に例えると、「80歳のおじいさんに投資をするのか」「20歳の大学生に投資をするのか」ということなんです。どう考えても、20歳の大学生のほうが伸びしろが大きいですよね。それと同じで、小さい会社のほうが、投資をしたときに資産の桁を増やすポテンシャルが大きいというのが、私が小型株にこだわる理由です。

よく勘違いされるのですが、小型株というのは「株価」が低い会社ではなく、「時価総額」が低い会社です。時価総額は会社をまるごと買ったときの値段で、株価はそれを細分化したものです。

株価が2倍になるためには、時価総額が2倍になる必要があります。時価総額が10億円の会社ならプラス10億円ですが、時価総額が1000億円の会社の場合、1000億円のプラスが必要になります。時価総額が小さい会社のほうが圧倒的に2倍、3倍になる可能性が高く、うまくいけば10倍にもなる可能性を秘めているんです。

■損も「必要経費」と割り切ることが大切

――小型株投資を始めるにあたって必要な心構えをお聞かせください。

自分で理解できないものは買わないことです。よくわからないまま雑誌で読んだ情報や人から聞いた話をもとに投資をしてしまう人が非常に多いですが、自分の頭を使わずに投資しても損をするだけです。自分なりに業界や会社のことを理解して、自分の頭で考えて投資をすることが大切です。

半導体業界のA社に投資する場合、「なぜA社なのか」「A社が作る半導体が他社に比べてどんな優位性があるのか」「新商品の半導体を作ることでA社の利益が何%くらい伸びるのか」というところまで、何も見ずに人に説明できる状態を「理解している」と私は定義しています。

それと、続けることですね。投資には爆発力があるので、投資をする、しないで将来が大きく変わってきます。

――ただ、投資には損をする可能性もつきまといますよね。

はい。投資をすれば必ず損をする場面が出てきます。投資に関しては「絶対損したくない」という感覚を持っている人が多いですが、損を前提として、損も「必要経費」と考えることが大切なんです。

投資を始めたばかりのときに損が続くと、嫌になってすぐにやめてしまう人が多いですが、期待値的には、長く続ければ続けるほどお金が増えていくようになっています。投資は短期でやればやるほどギャンブルになってしまうんですよ。「投資は怖い」とか「ギャンブル性がある」と言う人がいるのは、株や相場を使ってギャンブルをやっているからです。

最初の数年間は下手するとお金が減ってしまって「やってる意味あるのかな」と思ってしまうかもしれませんが、投資を始めて10 年経つと資産の桁が変わってきます。

■前提知識を身に付けたら、まずはやってみる

――これから投資を始める方に向けて、投資力を付けるためのアドバイスをお願いします。

ぜひ本を読んでほしいと思います。そして、実際にやってみることです。ベースとなる金融リテラシーは絶対に必要ですが、それを身に付けたらまずは10万円からでもいいので実践してほしいと思います。

投資は実際にやってみないとわからないことがたくさんあります。日本人は勉強が大好きなので「勉強してから、準備が整ってから」と言う人が多いですが、本だけ読んでも完璧に理解できる日は一生こないので、準備なんて死ぬまで整わないんです。

それに、株を買う前はどうしても他人事ですが、株を買って投資をすると「自分事」になります。私自身、株を買ってからその会社のことをもっと調べたり、決算発表の日を意識したりするようになりました。まずは少額からでも投資を始めて、実践しながら本を読むというのが一番おすすめですね。

――あえて聞きますが、投資をするデメリットはありますか?

一つだけ投資をすることのデメリットがあるとすれば、「今の快楽を犠牲にする必要がある」ということです。投資というのは基本的に「今」ではなく「未来」のためにお金を使う行為です。そのため、投資には多からず少なからず「未来」のために「今」を犠牲にするという性質があります。

手元に100万円があるとして、これを投資すれば1年後に200万円になっているかもしれません。しかし、それは同時に「目の前にある100万円を今すぐ好きに使ってしまう」という選択肢を捨てるということでもあります。

今の快楽を優先しても投資するお金が残るほどの収入があるなら話は別ですが、ほとんどの人は目先の快楽を優先してしまったら全くお金は残らないでしょう。そう言った意味では、「目先の消費や浪費を我慢する必要がある」という点がデメリットであると言えます。

なので、私は「投資は未来のある若い人こそ積極的にやるべきで、老後は投資よりもむしろ目の前の快楽に積極的にお金を使って欲しい」と考えています。「今」を優先するべきか「未来」を優先すべきかは、人生のステージによっても変わってくるはずです。

■投資をしないリスクのほうが大きい

――どうしても「目の前のお金を減らしたくない」という気持ちになりがちですが、投資をしないことによって、未来に得られるはずのものが得られないリスクがあるということですね。

「目の前のお金を絶対減らしたくない」と思っている人は、投資をしないことによって未来にお金が増える可能性を潰してしまっているんです。確かに目の前のお金は守れるかもしれませんが、長い目で見ると機会損失していることになりますよね。そう考えると、投資をしないリスクのほうが大きいと感じます。

投資した10万円が半分になったとしても、生活に支障を出ることはほとんどないと思いますが、投資をすることによって、10 年後に全然違う未来が待っている可能性があります。 だから、「今の収入に関係なく、すべての人が投資をするべき」というのが私の考えです。