社会のパラダイムシフトで転職が当たり前になった今日、企業にとって中途採用の重要性が増している。

そんな中、人事・経営者向けメディア「HR NOTE」が主催する『HR NOTE CONFERENCE 2022(開催:2022年8月23・24日)』の1セッションとして、大手転職メディア4社の編集長や転職サービスの運営統括部長が一堂に会し、「イマ」と「これから」の転職マーケットについてディスカッションするコンテンツが配信された。

ビジネスパーソンにとっても、企業の採用戦略や求人広告の裏側を知ることで、ミスマッチの少ない転職が期待できるので紹介しよう。

  • これからの転職市場はどうなる?

「企業が人を採用する」時代から「働く人が企業を選ぶ」時代へ

筆者が社会人になりたての1980年代、日本は終身雇用が普通だった。しかし、その後のバブル崩壊やグローバル化で終身雇用制が崩壊し、人材の流動化が進んだ。今や転職は当たり前の時代。セッションは、まず最近の採用環境の変化ついて、各メディアの代表がキーワードをもとに語った。

  • カンファレンスの登壇者、左から『HRog編集長』でコーディネーター役の菊池健生氏、『エン転職』編集長の齋藤桂介氏、『doda』編集長の大浦征也氏、『マイナビ転職』サイト運営部の永井俊昭氏、『リクナビNEXT』編集長の藤井薫氏

全員に共通していたのは、コロナ禍が採用環境に大きな影響を及ぼしたこと。求人サイトの検索ワードで「リモートワーク」がトップになり、オンライン面接に対応できるかどうかで採用力に差が出ているという。

中でも、印象的だったのがリクナビNEXTの編集長である藤井氏が掲げた「主権の移動」というキーワードだった。

「企業が求職者を選別するのではなく、働く人が企業を選ぶ時代になりました。例えば、知名度がなく採用に苦しんでいた中堅企業が、働き方にフルリモートを導入したところ、1,000人以上から応募がある。そうしたケースが増えています」(藤井氏)

  • 「働く人が企業を選ぶ時代になった」と話す藤井氏

こうした働く個人のライフに寄り添った企業に求職者が殺到する背景について、藤井氏は、働く個人が「自らの生き方・働き方を、会社任せでなく自ら選び、人生を輝かせたいと思っている結果」と分析する。

確かに、フルリモートであればワーケーションなど多様な働き方・生き方が可能になる。働く側にとって、自らの生き方・働き方を念頭に企業を選ぶ潮流は、今後も続いていくことは間違いない。

自社のリアルな姿を伝えることが求職者の信用に

次のテーマになったのが「今時の採用担当者に求められるもの」だった。各メディアの代表がキーワードに掲げたのは、「人材の見極め力」(齋藤氏)、「マーケティング」(大浦氏)、「リアルな姿を伝える情報発信力」(永井氏)、「タテとヨコを結ぶ力」(藤井氏)、の4つ。特に、共感できたのが永井氏の情報発信力だ。

「最近の求職者は、口コミやネットでさまざまな情報を収集しており、求人広告の中身すべてを信じているわけではありません。採用担当者はブログやSNS等を通じて、良い面も悪い面も含めてリアルな姿をできるだけたくさん伝えていくこと。その上で、自社のファンになっていただくことが大切でしょう」(永井氏)

  • 「リアルな姿を伝える大切さ」を指摘する永井氏

確かに、これだけ情報社会になってくると、いくら採用担当者が自社を飾っても、悪い面も明るみに出るに違いない。ばれるくらいなら、自ら明かしてしまったほうが求職者の信用を得られるメリットが期待できる。

ポイントになるのは「求職者にファンになってもらえるだけの魅力があるかどうか」。この点については、大浦氏から次のような指摘もあった。

「採用活動はあくまで企業経営の一つの手段だと思います。その観点で、採用活動におけるマーケティングにおいて、競争力になりえる魅力が自社に見出せない場合、『採用ではなく、先ずは社員のエンゲージメント向上、魅力的な職場づくりをするよう手段を切り替える』くらいの気持ちが必要かもしれません」(大浦氏)

  • 「採用活動は自社を改善していく手段になり得る」と話す大浦氏

これくらいの気概を持って採用に取り組む企業なら、結果的に中途採用の成功率も高まるかもしれない。

求人広告のトレンドに関係なく情報を見抜く目を持つことが大切

こうした転職マーケットの変化は当然、求人広告にも影響を及ぼす。では、これからの求人広告はどうあるべきなのか。各メディアの代表は「正直・詳細な情報の開示」(齋藤氏)、「LOVE度と、ちょっとしたお化粧」(大浦氏)、「採用ノウハウ」(永井氏)、「結んで開いて物語る」(藤井氏)の4つのキーワードを提示した。

面白いのは、編集長によって「ちょっとしたお化粧」と「正直な情報開示」の2つの主張があったことだ。

大浦氏の考えは「広告は人の心を動かすもの。嘘はダメだが、少し風呂敷を広げて自社愛を発信することはあり」というもの。これに対して齋藤氏は、実例を交え、次のように持論を展開した。

「現在、SNSやYouTube、口コミサイトなど様々な情報リソースがある中で、会社の魅力だけを訴求しても、情報リテラシーの高い求職者に見透かされます。実際、設立3年のベンチャー企業がSNSで経営課題があることを自ら明かし、併せて改善の取り組み等の情報もまめに発信することで150名の採用に成功しています」(齋藤氏)

  • 「正直・詳細な企業情報の開示の大切さ」を説く齋藤氏


筆者も15年以上にわたって大手転職情報サイトの原稿づくりに携わっている。魅力だけでなく、厳しいところも紹介しようとする傾向にあることは間違いない。大切なのは、転職を考えるビジネスパーソン自身が情報を見抜く目を持つこと。それがミスマッチのない転職につながるようだ。