オフィスにとどまらず自宅やカフェなど働く場所の選択肢が増えている中、新しい働き方を社員自らが実験しているコクヨが、働くことの本当の多様性を模索しようというオンラインイベント「働くのミライ会議 vol.3」を開催した。

中でも興味深かったテーマは「メタバースの世界が働く場所になっていくか」。すでにメタバースに参入している企業3社(凸版印刷・テレビ朝日・コクヨ)の担当者が、メタバースの現状や今後の課題について語り合ったので紹介したい。

  • メタバースで働く未来が近い?

急速に進化しているメタバースの世界

そもそも、メタバースとは何だろう。

コクヨ 経営企画本部イノベーションセンター オープンラボグループ リーダー 嶋倉幸平さんは、次のように説明した。

「昨年後半くらいからよく聞かれるようになったメタバースとは、インターネット上に構築された3次元の仮想空間のことです。技術の進歩とともにリアリティのある仮想空間を創造できるようになり、今後もう1つの現実として生活を送る場になると言われています」

  • 時代とともに変わる「働く場」を追求し、すでにバーチャルオフィス実験を始めているコクヨの嶋倉幸平さん(経営企画本部イノベーションセンター オープンラボグループ リーダー)

また、バーチャルとリアルを融合した新しい働き方を支援するサービス「IoA Work(アイオーエーワーク)」を開発している凸版印刷 情報コミュニケーション事業本部 未来イノベーションセンター 事業創発本部 研究企画部 第一企画室部長 名塚一郎さんは、「IoA Workとは、本物そっくりのオフィス空間や家具等を正確にバーチャル空間上に再現し、アバター同士でのリモートワークを可能にするサービスです」と、解説。

五感体験を加えるなど、よりリアルなオンラインコミュニケーションの実現にも取り組み、120種類の香りを放つ「アロマシューター」を開発したと言う。

コーヒーやアロマの香りをメタバースの中で感じられ、ユーザーに人気になっているそうだ。

  • メタバースの現況は「インターネットの黎明期と似ている」と語る、凸版印刷 名塚一郎さん(情報コミュニケーション事業本部 未来イノベーションセンター 事業創発本部 研究企画部 第一企画室部長)

メタバースの世界が、ここまで進歩しているのかと驚かされる。

さらに、エンタメ業界ではすでにテレビの生番組やドラマと連動したメタバース内のイベントを数多く開催し、バーチャルマーケットにも参入していると、テレビ朝日 インターネット・オブ・テレビジョンセンター 原田裕生さん。

「テレビ朝日の新卒採用向けの企業説明会をメタバース上で開いたこともあります。500名の定員がすぐに埋まるほど好評でした」

スマホだけでメタバースの世界を体験

今年から本格的にバーチャルオフィス実験をスタートさせたコクヨでは、リアルなオフィスや店舗を再現するだけではなく、例えば文房具を模した空間をデザインするなどメタバースならではの要素をどう取り込んでいくかを模索している。

「アバター(自分の分身となるキャラクター)やロボットなどをバーチャル空間に出現させて、オフィスで会っているかのように会議をするのは可能です。ただ、重たいVRゴーグルを着けたまま2時間の会議ができるかというと、かなり疲れるのも確かです」(嶋倉さん)

そこで、凸版印刷に相談したところ「メタパ」を紹介された。

「メタパとは、誰でも気軽にスマートフォンだけで体験できるサービスです。アプリをダウンロードすれば、ゴーグルや機材がなくてもすぐに始められます」(名塚さん)

凸版印刷では、すでに仮想空間上にバーチャル店舗をショッピングモールのように集約したサービスを昨年末からスタート。リアル店舗とも連携してユーザーが店員に詳細を聞くなど、コミュニケーションを取りながらショッピングできると言う。

テレビ朝日も出店し「私もバーチャル接客を体験しました。メタバース空間で声をかけても人が集まってくるんです。楽しかったですよ」と、原田さん。

嶋倉さんは「メタバースでは重いゴーグルを使わなくてはならないと思い込んでいましたが、スマホ1つでも体験できることに大きな可能性を感じています」と、活用シーンが今後さらに広がっていくと期待している。

  • 「メタバース空間ではタレントとの距離が近く、拍手などの反応も早い」と言うテレビ朝日 原田裕生さん(インターネット・オブ・テレビジョンセンター)

職場のリアルなコミュニケーションはどうなる?

このようにアバター同士でコミュニケーションができ、空間・時間・身体的な制約という壁を越えるなどのメリットがあるメタバースは、まるで瞬間移動(テレポーテーション)しているかのような体感ツールだが、現時点でのデメリットはないのだろうか。

「どうしてもリアルで会っているような雰囲気は伝わらないですね。また嗅覚や触感などの再現性は高まっていますが、まだ味覚は感じられません」(名塚さん)

「リアルに顔を合わせることで、何となく伝わることってありますよね。これからは、メタバースの進化とともにリアルなコミュニケーション環境も大切になっていくと思っています。バーチャル空間でもできることは多くなっていくかもしれませんが、わざわざ会社へ行く、リアルなオフィスで話し合うという、文化のようなものは残っていくのではないでしょうか」と、嶋倉さんは感じていると言う。

社員全員が使えるようにならなければ、メタバース・オフィスは普及しないのかもしれないが、働く場所や働き方が急速に変わりつつあるのは確かのようだ。

宇宙ステーションで10時から会議だよ、という連絡がやってくる未来もそう遠くはないのかもしれない。