「塗炭の苦しみ」という表現を本などで見たことのある人もいるでしょう。
しかし、普段の会話ではあまり使われない言葉のため、言葉の意味や読み方がわからないという人も多いのではないでしょうか。
この記事では、「塗炭の苦しみ」の意味や、由来や語源となったできごと、類語や例文もご紹介します。ぜひ最後まで読んでみてくださいね。
「塗炭の苦しみ」の意味とは
「塗炭の苦しみ」とは、泥や火の中にいるような耐え難い苦痛をたとえた言葉です。「とたんのくるしみ」と読みます。
あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、苦痛を表す表現として知っておきましょう。
「塗炭の苦しみ」の由来・語源
なぜひどい苦痛を表すのに「塗炭の苦しみ」という言葉が使われるようになったのか、疑問に思った人もいるでしょう。ここからは「塗炭の苦しみ」の由来や語源をご紹介します。
「塗炭の苦しみ」は中国のできごとに由来
「塗炭の苦しみ」という言葉は、中国のできごとに由来している故事成語です。
「書経(しょきょう)」と呼ばれる経典の「仲虺の誥(ちゅうきのこう)」の一節に「塗炭の苦しみ」についての記述があります。「書経」とは、儒教の経典の一つです。
紀元前十数世紀頃の中国で、当時夏王朝(かおうちょう)から新しく殷王朝(いんおうちょう)へと変わった頃に、新しくできた殷王朝の大臣であった仲虺が書いたとされる文章が、「塗炭の苦しみ」のもとになっています。
仲虺は夏王朝を滅ぼし殷王朝を作ったことの理由として「有夏(ゆうか)は徳に昏(くら)くして、民は塗炭に墜(お)つ」と述べました。
「夏王朝は徳にかけていたため、民は泥や炭の中に落とされるかのような苦痛を味わった」という意味で、夏王朝を滅ぼした正当性を主張する際に、「塗炭の苦しみ」という表現が使われました。
「塗炭の苦しみ」の例文・使い方
「塗炭の苦しみ」について、実際の例文を交えながら使い方をご紹介します。使い方をマスターしておけば、文章や会話の中において、前後の文脈を踏まえてしっかりと意味を理解することができるでしょう。自分が使う時にも、違和感なくスムーズに使えるようになるために、ぜひ例文とともに使い方をチェックしてみてください。
- 自転車で坂道を勢いよく下っていたら転んでしまって、体中を打ち付けてすりむいてしまい、まるで塗炭の苦しみだった。
- 昔働いていた職場は、過酷な肉体労働で、夏の暑い日も一日中屋外での作業を強いられ、現場の監督も厳しく、塗炭の苦しみを味わうようなところだった。
- 当時貧しかった彼は、真夏でもクーラーのない家で一人必死に仕事を続け、塗炭の苦しみにも耐え抜いた結果、今がある。
「塗炭の苦しみ」は、日常会話の中ではあまり使う機会はないかもしれませんが、本などで出てきた時に文脈とともに意味を理解できるように、ぜひ使い方も覚えておきましょう。
「塗炭の苦しみ」の類語
「塗炭の苦しみ」の類語表現についてご紹介します。似た表現の言葉も覚えておけば語彙力アップにつながることでしょう。文章や会話の中で幅広い表現ができるようになるので、ぜひ類語表現もチェックしてみてくださいね。
「水火の苦しみ」
「水火の苦しみ(すいかのくるしみ)」は、水におぼれて火に焼かれるような激しい苦しみや痛みのことを表す表現です。
「水火」という言葉のみで「水におぼれて火に焼かれるような苦痛」を意味し、「水火も辞さない」といった形で使われることもあります。
「塗炭に墜つ」
「塗炭に墜(お)つ」はもともと、「塗炭の苦しみ」のもととなった「書経」に書かれていた表現です。「塗炭の苦しみ」と同じく、泥にまみれ火に焼かれるような激しい苦痛を意味します。
「塗炭の苦しみ」の英語表現
「塗炭の苦しみ」の英語表現を下記でご紹介します。
意味:塗炭の苦しみ
「misery」は苦痛や悲惨、不幸などを意味する言葉です。「great misery」は直訳すると「大きな苦痛」となるので、「塗炭の苦しみ」の意味合いを表現することができます。
「塗炭の苦しみ」の意味や由来を知って語彙力アップ
「塗炭の苦しみ」とは、激しい苦しみや耐えきれないような苦痛を表す言葉です。中国の「書経」に出てくる言葉で、庶民の苦しみを表現する言葉として使われたのが由来です。
「水火の苦しみ」「塗炭に墜つ」などの類語表現も合わせて覚えておけば、語彙も増えます。
たくさんの言葉や表現を覚えておけば、読書や普段の会話の中でも役立ちます。知らない言葉を見つけた時は、ぜひ類語などもあわせて学び、語彙力アップを目指しましょう。