この記事では「布石」の意味や使い方、類語などを解説します。さらに「伏線」との違いや英語表現なども紹介。ビジネスシーンでもよく使われる言葉ですので、ぜひ参考にしてみてください。
「布石」とは
まずは「布石」の基本的な意味を見ていきましょう。
「布石」の読み方
「布石」は、「ふせき」と読みます。共に音読みで、「布」は「フ」、「石」は「セキ」です。
ちなみに、訓読みで「ぬのいし」と読んだ場合は、「布敷石(ぬのしきいし)」という敷石を意味する建築用語となります。
「布石」の意味は
「布石」には、「囲碁の戦いの序盤において、要所要所へ石を配置すること」と「将来のために用意しておく備え」という、2つの意味があります。
囲碁用語としての「布石」は、先々、どのような構想を持って自分の碁を展開していくかの基礎となる、いわば土台作りを意味しています。これが一般化したのが後者の意味で、ビジネスシーンをはじめとして広く使用されています。「今回の解散総選挙は、政界再編の布石となるものだった」といった形で使います。
「布石」の使い方と例文
「布石」は、「将来のために用意しておく備え」などを意味する言葉です。次の「布石」の例文を参考に、正しく使えるようになりましょう。
例文
・今のうちに英語を習得しておけば、きっと就職のための布石になるよ
・思えば10年前の彼の独立は、現在の成功への布石となっていたのだろう
・将来の多角化戦略への布石として、今回の買収は重要な意味を持っています
・定年後の安定した生活への布石として、実はアパート経営を考えているんだ
・今回の合意は、新たな外交関係を築くための大きな布石となることでしょう
「布石を打つ」とは
「布石」を用いた言い回しとして、「布石を打つ」という表現をよく目にします。「先々を見越してあらかじめ備えておくこと、手段を講じておくこと」という意味で使われます。
・企業経営者であれば、事業拡張への布石は常に打っていかなければならない
「布石を敷く」や「布石を張る」は誤り
なお、上記と同様の意味で「布石を敷く」や「布石を張る」という言葉を見聞きすることがありますが、こちらは間違った表現です。おそらくは「布石」と「伏線(ふくせん)」とを混同し、「伏線を敷く」「伏線を張る」とすべきところを「布石を敷く」「布石を張る」としてしまったものと思われます。この「伏線」に関しては、次項で詳しく見ていきましょう。
「布石」と「伏線」の違い
「伏線」は「ふくせん」と読み、意味は「小説や戯曲などにおいて、後々の展開に備えて、関連する事柄を前の方であらかじめほのめかしておくことや、その事柄自体のこと」です。
特にミステリー小説などでよく見られる手法であり、作品のレビューなどで「まさかあのセリフが伏線だったとは思わなかった」などといった感想を目にしたことがある人も多いのではないでしょうか。「伏線を回収する」という言い方も、いまやすっかり一般的なものになっています。
また「伏線」には、「後々のことがうまくいくように、あらかじめそれとなく用意しておくことや、その事柄」という意味もあります。この場合の「伏線」は、「布石」の「将来のために用意しておく備え」に近い意味を持った表現となります。
このように「伏線」には「布石」に近い意味もありますが、「布石」には、「伏線」にある「ほのめかす」や「それとなく」といったニュアンスはありません。また、「伏線」が小説や戯曲、ドラマなどの創作物で多く使われるのに対して、「布石」は主に計画や事業、議論などを対象としているといった違いがあります。
さらに、先にも触れたように「布石」には「敷く」や「張る」ではなく、「打つ」を使用します。よく似た言葉である「布石」と「伏線」ですが、その違いをしっかりと把握し、きちんと使い分けができるようにしましょう。
「布石」の類語
「布石」には、「将来のために用意しておく備え」といった意味があります。
言葉の意味をより深く理解するためには、類語や言い換えを確認することも大切です。「布石」にも似た意味を持つ言葉がありますので、いくつかご紹介しましょう。
準備(じゅんび)
意味は「物事を行う前に、必要なものをそろえるなどして用意すること」です。「部長、会議の準備が整いました」などといった形で使用します。
対策(たいさく)
「物事に対応するための手段や方法」を意味します。「対策する」「対策を立てる」「対策を講じる」など、さまざまな形で使用される言葉です。例文としては「プレゼンテーション成功のための対策を練る」などとなります。
予防(よぼう)
「悪い事態が起こらないように、事前に防ぐこと」という意味です。使い方は「ウイルス感染の拡大を予防する」などとなります。なお予防のために講じる策のことを、「予防策」と言います。
示唆(しさ)
「それとなくほのめかすこと、知らせること」という意味です。例文としては「その政治評論家は、政権交代の可能性を示唆した」などとなります。どちらかというと、前述の「伏線」にも近い言葉と言えるでしょう。
捨て石(すていし)
「布石」同様、囲碁で用いられる言葉です。「自分の形勢を有利にするため、わざと相手に取らせるように打つ石」から転じて、「大きな目的や先々のために、その場では無駄とも見える物事をあえて行うこと」という意味を持っています。
「布石」の英語表現と例文
「布石」は、「将来のために用意しておく備え」などを表す言葉です。
「布石」を表す英語は、「preparation」などがあります。「布石を打つ」は「preparation」の動詞である「prepare」を用いた「prepare for」のほか、「take measures」などが挙げられます。文脈やシチュエーションなど考慮しつつ、適切なものを選びましょう。
prepare for
「prepare for」は、「備える、準備する、用意する」などを意味する言葉です。
(彼はこういった事態への準備をずっとしてきていた)
take measures
「take measures」は、「対策をとる、策を講じる、施策を打つ」などの意味がある言葉です。
(私たちは地球温暖化への対策を講じなければなりません)
「布石」以外の囲碁用語
囲碁用語から派生して日常的にも使われるようになったという言葉は、「布石」や類語で紹介した「捨て石」のほかにもあります。あわせてご紹介しましょう。
定石(じょうせき)
「定石」は、もともとの「囲碁において、昔から研究されていて最善とされる、決まった石の打ち方」から転じて、「物事を行う際の、最上とされる方法や手順」という意味で使われるようになりました。「定石」「布石」のどちらも、碁石を意味する「石」の字が使われていることも共通していますね。
先手(せんて)
「先手」は、囲碁や将棋の用語として、「相手より先に打ち始めること」や、「相手が応手するべき局面で、先んじて打つこと」などの意味があります。転じて、「他者より先に始めること、先回りにより自分の立場を有利にすること」を表す言葉でもあります。対義語は「後手(ごて)」です。
「布石」の意味を知って正しく使おう
「布石」は、「将来のために用意しておく備え」を表す言葉です。
囲碁用語から転じた表現ですが、現在では一般的にも広く使われています。ビジネスシーンにおいても「布石」は、仕事を進める上での将来への備えとして、とても大切な考え方となります。
起こりうるアクシデントや将来におけるリスクを想定し、それらに対応する手段をあらかじめ講じておく。この「布石を打つ」ということは、ビジネスにおいて極めて重要です。
「布石」は、会議やミーティング、プレゼンテーションの場などで頻出する言葉の一つです。皆さんもこの記事を参考に、「布石」という表現を正しく使いこなしてみてください。